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平成23年1月10日

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代表的な光ディスク材料の記録の仕組みの違いを原子レベルで解明

−次世代材料開発を加速する基礎的知見を提供−

JST 課題解決型基礎研究の一環として、理化学研究所 放射光科学総合研究センターの高田 昌樹 主任研究員、パナソニック 株式会社の松永 利之 主任技師、同社の山田 昇 総括担当参事らは、書き換え型のDVDやBlu−ray DiscTM(BD)において実用材料として使われている代表的な2種類の注1)変化材料「GeSbTe(ゲルマニウムアンチモンテルル)」と「AgInSbTe(銀インジウムアンチモンテルル)」における結晶化過程の特徴的な相違が、結晶相とアモルファス注2)相の原子配列の差異、その組み換え機構の差異に起因することを、原子レベルの解析実験と理論の両面から解明することに世界で初めて成功しました。

現在、デジタルハイビジョン放送やデジタルビデオカメラの高画質映像を記録する大容量の記録媒体としてBDが急速に普及していますが、将来に向けて、さらなる高画質映像や長時間記録を実現していくためには、速度的にも密度的にも記録材料の性能限界にチャレンジする必要があります。しかし、GeSbTeとAgInSbTeいずれにおいても書き換えの仕組みは仮説段階にとどまり、材料開発に重要な知見が得られる原子レベルでの実証解明には至っていませんでした。

本研究グループは、2008年にGeSbTeとAgInSbTeの2種類の実用材料について大型放射光施設SPring−8注3)ピンポイント構造計測注4)を実施し、書き換えに伴う材料の記録相(アモルファス相)と未記録相(結晶相)との間の相変化において、両者はナノ秒(10億分の1秒)の時間スケールで明らかに異なるプロセスを示すということを見いだしましたが、原子レベルでの構造解明にまでは至っていませんでした。そこで今回、SPring−8のビームラインを用いて高エネルギーX線回折注5)X線吸収微細構造(XAFS)注6)硬X線光電子分光注7)の放射光実験データをベースに、ドイツのユーリッヒ総合研究機構のスーパーコンピューターを用いてフィンランドのタンペレ工科大学の理論シミュレーションを加え原子配列・電子構造の総合的な解析を試みました。その結果、GeSbTeではアモルファス相中に結晶相での原子結合に類似した微細構造が多く含まれ、それが多発的な結晶核を生成するという特徴を持つのに対して、AgInSbTeのアモルファス相と結晶相は、基本構造が共通している原子配列を持っており、その一部の特定の原子結合が変化すると雪崩のように再配列が進行するという特徴が見られました。この2つの材料解析から材料組成と結晶化過程の関係が原子レベルで明らかになりました。

この2種類の実用材料の書き換えの仕組みを原子レベルで完全に解明したことは、相変化記録材料の設計指針を提供し、新たな材料開発を加速させるものと期待されます。

本研究は、高輝度光科学研究センター(JASRI)、物質・材料研究機構、タンペレ工科大学、ユーリッヒ総合研究機構の協力のもとに行われました。

本研究成果は、2011年1月9日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

(1)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」
(研究総括:田中 通義 東北大学 名誉教授)
研究課題名 「反応現象のX線ピンポイント構造計測」
研究代表者 高田 昌樹(理化学研究所 放射光科学総合研究センター 主任研究員)
研究期間 平成16年10月〜平成22年3月

JSTはこの領域で、物質や材料に関する科学技術の発展の原動力である新原理の探索、新現象の発見と解明に資する新たな計測・分析に関する基盤的な技術の創出を目指しています。上記研究課題では大型放射光施設SPring−8の高輝度放射光X線を用いた時分割構造ピンポイント計測技術の開発とその物質現象の解明に取り組んできました。


(2)戦略的国際科学技術協力推進事業「日本−フィンランド研究交流」

研究領域 「機能性材料」
研究課題名 「大規模分子動力学シミュレーションと放射光X線を用いた高速相変化材料の構造解析および新規材料設計」
日本側研究代表者 小原 真司(JASRI 利用研究促進部門 副主幹研究員)
フィンランド側研究代表者 ジャーコ・アコラ(タンペレ工科大学 物理学研究科 特別研究員)
研究期間 平成21年4月〜平成24年3月

JSTは、この領域における日本とフィンランドの研究交流を強化することにより、革新的な科学技術につながる国際的な研究成果を実現することを目指しています。上記研究課題では大型放射光施設SPring−8の高輝度放射光X線回折実験と大規模分子動力学シミュレーションを用いて、高速相変化記憶材料の動作メカニズムを明らかにし、得られた知見を新規材料開発にフィードバックさせることに取り組んでいます。

<研究の背景と経緯>

DVDやBDといった書き換え型相変化光ディスクは長期保存性に優れた大容量のデータ記録媒体としてデジタル情報が溢れる現代には欠かせないメモリ媒体であり、家電機器やOA機器などに広く普及しています。さらに、今後も爆発的に増大するデジタル情報の処理や蓄積に必要なエネルギーを低減し、低炭素化社会実現に貢献するためには、低エネルギー消費かつ超大容量の光メモリ媒体が最適と考えられ、これら相変化メカニズムを利用した光記録媒体のさらなる進化、発展が重要と考えられます。

書き換え型相変化光ディスクではGeSbTe系やAgInSbTe系に代表される相変化材料で構成される薄膜層にサブミクロン(1万分の1)サイズの微小スポットに絞り込んだレーザー照射を行うことで、薄膜内部の原子配列を可逆的に変化させ、その際に生じる状態間の光学的反射率差を利用して情報の記録再生や書き換えを行います。

「記録」を行う場合は、原子が規則正しく配列した状態(結晶相)にある薄膜層に強いレーザー光を瞬時照射しますが、その際、照射部の薄膜材料は原子配列が大きく乱れる液体状態を瞬間的に経由して、そこから超急冷されることになり、局所的に液体での乱れた原子配列が室温で凍結された状態(アモルファス相)となる現象を利用しています。記録した情報を「再生」する際は、アモルファス相が結晶化しない程度のパワーでレーザー照射し、結晶相からとアモルファス相からの反射光強度の変化として検出します。一方、「消去」する場合は、アモルファス相が融解しない程度のパワーでレーザー照射し、原子の動きを活発にしてから再配列を容易にさせることでメモリ薄膜層を結晶化させます。この結晶→液体→アモルファス→結晶の相変化のサイクルを繰り返すことにより、書き換え可能なDVDやBDは動作しています。最もよく研究されている相変化材料のGeSbTeやAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7は、アモルファス相から結晶相への相変化を生じさせるのに必要なレーザー照射時間が数10ナノ秒(1億分の数秒)と極めて短いため、高速記録・消去が可能であり、しかも上記アモルファス相が室温において長く安定するため、長期保存も可能であるという書き換え型の不揮発メモリに必要な2つの特性を兼備しています。

これらの材料が示す優れた特性に関して、これまで、書き換え速度、特に消去速度(結晶化速度)を支配する因子については多くの研究が行われてきました。その結果、アモルファス相にある記録マークが結晶化する際、GeSbTeでは記録マーク内部に多数の結晶核が発生し、それらの核を中心に結晶化がマーク全体に広がるのに対して、Ag3.5In3.8Sb75.0Te17.7ではアモルファス相の記録マークとその周囲の結晶相の境界面から記録マーク内部に向かって連鎖的に起こる(図1)ことが知られていました。しかし、なぜこの2種類の材料の書き換えの仕組みに違いが起こるかは、原子レベルで分かっておらず、今後の相変化記録材料の開発指針を得るためには明らかにしなければならない重要な課題でした。

<研究の内容>

本研究グループは、上記2種類の相変化材料が示す異なった書き換えの仕組みを原子レベルで詳細に解明するために、SPring−8において「反応現象を短時間、極小空間、極限環境で測定できるX線ピンポイント構造計測」システムを構築し、2008年にナノ秒(10億分の1秒)時間スケールで起こる消去プロセスに対応するアモルファス−結晶相変化過程のリアルタイム観察を試み、その結晶化過程がGeSbTeとAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7において原子レベルで異なっているという実験的事実を世界で初めて発見しました。そして当時、構造研究が盛んに行われていたGeSbTeのアモルファス構造の解析を試み、その高速結晶化(消去速度)の起源となる構造的特徴を明らかにしましたが、原子レベルでのGeSbTeとAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7の結晶化過程の詳細を明らかにするには至りませんでした。

そこで今回、すでに実用されていながらGeSbTeに比べて研究例が極めて少ないAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7のアモルファス構造と結晶化(記録の消去)過程を完全に理解すること、そしてGeSbTeとAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7の結晶化の仕組みの違いを原子レベルで明らかにすることを試みました。まず、原子レベルの構造理解に必要な原子配列・電子状態を調べるために、SPring−8のビームラインBL04B2で高エネルギーX線回折、BL14B2でXAFS、BL47XUで硬X線光電子分光の実験を行いました。また、これらの実験結果を詳細に理解するために、物質の原子配列・電子状態およびそのダイナミクスを計算できる理論計算である大規模密度汎関数(DF)−分子動力学(MD)シミュレーションをユーリッヒ総合研究機構のスーパーコンピューターを用いて行いました。すなわち、主要元素(SbとTe)が共通する、2つの相変化材料の記録・消去の仕組みが異なる理由は、以下に述べるような最先端の放射光実験とコンピューターシミュレーションを組み合わせることで初めて明らかになりました。

GeSbTeのアモルファス相には、4つの原子から構成されたリング(4員環)と6つの原子から構成されたリング(6員環)が多く存在する(図2a)のに対し、Ag3.5In3.8Sb75.0Te17.7にはさまざまなリングが存在することを明らかにしました(図2d)。GeSbTeの4員環と6員環の微細構造は、その結晶中の原子配列と共通していますが、これらが結晶化の核となり、核の周りで新たな結合が生まれ(図2b)、結晶化、すなわち記録の消去が行われます(図2c)。一方、Ag3.5In3.8Sb75.0Te17.7のアモルファス相では、図2fに示すように、原子同士は3つの短い結合(赤色)と3つの長い結合(水色)を持っていることを明らかにしました。この原子構造は結晶相中での原子構造と極めて類似しており、わずかな原子移動でこの短い結合から長い結合へのスイッチが生じ、原子が再配列しながら結晶化が進行します。これが高速相変化(図2dから図2e)の起源であり、このスイッチ移動は連鎖的に起こると結論づけられました。

以上のように、主要元素(SbとTe)が共通する2種類のDVD材料間の比較の結果、GeSbTeではアモルファス相に存在する数原子の範囲で結晶相と同じ原子配列を保った領域が原子の移動により結合していき、規則的な原子配列の結晶領域を広げて結晶化(記録の消去)が起こるのに対して、Ag3.5In3.8Sb75.0Te17.7ではアモルファス相と結晶相間での原子配列の変化はわずかで、近接の結合状態のスイッチ的交換に起因する原子の再配列により結晶化(記録の消去)が起こるという大きな違いが明らかになりました。また、今回の研究により、2008年に本研究グループが観測した実験事実を原子レベルで説明することができました。

<今後の展開>

現在、実用DVD材料(相変化材料)の基本材料となっているGeSbTeとAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7には共通して主にSbとTeが用いられており、この2つの材料が書き換え型DVDやBDの基本構成元素といっても過言ではありません。しかし、この2つの材料のアモルファス構造や書き換えメカニズムは、原子レベルで大きく異なっていることが今回の研究から明らかになりました。本研究成果は、構成元素の比率の違いがアモルファス構造の差異を生み、それがアモルファス相から結晶相、あるいは結晶相からアモルファス相への状態変化、すなわち、記録・消去の仕組みにまで影響することを示すとともに、SbやTeをベースにした高速で大容量な記録材料としての多様性を示すものでもあります。今後、これらの原子レベルでの記録・消去の仕組みの理解をもとに、来るべき低炭素社会に適合する次世代の相変化光ストレージに向けて、より小さなエネルギーでより高速書き換えが可能な相変化記録材料の開発が急速に進展するものと期待されます。

<参考図>

図1

図1 実用DVD材料であるGeSbTeとAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7

図2

図2 GeSbTeとAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7の結晶化(記録の消去)過程

<用語解説>

注1)
物質の状態のこと。例えば、液体は液相、気体は気相と呼ばれる。
注2) アモルファス
結晶のような三次元的に規則正しい原子配列を持たない固体物質のこと。非晶質とも呼ばれる。
注3) 大型放射光施設SPring−8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その管理運営はJASRIが行っている。SPring−8の名前は、uper hoton ring−8GeVに由来する。ほぼ光速で進む電子が、その進行方向を磁石などによって変えられると接線方向に電磁波が発生する。これが「放射光(シンクロトロン放射)」と呼ばれるものであり、電子のエネルギーが高く進む方向の変化が大きいほど、X線などの短い波長の光を含むようになる。特に第三世代の大型放射光施設と呼ばれるものには、世界にSPring−8、アメリカのAPS、フランスのESRFの3つがある。SPring−8による電子の加速エネルギー(80億電子ボルト)の場合、遠赤外から可視光線、真空紫外、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができ、国内外の研究者の共同利用施設として、物質科学・地球科学・生命科学・環境科学・産業利用などの幅広い分野で利用されている。
注4) ピンポイント構造計測
短時間(時間分解能40ps)・極小空間(空間分解能サブ100nm)・極限環境(強光励起下、電場下、高圧下、デバイスの動作時など)全てを同時に満たす構造計測技術を指す。SPring−8の高輝度放射光源を最大限に活用し、ナノ物質・材料の研究・開発分野におけるさまざまな環境下での動的応答の構造評価手法として開発が進められた。
注5) 高エネルギーX線回折
X線は波長の短い電磁波であることから、波長と同程度の繰り返し単位を持つものによって回折現象を示す。これによって結晶をはじめとする物質の構造決定が可能となった。SPring−8では非常に波長の短い、すなわち高エネルギーのX線を発生することができるため、通常の実験室X線回折装置では得られない高精度の実験データを得られる。
注6) X線吸収微細構造(XAFS)
全ての原子は、吸収係数が急激に大きくなる特定のエネルギーを持っている。これを吸収端と呼び、吸収端より高エネルギー側に現れる吸収微細構造を分光することによって、原子の電子状態や局所構造に関する情報が得られる。測定対象になる物質は、気体・固体・液体など幅広く、SPring−8のような広いエネルギー領域で高強度のX線が得られる光源の利用がもっとも有効である。
注7) 硬X線光電子分光
光電子分光は物質に一定エネルギーのX線を当て、光電効果によって外に飛び出してきた電子のエネルギーを測定し、固体の電子状態を調べる方法。硬X線を使うことで、半導体や金属などの本質的な電子状態や化学結合状態を表面の影響を受けずに測定できる。

<論文名および著者名>

“From local structure to nanosecond recrystallization dynamics in AgInSbTe phase-change materials”
(AgInSbTe相変化材料における局所構造変化によるナノ秒相変化のダイナミクス)
doi: 10.1038/nmat2931
松永 利之、Jaakko Akola、小原 真司、本間 徹生、小林 啓介、池永 英司、Robert O. Jones、山田 昇、高田 昌樹、児島 理恵

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

高田 昌樹(タカタ マサキ)
理化学研究所 放射光科学総合研究センター 主任研究員
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1−1−1
Tel:0791-58-2942 Fax:0791-58-2717
E-mail:

山田 昇(ヤマダ ノボル)
パナソニック 株式会社 総括担当参事
〒570-8501 大阪府守口市八雲中町3丁目1番1号
Tel:06-6906-4841 Fax:06-6904-6175
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

長田 直樹(ナガタ ナオキ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
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<SPring−8に関すること>

高輝度光科学研究センター 広報室
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