東北大学 大学院理学研究科の佐藤 宇史 准教授、大阪大学 産業科学研究所の瀬川 耕司 准教授と安藤 陽一 教授、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の高橋 隆 教授らのグループは、次世代省エネデバイスへの応用などで注目されている「トポロジカル絶縁体」の中で最も大きいバンドギャップ注1)を持つ新物質を発見しました。
本研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review Letters」に受理され、オンライン版で近日中に公開されます。
平成22年9月17日
東北大学 大学院理学研究科
東北大学原子分子材料科学高等研究機構
大阪大学 産業科学研究所
科学技術振興機構(JST)
東北大学 大学院理学研究科の佐藤 宇史 准教授、大阪大学 産業科学研究所の瀬川 耕司 准教授と安藤 陽一 教授、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の高橋 隆 教授らのグループは、次世代省エネデバイスへの応用などで注目されている「トポロジカル絶縁体」の中で最も大きいバンドギャップ注1)を持つ新物質を発見しました。
本研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review Letters」に受理され、オンライン版で近日中に公開されます。
本成果は、日本学術振興会 科学研究費補助金 若手研究(S)「モット絶縁体とスピンホール絶縁体:普通でない絶縁体の物理の究明」(研究代表者:安藤 陽一)、および、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域(研究総括:田中 通義 東北大学 名誉教授)の研究課題「バルク敏感スピン分解超高分解能光電子分光装置の開発」(研究代表者:高橋 隆)によって得られました。
固体には、金属、絶縁体、半導体、超伝導体といった状態が存在しますが、ここ数年、「トポロジカル絶縁体」と呼ばれる従来の物質の状態とは全く異なる新しい状態が存在することが発見され、大きな話題になっています。このトポロジカル絶縁体物質は、内部(バルク)は電流を流さない絶縁体状態であるのに対して、その表面に特殊な金属状態が現われます。この表面状態においては、有効質量ゼロの粒子(ディラック粒子注2))がディラック錐(図1)と呼ばれる状態を形成し、電子の自転(スピン注3))をそろえて動き回っています。この表面のディラック電子は、従来の物質中の電子よりも格段に動きやすい上に不純物に邪魔されにくいという性質を持っており、これを利用した次世代の超低消費電力デバイスや超高速の量子コンピューターへの応用へ向けた研究が現在世界中で急ピッチに進められています。
このように様々な応用が期待されているトポロジカル絶縁体ですが、現在までその候補物質は数えるほどしか発見されていません(具体的にはBi(ビスマス)とSb(アンチモン)の合金、セレン化ビスマスBi2Se3など)。これらの物質の量子状態の安定性は、バルクが持つバンドギャップによって決まりますが、これまでに知られているトポロジカル絶縁体物質はバンドギャップが比較的小さいため、表面のディラック粒子が熱によって壊れやすいという欠点を持っていました。そのため、室温で安定して動作する新型デバイスを開発するためには、熱に強い新型のトポロジカル絶縁体を発見することが不可欠と考えられてきました。
今回、東北大学と大阪大学の共同研究グループは、TlBiSe2(Tl:タリウム、Bi:ビスマス、Se:セレン、図2)の高品質大型単結晶の育成に成功し、外部光電効果注4)を利用した角度分解光電子分光注5)という手法を用いて、TlBiSe2から電子を直接引き出して、そのエネルギー状態を高精度で調べました(図3)。その結果、TlBiSe2の表面とバルクの電子状態を分離して観測することに成功し、表面では理論で予測されるディラック錐状態が観測される一方で、バルクでは絶縁体に対応したバンドギャップが開いていることを明らかにしました(図4)。この結果により、TlBiSe2が新型のトポロジカル絶縁体であることが実験的に確立されました。さらに、観測されたバンドギャップの大きさ(0.35エレクトロンボルト(eV))は、これまで発見されたトポロジカル絶縁体の中で最も大きいことから、TlBiSe2は室温で動作するデバイスへの実用に最も適していることも見出されました。
今回の研究成果は、これまでごく限られた物質でしか見出されなかったトポロジカル絶縁体が、より多くの物質で発見される可能性を明確に示したものです。また、TlBiSe2と同じ結晶構造を持つ物質の探索により、異なるタイプのトポロジカル絶縁体が発見されることも期待されます。さらに、TlBiSe2の構成原子を他の原子に置換することによって表面ディラック電子を自在に制御して、様々な機能をもつスピントロニクス注6)デバイスを作製することも可能になると考えられます。
佐藤 宇史
東北大学 大学院理学研究科 准教授
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安藤 陽一
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東北大学原子分子材料科学高等研究機構 教授
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