東北大学 大学院理学研究科の岩井 伸一郎 教授、自然科学研究機構 分子科学研究所の米満 賢治 准教授、山本 薫 博士、東北大学金属材料研究所の佐々木 孝彦 教授らのグループは、光の照射によって、有機物質の色や電気伝導度が大きく変化する現象(光誘起相転移現象注1))の、最初の瞬間を捉えることに成功しました。
本研究成果は、平成22年12月3日(米国東部時間)発行(予定)の米国物理学会誌「Physical Review Letters」に受理され、オンライン版で近日中に公開されます。
平成22年11月17日
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東北大学 大学院理学研究科の岩井 伸一郎 教授、自然科学研究機構 分子科学研究所の米満 賢治 准教授、山本 薫 博士、東北大学金属材料研究所の佐々木 孝彦 教授らのグループは、光の照射によって、有機物質の色や電気伝導度が大きく変化する現象(光誘起相転移現象注1))の、最初の瞬間を捉えることに成功しました。
本研究成果は、平成22年12月3日(米国東部時間)発行(予定)の米国物理学会誌「Physical Review Letters」に受理され、オンライン版で近日中に公開されます。
ごく最近、電荷秩序絶縁体注2)と呼ばれる有機物質において、光誘起相転移をはじめとする、通常の半導体では見られない非線形な光、電場応答(光や電場の大きさを変化させたとき、その応答が、比例関係から予想されるよりも大きく増大すること)が相次いで報告されています。電荷秩序絶縁体は、電子間に働くクーロン反発注3)によってその運動が凍結した、電子の結晶(ウィグナー結晶注4))とも言うべきものです。光誘起相転移などの非線形現象は、このような“電子の氷”に特有の光応答であって、凍結した電子(=絶縁体、図1(a))が、光照射によって融解し、動きやすくなる(=金属、図1(b))ことが関係していると考えられています。“電子の氷”(=電荷秩序)は、わずかな温度や圧力の変化によって常伝導-超伝導転移や強誘電-常誘電転移などを起こすことが報告あるいは示唆されています。従って、その光融解は、絶縁体から金属への転移だけではなく、より機能的な物性の光制御を実現する可能性をも秘めています。しかし、この現象はあまりにも高速に起こるため、光がどのように電子状態を変化させ、相転移を引き起こすのか、という最も基本的な疑問が解かれていませんでした。
光は、電場(と磁場)の振動であることが知られています。本研究では、その振動の3周期分に匹敵する極めて短いパルス光(波長1.5ミクロン、パルス幅12フェムト秒;1フェムト秒は、1000兆分の1秒。図2;パルスの発生装置の概観)を用いたポンププローブ分光注5)によって、二次元有機物質(α-(BEDT-TTF)2I3、BEDT-TTF=ビスエチレンジシオテトラシアフルバレンの略)における電荷秩序の融解のダイナミクス、すなわち、“電子の氷”が光によってどのように解け、絶縁体から金属へと変化するのか?という問題を明らかにしました。
絶縁体から金属への変化は、大きな反射率の増加を伴います。図3は、絶縁体から金属への転移を表す反射率変化の時間変化(図3(a))と、電子や原子の運動を反映する振動成分(図3(b))です。図4に示した振動成分のスペクトログラム(=振動数の時間経過に伴う変化)から、以下のように、電子の氷が光によって駆動された凍結電子の振動によって融解し始める様子がわかりました。
本研究では、このような電子による相転移現象を、“光の振動数のひとゆれ”にも迫る究極的短時間でスナップショット観測することに初めて成功しました。
本研究で観測された、光誘起相転移へとつながるコヒーレントな電子や原子の振動は、物質のより精密な操作への道を拓くと期待されます。分子の光化学反応が、コヒーレント制御注6)と呼ばれる方法によって光操作されていることはよく知られています。この方法では、フェムト秒パルス列によって物質に生成された、電子や原子の振動を互いに干渉させることによって光化学反応の効率を制御できます。これまで、光誘起相転移のコヒーレント制御ができなかった理由は、初期過程が複雑かつ高速であるため、制御するべき電子や原子の振動数がわからなかったことにあります。本研究によって、光誘起相転移へとつながる電子や原子の振動数が明らかになった今、光誘起相転移のコヒーレント制御も可能になります。コヒーレント制御によって、超高速光スイッチングデバイスへの応用に向けた光転移効率の増大や、光誘起超伝導などの新規な光相転移の実現も期待できます。
本成果は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」研究領域における研究課題「先端超短パルス光源による光誘起相転移現象の素過程の解明」(研究代表者:岩井 伸一郎)によって得られたものです。
“Early-stage dynamics of light-matter interaction leading to the insulator-to-metal transition in a charge ordered organic crystal”
(有機電荷秩序結晶における光と物質の相互作用の初期過程)
Y. Kawakami, T. Fukatsu, Y. Sakurai, H. Unno, H. Itoh, *S. Iwai, T. Sasaki, K. Yamamoto, and K. Yonemitsu(*corresponding author)
doi: 10.1103/PhysRevLett.105.246402
岩井 伸一郎(イワイ シンイチロウ)
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米満 賢治(ヨネミツ ケンジ)
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