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平成22年11月15日

大阪大学
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分子間の特異的な相互作用による新規材料集積法を開発

−分子が好みの分子を見分けて接着

大阪大学 大学院理学研究科の原田 明 教授らは、ホスト分子とゲスト分子をそれぞれ固定したゲルを作製し、これらのゲルがホスト−ゲスト相互作用の強さに応じて特異的に接着する新しいシステムを世界で初めて開発しました。

分子認識に基づいてミリメートルからセンチメートルに達するマクロスケールで構造体を自己組織化する方法です。

本研究成果は2010年11月14日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Chemistry」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」
(研究総括:入江 正浩 立教大学 理学部 教授)
研究課題名 「自己組織化超分子ポリマーの動的機能化」
研究代表者 原田 明(大阪大学 大学院理学研究科 教授)
研究期間 平成20年10月〜平成26年3月

JSTはこの領域で、自己組織化に代表される従来のボトムアッププロセスに、分子レベルでの精緻な機能を利用して自己構造化や自己修復などの新たな手法を取り込んで一段の高度化を図ることによって新規高機能ナノ構造体の創出を目指しています。

上記研究課題では、ホスト分子としてシクロデキストリンや光応答タンパク質、抗体分子を、ゲスト分子として光や酸化還元応答性を有する分子を用いて、そのホストーゲスト相互作用を利用してさまざまな自己組織化超分子ポリマー構造体を作り、マクロスケール(リアルワールド)での機能発現を目的に研究を展開しています。

<研究の背景と経緯>

生体系ではDNAにおける相補的な核酸塩基対形成や酵素による基質認識、抗原−抗体反応など、「分子認識」が重要な役割を果たしています。近年、分子認識を利用して分子と分子を非共有結合でつなげることによりさまざまな超分子錯体が合成され、さらにこれらを自己集合させる研究が行われています。しかし、これらの研究において形成される集合体は分子の大きさであるナノメートルからマイクロメートルの極めて小さなものでした。これらの集合体は高倍率の顕微鏡を使わなければ見えません。分子認識に基づいて手軽に使えるくらいの大きな自己組織体を作り出すことは、ナノテクノロジー分野において、分子を自己組織化させて機能性材料を創製する上で重要な課題です。私たちの目で直接見ることのできる大きさのレベルで「分子認識」の挙動を観察し、さらにこの「分子認識」を利用して大きな物体を接着させたり、ときには離したりできるシステムの実現が望まれていました。

<研究の内容>

本研究グループは、ホスト分子としてシクロデキストリンを、ゲスト分子としてシクロデキストリンが結合する化合物を用いて、そのホスト−ゲスト相互作用を利用して多様な自己組織化超分子ポリマーの構造体を作り、マクロスケール(リアルワールド)で機能を発現させる研究を進めています。今回、DNAやタンパク質の分子量決定に広く用いられるアクリルアミドゲルを土台にして、このゲルにシクロデキストリンとゲスト分子をそれぞれ別々に導入し、「ホストゲル」と「ゲストゲル」(図1)を合成しました。この両者を水中で振動させるとゲルが接着する挙動が観察され、ミリメートルからセンチメートルの大きさの物体を分子認識により自己集積できることを世界で初めて実証しました(図2)。さらにシクロデキストリンとゲスト分子との相互作用の強さの違いによって選択的に特定のゲル同士を接着させることができることがわかりました(図3)。

本研究に用いたホスト分子は、D−グルコースからなる環状オリゴ糖で、6個のグルコースユニットが連結したα−シクロデキストリンと、7個のユニットが連結したβ−シクロデキストリンです。シクロデキストリンの環の内側は空洞で、環を構成するユニット数の違いにより、これらの空洞サイズが異なります。α−シクロデキストリンは直鎖状炭化水素化合物と錯体を形成し、β−シクロデキストリンはよりかさ高い分子と強い相互作用を示します。今回の実験ではα−またはβ−シクロデキストリンをもつ単量体(モノマー)とアクリルアミドをビスアクリルアミドと共重合することによって合成されたゲルをホストゲルとして用いました。ゲストゲルとして、α−シクロデキストリンに包接されるn−ブチル基を有するモノマー、β−シクロデキストリンと相互作用のあるt−ブチル基やアダマンチル基を含むモノマーとアクリルアミドをそれぞれビスアクリルアミドと共重合させたものを合成しました(図1)。合成したゲルは数ミリメートルの立方体として切り出し、各ゲルを化合物の種類に応じて別々の色に染色しました。

β−シクロデキストリンのゲル(赤色に染色)とアダマンチル基をもつゲストゲル(緑色)を1つの容器に離して置き、ここに水を加えて振動させると、2つのゲルは接近し、すぐに接着して離れなくなることがわかりました(図2a)。多数のβ−シクロデキストリンのゲルとアダマンチル基含有ゲストゲルを同様に水中で振動させると、2種のゲルが交互に連結した集合体が得られました(図2b)。ホストゲルとゲストゲルの接着物は水中から取り出しても強く結合していることがわかりました(図2c)。

さらにこのホストゲルとゲストゲルとの接着はホスト分子とゲスト分子の組み合わせに応じて選択的に起こることを見いだしました。図3のaとbの写真のようにホストゲル1種類とゲストゲル2種類を水中で混ぜると、α−シクロデキストリンのゲルはn−ブチル基含有ゲルと、β−シクロデキストリンのゲルはt−ブチル基含有ゲルとそれぞれ自己集合体を形成することがわかりました。2種類のゲストゲルと2種類のホストゲルを同時に振動させると、完全に2つの集合体に分かれ、特定のホストとゲストとの間で集合体が形成されました(図3c)。

シクロデキストリンそのものを競争ホストとしてこれらのホストゲルとゲストゲルの自己集合体に添加すると、ゲル集合体がばらばらに離れることがわかりました。またブタノールを競争ゲストとして添加することによりゲルの接着能力が失われたことから、これらのゲル間の接着がホスト−ゲスト相互作用によって起こっていることが証明されました。

このようにホスト分子がゲスト分子のわずかな構造の違いを認識することによって、ミリメートルからセンチメートルの大きさの物体が見分けられ、選択的に接着される自己集合システムを開発することに成功しました。

今回のように分子認識を利用してミリメートルからセンチメートルスケールの物体を集積したシステムは、今までに全く例のないものです。今後、ゲルのみならず、さまざまな物体の表面にホストやゲストを固定することにより、いろいろな材料を分子認識により特異的に集積させたり、配列させることが可能になると予想されます。

<参考図>

図1

図1 シクロデキストリンを高分子側鎖に結合させたアクリルアミドゲル(ホストゲル)とゲスト分子含有ゲル(ゲストゲル)の構造

図2

図2 「ホストゲル」と「ゲストゲル」(図1)が水中で振動し、接着する挙動

各種ゲルと水を入れたシャーレを振とう器で揺り動かす。ここではβ−シクロデキストリンのゲル(β−CD gel、ゲルを赤色に染色したもの)とβ−CDに強く結合するアダマンタンを導入したゲストゲル(Ad−gel、緑色染色物)を水中で振動させることによってこれらのゲルが接着(a)、多数のホストゲルとゲストゲルが交互に接着して自己集合体が得られたときの写真(b)。一列に並んだゲルを水中からピンセットで持ち上げても離れずに強く接着している(c)。各写真右下のスケールバーは1センチメートルを示している。

図3

図3 シクロデキストリンがゲスト分子を認識して選択的に自己集合したゲル

各写真右下のスケールバーは1センチメートルを示す。図2と同様に、シャーレに入れた各種ゲルと水を振とう器で揺り動かすと、特定のホストとゲストの関係にあるゲルが接着し、集合体を形成した。

<論文名および著者名>

“Macroscopic self-assembly through molecular recognition”
Akira Harada*, Ryosuke Kobayashi, Yoshinori Takashima, Akihito Hashidzume & Hiroyasu Yamaguchi (Graduate School of Science, Osaka University) Nature Chemistry 2010, in press. (DOI: 10.1038/NCHEM.893)
(分子認識によるマクロスケール自己集合)
原田 明*、小林 亮介、高島 義徳、橋爪 章仁、山口 浩靖(大阪大学 大学院理学研究科)
doi: 10.1038/nchem.893

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

原田 明(ハラダ アキラ)
大阪大学 大学院理学研究科 高分子科学専攻 教授
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