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平成22年6月29日

東北大学
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汎用製造技術を用いた酸化亜鉛系紫外発光ダイオードの高輝度化を実現

(安価な固体照明光源としての応用に期待)

東北大学原子分子材料科学高等研究機構の川崎 雅司 教授は、ローム株式会社および同大学金属材料研究所と多元物質科学研究所と共同で、半導体素子製造の汎用技術である分子線エピタキシー(MBE)法注1)を用いて酸化亜鉛(ZnO)注2)系紫外発光ダイオード(LED)注3)の作製とその高輝度化に成功しました。今回の素子には導電性ZnO基板が使用されており、今後の安価な短波長発光素子応用につながる成果と言えます。

LEDは半導体素子の1つで、p型とn型に導電性制御された半導体の積層構造で構成されています。この素子に電流を印加することで半導体の禁制帯幅注4)と同じエネルギーの光へと変換することができます。近年では、窒化ガリウム(GaN)注5)系青色LEDと蛍光体を利用した白色LEDが液晶ディスプレイのバックライトや照明用光源として利用され、ブラウン管や蛍光灯に比べて大幅な省電力化が可能になっています。ZnOは紫外線領域の禁制帯幅を有することから、励起できる蛍光体の選択幅が広がることでバランスのより良い白色光源が作製でき、さらなる省電力化の実現が期待されており、高輝度の紫外LEDの量産化に向けた汎用技術の応用開発が必要となります。ZnO系材料は、一般的にp型化が困難であり、禁制帯幅がより大きなマグネシウム(Mg)を添加した酸化亜鉛(MgZnO)においてもp型化技術が確立しておらず、高輝度の紫外LEDが実現できていませんでした。

本研究グループは今回、市販の導電性ZnO基板上でMBE法を駆使してMgZnOのp型化することに成功し、紫外LEDの輝度の大幅な改善を達成しました。これは2004年に東北大学が開発したp型ZnOを用いたLEDと比較して、発光波長が紫外領域に伸び、輝度は1万倍以上に達しています。半導体素子の製造に適した手法を用いるとともに、p型伝導性制御のための窒素供給源としてアンモニアガスが有用であることを見いだしました。LED発光素子からの純粋な紫外線により緑色の蛍光体を励起することにも成功し、白色LED用紫外線光源としての可能性を示しました。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の「ナノ界面技術の基盤構築」研究領域(研究総括:新海 征治 崇城大学 教授)における研究課題「酸化物・有機分子の界面科学とデバイス学理の構築」の一環として行われ、米国学術誌「Applied Physics Letters」のオンライン版で近日中に公開されます。

<研究の背景と経緯>

従来、酸化物はセラミックス材料として幅広い工業用途に用いられてきました。近年、酸化物薄膜作製技術の向上に伴って、原子レベルで制御された高品質な単結晶薄膜の作製および精密な不純物ドーピングが可能になり、光電子素子応用への可能性が広がっています。特に、本研究で用いたZnOは代表的な透明酸化物半導体として知られ、透明導電性物質や透明トランジスタとしても注目を集めています。また、ZnOは安価で環境調和性が高いだけでなく、励起子注6)結合エネルギーが非常に大きく(60meV)、高効率な発光素子の作製が期待されています。これまでも紫外LEDへの応用を目指した研究が精力的に展開されましたが、ZnOのp型化が困難であったため、発光効率の向上が制限されてきました。2004年に東北大学が世界に先駆けてパルスレーザー堆積(PLD)法注7)によるZnOのp型化とLEDの開発に成功しましたが、青色成分が多く輝度も弱いものでした(2004年12月20日プレス発表 http://www.kawasaki.imr.tohoku.ac.jp/information/ZnO-LED-2004.12.20.doc)。最近になって、MBE法を用いて市販のZnO基板上に高品質なZnO系接合界面の作製が実現され、MgZnO/ZnO接合界面での電子輸送では単結晶シリコンに匹敵する高い移動度が実現されており(2007年1月26日プレス発表 http://www.jst.go.jp/pr/announce/20070126/)、量子ホール効果注8)などの物性研究が進展しています。

LEDは通常、正孔伝導層であるp型半導体と電子伝導層であるn型半導体の積層構造で構成されています。積層構造に電流を印加すると正孔と電子が再結合して、禁制帯幅と同じエネルギーで発光します。短波長LEDを作製するためには、禁制帯幅の広い材料を用いる必要があり、GaNやZnOが候補材料として広く研究されてきました。さらに、量子井戸構造注9)を利用することで発光の効率を向上させることができます。しかし、そのためには禁制帯幅の制御と伝導性の制御を実現する必要があります。Mgを添加したMgZnOでは禁制帯幅を大きな方向へ制御できますが、MgZnOをp型へ伝導性を制御することはZnOのp型化よりさらに困難で、発光輝度の高い紫外LEDの作成例はありません。その原因は、p型伝導性制御のための窒素添加を効率的に行う手法や鮮明なMgZnO/ZnO接合界面を作製する技術が確立されておらず、十分な性能評価を実現できていなかったためです。

本研究グループでは、MBE法を適用することでZnO層とMgZnO層の接合界面を鮮明に作製する技術を確立した上で、p型伝導性制御のための窒素供給法を検討しました。その結果、従来あまり用いられてこなかったアンモニアによる窒素供給法が効果的であることを見いだし、発光素子特性の評価において大幅な改善を実現しました。また、市販の導電性ZnO基板を使用し、LED構造を縦型にすることで素子作製の工程が簡素になり、電流印加が容易になりました。p型MgZnOとn型ZnOとを用いたLED構造により、紫外線の効率的な発光を引き出すことが本研究のねらいです。

<研究の内容>

本研究では、ZnO単結晶基板上に窒素添加p型MgZnOと無添加ZnO薄膜を作製し、電流印加下における発光特性を評価しました(図1(b))。従来の、絶縁体基板上に導電性ZnO薄膜を作製したLED構造(図1(a))と異なり、電極形成のための加工工程が容易と言う利点があります。また、p型MgZnOを用いることで発光のための再結合領域を制御でき、ZnO層中での発光再結合を効率的にさせることを目的としています。

実際に得られたLEDの発光特性を比較すると、発光波長(発光エネルギー)が紫外線領域へと大きくシフトしました(図2)。従来の素子では発光再結合がp型ZnO層中で起こるために、青色領域である440nmを中心とする発光でしたが、今回の素子では、ZnOの禁制帯幅とほぼ同じ380nmを中心とする強い発光が観測されました。さらに、発光ピークの広がりも大きく改善され、n型ZnO層での再結合を効果的に引き起こすことができました。

次に、窒素供給源としての一酸化窒素ラジカル源とアンモニアガスを検討しました。図3左図に簡略化した装置構成図のとおり、MBE法では薄膜中に添加する材料元素をそれぞれ別々に供給するため、今回の実験では窒素供給源にラジカル化した一酸化窒素とラジカル化しないアンモニアガスを使用して試料を作製しました。薄膜中に添加された窒素の濃度は別途測定した評価において、ほぼ同量添加されていることが確認できています。LEDにおける発光強度は再結合電流密度に強く相関するため、図3右図においてそれぞれの素子特性を比較したところ、アンモニアガス供給による発光素子では同じ電流密度において約100倍強い発光を観測しました。この結果は、発光に寄与している正孔濃度の増加を意味しており、言い換えると効率的な窒素添加が実現していることを示唆しています。この発光輝度は、2004年に東北大学が発表したZnOだけのpn接合で作製したLEDの1万倍以上に達しており、先行的に市販されているGaNとInGaNの積層型LEDの特性と比較しても、約1/10程度の発光強度にまで到達しています。しかし、InGaN系LEDのような高電流密度印加での動作や動作安定性、波長安定性や長時間動作など、実際の応用に向けては、今後改善すべき多くの課題も残されています。

最後に、MgZnO/ZnO系LEDからの紫外線発光を利用して、市販の緑色蛍光体を励起する実験を行い、図4中の写真に示すような緑色発光を観測することに成功しました。発光スペクトルを緑色蛍光体の有無で比較すると、紫外線の発光が効率的に520nmを中心とする緑色蛍光体を励起していることがわかります。この結果から、紫外線発光素子の特性を改善していくことで、今後の蛍光体励起型白色LEDの作製が期待されます。

このように、MBE法においてアンモニアガスによる窒素供給を行い、p型MgZnOとn型ZnOの接合によるLEDの作製に成功し、発光強度の大幅な改善と緑色蛍光体の励起に成功しました。

<今後の展開>

今回の成果はMBE法におけるアンモニア供給の有効性をLEDの発光強度改善によって示したばかりでなく、市販のZnO導電性単結晶基板が高品質結晶成長に有効であることが確認されました。今後の応用に向けては、大電流印加のための正孔濃度増大や発光素子としての動作安定性を改善していく必要がありますが、汎用的手法で汎用基板上の素子発光効率が示された本結果は大きな前進と捉えることができます。また、同様の手法を用いることで、LED以外のZnO系量子構造の物性研究が大きく進展することが期待されます。

<参考図>

図1

図1 (a)既報のLEDの構造と(b)今回のLED構造

図2

図2 作製した素子の発光スペクトル―従来のPLD試料と今回のMBE試料との比較

図3

図3 MBE装置構成図(左)と発光積分強度の電流密度依存性(右)

NO*ラジカル試料(A,B)とアンモニア試料(C,D)。

図4

図4 紫外線励起による緑色蛍光体発光の様子

<用語解説>

注1) 分子線エピタキシー(MBE)法
超高真空中では、薄膜作製用原料ガスが一度も他のガス種に衝突することなく、基板表面に供給されるため、分子線として供給されているように取り扱うことができる。いくつかの原料ガス供給量を調整することで、組成制御された薄膜が基板上で形成される。特に、原料の高純度化や鮮明な界面形成に定評がある。半導体量子構造の作製に良く用いられる手法の1つである。
注2) 酸化亜鉛(ZnO)
禁制帯幅3.3eVの直接遷移型半導体として知られる。粉末形状では白色を示し、人体にとって安全であることから、化粧品顔料としても利用されている。最近では、良質な単結晶が安価な水熱合成プロセスで大量に作製されており、薄膜成長技術も年々向上していることから、半導体としての応用が期待されている。
注3) 発光ダイオード(LED)
n型半導体とp型半導体を接合したpn接合に電流を流すと、電子と正孔の再結合が起こり、材料の禁制帯幅と同じエネルギーを持つ発光が生じる。接合界面において再結合するため、同一の半導体材料でのn型とp型を接合することが重要である。量子井戸構造を適用することで、発光波長の短波長化や発光再結合の高効率化が可能である。
注4) 禁制帯幅
半導体材料の基本的な物質定数の1つであり、価電子帯と伝導帯とのエネルギー差である。価電子帯は化学結合における結合軌道であり、電子で満たされている。伝導帯は反結合軌道であり、励起された電子が伝導する軌道である。伝導体の電子と価電子帯の正孔が再結合することで、禁制帯幅と同じエネルギーを持つ光が発生する。
注5) 窒化ガリウム(GaN)
禁制帯幅3.4eVの半導体。良質な薄膜結晶の成長が困難であったが、現 名城大学 赤﨑 勇 教授らによる薄膜結晶成長技術の発明とp型化・pn接合LEDの実証により一気に開発が進んだ。現 カリフォルニア大学サンタバーバラ校 中村 修二 教授が所属した日亜化学工業株式会社によって青色LEDが商品化され、ブルーレイディスクに使用される青色レーザーとしても実用化されている。これまでのLEDやレーザーダイオードでは、発光材料と同一の材料のバルク単結晶を基板として使用するのがもっとも性能の良いデバイスの必須条件であったが、GaNのバルク単結晶は当時存在しておらず、格子整合しないサファイアを基板として用いていたことが紫外LEDの高輝度化への障害であり、稀少元素であるインジウム(In)を添加して発光領域を青色にして高輝度化を達成している。市販の白色LEDは、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた疑似白色光であり、演色性・色再現性や液晶ディスプレイの低消費電力化に課題がある。現在でも量産に耐えうるプロセスによる安価なバルク単結晶の合成は困難である。一方で、酸化亜鉛はバルク単結晶の合成が容易であるために、今後のデバイス開発において、発光効率以外にも、量産性や低コスト性でGaNに対して優位であると考えられている。
注6) 励起子
電子と正孔がクーロン力で弱く束縛した粒子。電子も正孔もスピンを持つため、パウリの排他原理と言う量子力学的な制約で多数の電子(正孔)は同じエネルギー状態をとることができない。そのため電子と正孔の直接の再結合では発光波長が定まりにくく高効率のレーザーが実現しにくい。一方、あらかじめ電子と正孔が束縛した励起子はスピンが打ち消しあっているため量子力学的な制約がなく、原理的に高効率な発光が可能である。通常の半導体では原理の確認はされていたが、励起子の結合エネルギーが室温のエネルギー(25meV)より小さいため、低温でしか実証されていなかった。ZnOは大きな励起子結合エネルギー(60meV)を持つため、室温でも励起子による発光や高効率なレーザー発振が可能であることが既に実証されていた。
注7) パルスレーザー堆積(PLD)法
真空容器中でセラミックスのターゲットを強力なパルスレーザー光で瞬間的に蒸発させて対向する基板上に薄膜を作製する方法。簡便に酸化物薄膜を合成できるので研究分野では広く利用されているが、大面積への均一な薄膜作製に問題がある。半導体応用での最も大きな問題点は、ターゲットに含まれる不純物がそのまま薄膜に転写される点で、MgZnOのp型化には不適合であった。
注8) 量子ホール効果
二次元電子の運動平面に対して垂直方向に強い磁場を加えると、電子は一定の周期で円運動をする。電子が一回転する間に散乱が生じないようなクリーンな系においては、電子の波としての性質を反映した干渉効果が起こり、エネルギーがとびとびの値となるランダウ準位が形成されます。このランダウ準位を磁場で変化させたとき、フェルミ準位がちょうどランダウ準位のエネルギーと一致すると、ホール抵抗(後述)に平坦部が現れます。ホール効果がとびとびの値になる(量子化される)現象を、量子ホール効果と呼びます。この平坦部の抵抗値は物質によらず厳密に一定であり、電気抵抗標準として用いられている。
注9) 量子井戸構造
禁制帯幅が小さく薄い層を、禁制帯幅の大きい層ではさみ込んだ構造。電子の移動方向を禁制帯幅が小さな層内に限定できる。LEDの発光層をより禁制帯幅の大きなp型とn型の層ではさむと、再結合発光の場所が限定できるため発光効率が向上する。

<論文名および著者名>

“Nitrogen doped MgxZn1-xO / ZnO single heterostructure ultraviolet light-emitting diodes on ZnO substrates”
(ZnO基板上に作製した窒素添加MgZnO/ZnO紫外発光ダイオード)
K. Nakahara, S Akasaka, H. Yuji, K. Tamura, T. Fujii, Y Nishimoto, D. Takamizu, A. Sasaki, T. Tanabe, H. Takasu, H. Amaike, T. Onuma, S. F. Chichibu, A. Tsukazaki, A. Ohtomo and M. Kawasaki

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

川崎 雅司(カワサキ マサシ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構 教授
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
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<JSTの事業に関すること>

長田 直樹(ナガタ ナオキ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
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<報道担当>

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