JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成22年10月22日

東北大学 大学院理学研究科

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構
Tel:022‐217‐5922(WPI事務室)

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)

鉄系高温超伝導体の超伝導機構の統一的理解に成功

―超伝導を担う電子対の構造を決定―

<概要>

東北大学 大学院理学研究科の中山 耕輔 研究員と同校 原子分子材料科学高等研究機構の高橋 隆 教授らの研究グループは、鉄を含む新型高温超伝導体の超伝導機構が、物質の種類によらず統一的に理解できることを見出しました。

本研究成果は、2010年10月29日(米国東部時間)発行(予定)の米国物理学会誌「Physical Review Letters」に受理され、オンライン版で近日中に公開されます。

本成果は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域(研究総括:田中 通義 東北大学 名誉教授)の研究課題「バルク敏感スピン分解超高分解能光電子分光装置の開発」(研究代表者:高橋 隆)によって得られました。

<背景>

2008年2月、東京工業大学の細野 秀雄 教授らのグループによって鉄を含む化合物LaFeAsO1-xにおける超伝導が発見されたのを契機に、鉄系新型高温超伝導体の研究が世界的規模で爆発的に進展しています。この鉄系超伝導体の大きな特徴は、結晶を構成する元素やその配列が異なる多種類の超伝導体が発見されている点です。これは鉄が超伝導を阻害するという従来の考え方を覆す結果で、むしろ鉄化合物が超伝導体の宝庫である可能性を示しています。当初32Kであった超伝導転移温度()は、新物質の発見に伴って上昇し、現在では55Kを超える高い温度での超伝導が実現しており、超伝導線材や超伝導デバイスなどへの応用の観点からも大きな注目を集めています。その一方、鉄系超伝導体の超伝導機構については、大きな論争が続いています。とりわけ、「超伝導機構が様々な鉄系超伝導体の間で同じかどうか?」という、超伝導発現の根幹に関わる重要な問題が未解決のままとなっていました。これは、今後更に高いを持つ物質開発の指針に直結する問題でもあり、基礎科学的な立場だけでなく、産業応用の立場からも解決が急がれています。超伝導機構を解明するためには、「超伝導電子対の構造」の決定が最も重要であると考えられています。超伝導が起こるためには、電子2個が対を組むことが不可欠ですが、その際、超伝導を引き起こす力の種類によって電子対の構造(対の組み方)が異なります。従って、電子対の構造を調べることで超伝導の起源を明らかにすることができます。しかし、多くの研究にもかかわらず、鉄系超伝導体の電子対の構造が物質によって同じか、または異なっているのかどうかは分かっていませんでした。

<研究の内容>

今回、東北大学のグループは、外部光電効果注1)を利用した角度分解光電子分光(図1)という実験手法を用いて、多くの鉄系超伝導体の中でも最も単純な結晶構造を持つFeTe0.7Se0.3超伝導体(図2)の超伝導ギャップ注2)を直接観測することで、世界で初めてその超伝導電子対の構造を決定することに成功しました。その結果、超伝導電子対の構造が、鉄電子の持つ磁気的性質「スピン」注3)によって電子対が形成されるというモデルで良く説明できることを見出しました(図3)。さらに、今回の実験結果を他の鉄系超伝導体の結果と比較し、電子対を形成する機構が鉄系超伝導体で共通していることを見出しました。今回の研究は、鉄系超伝導体において、超伝導機構が物質の種類によらず共通の枠組みで理解できることを初めて明らかにしたものです。

<今後の展望>

本研究によって、鉄電子の持つ磁気的性質の重要性が明らかになったことで、超伝導機構を説明するモデルの選別が進むと考えられます。この結果をもとに、高温超伝導の理解が今後さらに進むことが期待されます。また、物質の種類によらず同じ超伝導機構を共有するという結果は、鉄を含む様々な物質群が高温超伝導体になる可能性を持っていることを示しており、今後、周辺物質の探索を進めることで新たな高温超伝導体が発見されることが期待されます。

<参考図>

図1

図1 超伝導体の角度分解光電子分光

図2

図2 FeTe0.7Se0.3超伝導体の結晶構造

図3

図3 鉄系超伝導体における電子対形成の概念図

鉄系超伝導体の内部では上向きスピン(赤い矢印)と下向きスピン(青い矢印)が、交互に(反強磁性的に)規則正しく整列しようとする力が働いていることが分かっています。この力を利用して電子が対を組むと考えられます。

<用語解説>

注1) 外部光電効果
物質に紫外線やX線を入射すると電子が物質の表面から放出される現象です。物質外に放出された電子は光電子とも呼ばれます。この現象は、1905年に、アインシュタインの光量子仮説によって理論的に説明されました。アインシュタインは、この業績でノーベル賞を受賞しています。
注2) 超伝導ギャップ
超伝導電子対を形成するのに必要なエネルギーのことです。電子の運動量に依存してどのように超伝導ギャップの大きさが変化するかを調べることで、超伝導電子対の構造を明らかにすることができます。
注3) スピン
電子が持つ、自転に由来した磁石の性質のことです。電子の自転の方向に対して、上向き(アップ)と下向き(ダウン)の2種類の状態があります。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

中山 耕輔(ナカヤマ コウスケ)
東北大学 大学院理学研究科 産学官連携研究員
Tel:022-795-6477
E-mail:

高橋 隆(タカハシ タカシ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授
Tel:022-795-6417
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

長田 直樹(ナガタ ナオキ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail: