JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成23年2月21日

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)

東京大学
Tel:03-5841-1790(工学部 広報室)

慶應義塾大学
Tel:03-5427-1541(広報室)

飛躍的にエラーを削減するSSDメモリの開発に成功

−世界最速・毎秒12ギガビットの非接触インタフェースも実現−

JST 課題解決型基礎研究の一環として、東京大学 大学院工学系研究科の竹内 健 准教授、慶應義塾大学 理工学部の黒田 忠広 教授と石黒 仁揮(イシクロ ヒロキ) 准教授らの研究チームは、非接触型のソリッド・ステート・ドライブ(SSD)メモリ注1)の研究開発において、エラーを飛躍的に削減し、電力を半減以下にするデータ変調技術と、伝送線路結合を用いた世界最速の非接触インタフェースを世界で初めて開発しました。

現在、PCや携帯電話などに幅広く使われているフラッシュ・メモリ注2)を内蔵したSSDメモリは、今後さらに高信頼化が必要なデータセンター・サーバーなどへの応用が期待されていますが、長期間の使用では誤動作が生じたり、電力が大きくなる問題がありました。また、従来の磁界結合を用いた通信方式では非接触メモリカード注3)の高速伝送が困難でした。

本CRESTチームは、SSDメモリに搭載するメモリコントローラー内で、フラッシュ・メモリに書き込むデータを変調することにより問題を解決し、エラーを95%削減することによって信頼性を向上し、43%の低電力化を実現しました。また、磁界と電界の結合を用いた伝送線路結合素子を世界で初めて近接通信に用いて、毎秒12ギガビットの通信実験に成功しました。

今回提案する世界初のデータ変調技術と伝送線路結合通信素子は、日本が強みを持つSSD技術を飛躍的に高信頼化・高速化する技術であり、今後スマートフォンからデータセンターまで社会のさまざまな機器にSSDを浸透させる可能性を秘めた革新的技術です。

本研究成果は、2011年2月20日から24日(米国西部時間)に米国・サンフランシスコで開催される「国際固体素子回路会議(ISSCC 2011)」で発表されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」
(研究総括:浅井 彰二郎 株式会社 リガク 取締役副社長)
研究課題名 「ディペンダブル ワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)」
研究代表者 竹内 健(東京大学 大学院工学系研究科 准教授)
研究期間 平成21年10月〜平成27年3月

JSTはこの領域で、VLSIシステムの高信頼・高安全性を保証するための基盤技術の研究開発を推進しています。上記研究課題では、1mmの通信距離で毎秒10ギガビットの超高速無線通信・給電機能を持ち、かつ、信頼性・安全性の高いワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)およびホストシステムの実現を目指し研究を進めています。

<研究の背景と経緯>

今日、携帯電話やデジタルカメラなどの携帯機器にはフラッシュ・メモリを記憶媒体としたSSDが使われています。東京大学と慶應義塾大学のグループはこれまで、高速なデータ通信を行い、防水機能を備え、接触不良や、動作中の誤った抜き差しなど利用者の誤使用、人体との接触による静電気破壊、使用に伴う劣化に対して高い信頼性・安全性も確保する非接触SSDを提案してきました。こうしたSSDは今後、パソコンやデータセンターのサーバーなどさまざまな電子機器に使用されることも期待されていますが、使用を重ねるにつれてメモリが不良化する、電力が大きいという問題がありました。一方で(メモリの使用に伴う物理的劣化を抑制する)非接触SSDの通信方式として、コイルの磁界結合を用いた近接通信の非接触インタフェースが研究されてきました。この方法の場合、一対のコイルで毎秒2.5ギガビットの通信ができましたが、高速化のためにコイルの数を増やすと、コイルとチップを接続する配線が長くなり、信号が反射して高速伝送が困難になるという問題がありました。

<研究の内容>

今回、東京大学のグループは非接触SSDのメモリの信頼性向上技術や低電力技術(図1論文(1)参照)を、慶應義塾大学のグループは非接触SSDとホスト機器間のインタフェースの高速化技術(図2論文(2)参照)を開発しました。

東京大学のグループは、SSDに搭載するメモリコントローラー内で、フラッシュ・メモリに書き込むデータを変調することにより、エラーを95%削減して信頼性の向上を図るとともに、43%の低電力化を実現しました。開発した技術により、低電力でかつ耐久性に優れたディペンダブルなSSDを実現することができます。今後もフラッシュ・メモリの微細化が進みますが、その結果としてメモリの信頼性が下がり、消費電力が増加に直面することになります。今回提案するメモリを使いこなすシステム技術や信号処理技術は、こうした問題を克服する重要な解決手段となるものです。

一方、慶應義塾大学のグループは、電界と磁界の結合を用いた伝送線路結合を世界で初めて近接通信に用い、毎秒12ギガビットの通信実験に成功しました。これにより配線が長くなっても線路に生じる抵抗(インピーダンス)を制御して信号の反射を防ぐことができ、上限の制約なく結合数に応じて通信を高速化できます。また、同技術によれば磁界結合を用いた無線給電との干渉を小さくできるため、非接触メモリカードのディペンダビリティを向上できます。

<今後の展開>

SSDは日本が強みを持つ技術です。今回開発された技術は、そのSSDを飛躍的に高信頼化、高速化するものです。研究チームは今後、SSDの信頼性をより一層高めるシステムを確立し、スマートフォンからデータセンターまで社会に浸透しているさまざまな機器に実装されるSSDの開発を目指します。また、伝送線路結合は新規研究領域で大きく発展する可能性を秘めています。学術基盤を構築した上で、多様な電子システムへの実用化を合わせて目指します。

<参考図>

図1

図1 東京大学によるメモリの高速化技術(論文(1))

  • 上段左図: 今回開発したSSDの写真
  • 上段右図: 提案する、非対称符号、ストライプパターン除去アルゴリズムを備えた、SSDの構成図
     SSDに搭載されているフラッシュ・メモリでは、半導体素子から電子が漏れ出る現象により“0信号”が“1信号”に変わるというエラーが多く発生します。提案する非対称符号ではSSDに書き込むデータの中で、予め“1信号”の数を増やしておくことにより上記現象を回避できSSDのメモリのエラーを95%削減します。消費電力に関しては、従来のSSDでは書き込むデータが“1”と“0”を交互に繰り返すカラムストライプパターンでは最も電力を消費します。提案するストライプパターン除去アルゴリズムではSSDに書き込むデータからカラムストライプパターンを除去することでSSDの消費電力を43%低減します。
  • 下段左図: SSDのメモリのエラーの実測結果
     提案する非対称符号により、SSDのエラーを95%削減することが確認できました。
  • 下段右図: SSDの消費電力の実測波形
     提案するストライプパターン除去アルゴリズムにより、SSDの消費電力を43%低減することが確認できました。
図2

図2 慶應義塾大学による世界最高速の非接触インタフェース(論文(2))

  • 上段左図: コイルの磁界結合を用いた従来の磁界結合インタフェース(Inductive−Coupling Link)と、今回世界で初めて開発に成功した伝送線路結合による電界と磁界の結合を用いた伝送線路結合インタフェース(Coupled Transmission Line:CTL)の概念図(左図)と周波数特性(右図)です。CTLでは10ギガヘルツ以上の広帯域な通信路が実現できました。
  • 上段右図: 90nm CMOS技術で今回開発した送受信器のICチップ(左図)と、フレキシブルプリント基板上に製造した伝送線路結合器(右図)。通信距離は1mmです。
  • 下段左図: データ伝送時の信号実測波形。毎秒12ギガビットの転送速度で通信したとき、ビット誤り率(Bit Error Rate:BER)は10−13以下でした(つまり1ビットも誤らずに10兆ビット以上を伝送できました)。
  • 下段右図: 電力伝送用コイル(Power Link Coil)の磁界結合を用いて無線給電しながら、伝送線路結合器(CTL)で毎秒12ギガビットの転送速度でデータ伝送できることが確認できました。無線給電をしている時(グラフの黒色線:Power Link ON)と、していない時(グラフの灰色線:Power Link OFF)で比較して、受信タイミング(X軸)を変えた時のビット誤り率(Y軸)がほとんど変わらないことから、無線給電の影響が非常に小さいことを確認できました。
図3

補足図面 非接触メモリカードが切り開くアプリケーション

  • 左図: 高信頼な非接触メモリカード
     提案する非接触カードは高速なデータ通信だけでなく、防水機能を備え、接触不良や、動作中の誤った抜き差しなど利用者の誤使用、人体との接触による静電気破壊、使用に伴う劣化に高い信頼性・安全性も確保します。
  • 右図: 非接触メモリカードが切り開く新しいアプリケーション
     メモリカードを携帯電話やテレビ、車、パソコン、音楽機器、デジタルカメラ、ビデオカメラと接触することで、あらゆる機器が“マイPC”として使えるようになります。

<用語解説>

注1) ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)メモリ
SSDは記憶媒体としてフラッシュ・メモリを用いるドライブ装置で、ハードディスクの代替として広く利用されている。機械的に駆動する部品がないため、高速に読み書きでき、消費電力も少なく衝撃にも強い。このため、頻繁にアクセスされるプログラムやデータをSSDに保存する用途で現在幅広く使われている。
注2) フラッシュ・メモリ
データの一括消去を特徴とする、電気的にデータの読み書きが可能で、電源を切ってもデータが消えない半導体記憶装置。
注3) メモリカード
ここで言うメモリカードとは、大容量のフラッシュ・メモリを、ハードディスクドライブの代わりに記憶媒体として用いるSSDのこと。

<論文名>

(1) “95%-Lower-BER 43%-Lower-Power Intelligent Solid-State Drive (SSD) with Asymmetric Coding and Stripe Pattern Elimination Algorithm”
(非対称符号、ストライプパターン除去アルゴリズムを備えた、不良率を95%低減、電力を43%低減したソリッド・ステート・ドライブ(SSD))

(2) “A 12Gb/s Non-Contact Interface with Coupled Transmission Lines”
(結合伝送線路を用いた毎秒12ギガビットの非接触インタフェース)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

竹内 健(タケウチ ケン)
東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1 工学部2号館12階122A3号室
Tel:03-5841-6672
E-mail:
研究室ホームページ:http://www.lsi.t.u-tokyo.ac.jp

黒田 忠広(クロダ タダヒロ)
慶應義塾大学 理工学部 電子工学科 教授
〒223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉3−14−1
Tel/Fax:045-566-1534(ダイヤルイン)
E-mail:
研究室ホームページ:http://www.kuroda.elec.keio.ac.jp

<JSTの事業に関すること>

長田 直樹(ナガタ ナオキ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail:

<慶應義塾 報道担当>

慶應義塾 広報室 担当:山口(ヤマグチ)・久保(クボ)
〒108-8345 東京都港区三田2−15−45
Tel:03-5427-1541 Fax:03-5441-7640
E-mail: