JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成22年8月30日

独立行政法人 物質・材料研究機構
Tel:029-859-2026(広報室)

独立行政法人 科学技術振興機構
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)

グラフェンエレクトロニクスのためのバンドギャップ要因を解明

Missing‐gap顕在化と不確定性要因の解明に成功

1.独立行政法人 物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)は、地上に存在する最も薄く伝導性の高い薄膜(原子膜)であるグラフェン注1)を用いた電子素子実現のカギとなるバンドギャップ注2)の特性を解明することに成功した。

2.半導体電子素子は微細化が進み、素子の最小加工寸法がいずれ10nm(ナノメートル)以下になると言われている。それと同時に、さらなる細化では電流制御が従来の半導体材料では十分に行えず、『微細化の限界』が議論されている。解決法のひとつとして、極薄の伝導チャネルを用いた電子素子が考えられており、その材料として、グラフェンの電気伝導が広く注目されていた。

3.従来のシリコン半導体以外の新物質を用いてスイッチング素子を実現するためには、薄膜の電子状態にバンドギャップが形成されることが望ましい。しかし、グラフェンは次世代エレクトロニクス材料と大きな期待を受けていながらも、金属特性を有する原子薄膜であることから、バンドギャップがないことが問題となっていた。この問題に対して、2層のグラフェンに垂直電界を印加することで、グラフェンにバンドギャップを導入でき半導体的な特性が得られるはずであることが理論的に指摘され、光学的研究によって存在が示されていた。しかし、電子素子として最も重要な電気伝導特性においては、明瞭に観測することができず、Missing Gapとされ、原因究明が世界中で議論されていた。

4.今回、我々は独自開発した世界で最も効率的に電界印加を可能とするゲート絶縁膜自己形成法を用いてグラフェンに垂直電界を印加した(図1)。これによって、極めて効率よくグラフェンに電界を加えることができ、素子特性を明瞭に調べることができるようになった(図2)。さらに従来極低温のみに研究が集中していたが、液体窒素温度から室温付近の電気伝導の振る舞いに初めて注目した。この温度特性から、バンドギャップを有する伝導体に特有の特性を見出すことができた。さらに、Missing Gapの出現に必要な物理要因を見出すことに成功した。この成果によって、バンドギャップを有する素子を選択的に作り出すことができるようになり、バンドギャップ制御可能な原子素子の検証研究が、今後大きく発展する。現在、バンドギャップ制御可能な原子素子を用いて基礎的なロジック素子を試作し、グラフェンの潜在的な特性を見出す研究を進めている。

5.これらの成果は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の塚越 一仁 主任研究者および宮崎 久生 研究員らが、筑波大学の神田 晶申 准教授と岡田 晋 准教授、ならびに独立行政法人 産業技術総合研究所の大谷 実 研究グループ長とともに行った研究によって得られた。

6.本研究は、独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」研究領域(研究総括:堀池 靖浩 独立行政法人物質・材料研究機構 名誉フェロー)における研究課題「ナノ界面・電子状態制御による高速動作有機トランジスタ」(研究代表者:塚越 一仁)の一環として行われ、近日中に米国科学誌Nano Letters電子版に公開される予定である。

<研究の背景>

半導体集積回路における、主たる電気スイッチ素子のチャネル材料(電流が流れるスイッチング部分)はシリコン(Si)である。スイッチ素子の最小加工寸法を小さくすることで、スイッチング動作の高速化や回路サイズの縮小に伴うコスト低減を実現してきた。

しかし、現在ではスイッチ素子のサイズは20−30nmにまで達し、いずれ10nmもしくはそれ以下になると言われている。しかし、この微細化にともなう性能向上が次第に難しくなってきている。そのため、シリコンに代わる化合物半導体などの探索が盛んに行われているが、その中で、シンプルな構造で、原料原子が豊富に存在するグラフェンが注目されている。

グラフェンは、原子層が重なってできるグラファイト注1)の一層分のことであり、6角形の網の目のように規則正しく炭素原子がシート状に並んでいる。

最近の研究結果により、グラフェンは極めて優れた電気特性を持ち、その電子の移動度は従来の半導体よりも遥かに大きいことが分かってきたため、次世代の高速素子への期待が高まってきている。さらに原子薄膜であることに起因して、従来素子では問題となりつつあったオフ電流リークの抑制を実現する可能性が期待されている。しかし、グラフェンは原子スケール厚のため、半金属であるにもかかわらず、電界を印可することで電気伝導を変化させることは可能である。しかし、バンドギャップがないことから、スイッチング素子として適応用途が限られてしまうことにあり、バンドギャップの導入が世界中で盛んに議論されている。これに対して、2層のグラフェンに垂直電界を印加することで、グラフェンにバンドギャップを導入でき半導体的な特性が得られるはずであることが理論的に指摘されていた。実験的には、このバンドギャップは光学的研究によって存在が示されていたが、電子素子としての電気伝導特性においては明瞭に観測することができず、Missing Gapとされ、原因究明が世界中で議論されていた。

<研究成果の内容>

塚越主任研究者らの研究グループは、グラフェンの電気伝導基礎を解明して電気伝導を制御することを目指し、天然グラファイトから取り出した1枚のグラフェンに電極形成を行い、その基礎特性の評価を行っていた。

またその中で、アルミニウム薄膜をグラフェン上に直接形成して空気中に数時間放置するだけで、グラフェンの特性は低下しないまま、グラフェンとアルミニウムの間に絶縁膜が必ず形成することを見出していた。これには、電圧ゲインの高い素子で用いた方法(2010年6月23日 NIMSプレスリリース http://www.nims.go.jp/news/press/2010/06/p201006230.html)を適応した。

今回は、このMissing Gapの解明と制御を目指した研究を行った。従来液体窒素温度以下の極低温のみに研究が集中していたが、液体窒素温度から室温付近の電気伝導の振る舞いに初めて注目した。この温度特性評価注3)において、バンドギャップを有する伝導体に特有の温度活性型の電気伝導特性を見出し、この温度活性特性からバンドギャップの大きさを導き出すことに成功した。さらに、Missing Gapの出現に必要な物理要因を見出すことに成功した(図3図4)。

<波及効果と今後>

この成果によって、バンドギャップを有する素子を選択的に作り出すことができるようになり、バンドギャップ制御可能な原子素子の検証研究が、今後大きく発展する。現在、バンドギャップ制御可能な原子素子を用いて基礎的なロジック素子を試作し、グラフェンの潜在的な特性を見出す研究を進めている。

グラフェン素子の研究は、その特徴である極めて伝導性の高い原子膜厚のとしての特徴を引き出すことがカギであり、得られた知見や技術は現在のシリコンデバイスの次への新素材や材料利用の技術革新へと波及すると期待されている。とりわけ、グラフェンは厚さ方向全体に渡って電界効果を及ぼすことができる理想的な2次元伝導体であるが、基本的に3次元の伝導体であるシリコンとは、全く伝導機構が異なる。この違いを活かした応用展開の探索によって、従来素子の発展とは起点の違う応用も可能である。そのため広く世界的に研究が進められており、今後様々な特性が見出されると思わる。これらの新規材料の特性をさらに取り込み、新材料としての特性を発展させていく予定である。

<参考図>

図1

図1 (a)天然グラファイト(マダガスカル産)の小片。この小片塊をSiO/Si基板上に押しつけて引き離すと、基板上にグラフェンが残る。(b)長さ10ミクロン程度のグラフェン。

図2

図2 グラフェン電界効果素子(FET)の例。基板上のグラフェンにソース・ドレイン電極を作製した後、アルミニウム電極を形成すると、アルミニウムとグラフェンの界面に酸素が侵入し自己形成酸化絶縁膜ができる。この酸化絶縁膜を介して電界効果をグラフェンの伝導に対して加えることができる。

図3

図3 2層グラフェントランジスタの抵抗のゲート変化。電界によるバンドギャップの増大に伴って、 OFF抵抗の増大が見られる。

図4

図4 (左)バンドギャップが開いたグラフェンにおける電気伝導のモデル。(中)OFF抵抗の温度依存性と、左図のモデルに基づいた解析。(右)中図の解析によって求めたバンドギャップの電界強度依存性と、その理論計算の結果。

<用語解説>

注1) グラフェン、グラファイト
炭素原子が6角形を規則正しく平面上に繰り返して形成される原子シートがグラフェンであり、グラフェンが層間隔0.34nmで規則正しく積み上がった材料がグラファイトである。グラファイトは軽くて強度の高い材料として、次世代航空機の部品などに使われ始めている。また、グラフェンとグラフェンの重なりはファンデルワールス力によって弱く結合しているだけであることから、グラファイト片を平坦な基板表面に押しつけると、グラフェンが剥離して基板上に貼り付く(この剥離性を利用した道具が、鉛筆である)。基板上の原子薄膜は空気にも安定であり、瞬時に壊れてしまうことなどはなく、極めて高い電気伝導度を有している。
注2) バンドギャップ
固体材料は、固体を形成する電子の構成によって、電気伝導に寄与できる電子の有無に差があり、金属・半導体・絶縁体に区分される。電子の詰まった価電子帯と空いた状態からなる伝導帯の重なり具合によって区分に分かれる。この重なりがなく、材料に印加可能な電圧範囲で電子状態を変調させて伝導を制御できるのが半導体であり、近年の集積回路などの中心物質であるシリコンなどが挙げられる。この価電子帯と伝導帯のエネルギー差をバンドギャップと呼ぶ。
注3) 温度活性特性
有限のバンドギャップを有する固体に熱を加えると、熱エネルギーによって価電子帯から電子が伝導帯に飛び移り、電気伝導を担えるようになる。この加えた熱エネルギーの量と電気伝導の変化量の相関を温度活性特性として評価することで、バンドギャップの大きさが分かる。
【高効率ゲートの重要性】
我々の独自に開発した高効率ゲート=低電圧(1V程度)動作のゲートは、論理回路の素子のためには重要である。論理回路は、ある段の出力信号が次の段の入力信号(=ゲート電圧)となる。一方で、出力電圧はソース‐ドレイン間の電圧によって制限される。したがって、ソース-ドレイン間の電圧と同程度のゲート電圧でトランジスタが動作しなくてはいけない。従来、グラフェンでよく使われてきた基板ゲートでは、数十〜100V程度のゲート電圧が必要であったが、このような電圧をソース-ドレイン間にかけることはできないため、論理回路として用いることは極めて難しい。なお、現時点において、グラフェントランジスタ研究における本技術は、最高効率のゲート電界変調を実現している。

<お問い合わせ先>

<研究内容に関すること>

宮崎 久生(ミヤザキ ヒサオ)
独立行政法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 研究員

塚越 一仁(ツカゴシ カズヒト)
独立行政法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 主任研究者
Tel:029-860-4894 Fax:029-860-4706
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

長田 直樹(ナガタ ナオキ)
独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail:

<報道担当>

独立行政法人 物質・材料研究機構 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1−2−1
Tel:029-859-2026 Fax:029-859-2017

独立行政法人 科学技術振興機構 広報ポータル部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail: