JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成22年6月19日

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)

東京大学
Tel:03-5841-1790(工学部 広報室)

慶應義塾大学
Tel:03-5427-1541(広報室)

世界最速、毎秒ギガビット超の非接触メモリカードを開発
動作中の誤使用や劣化にも高い信頼性と安全性を確保

JST 課題解決型基礎研究の一環として、東京大学 大学院工学系研究科の竹内 健 准教授、慶應義塾大学 理工学部の黒田 忠広 教授・石黒 仁揮 准教授らは、世界最速の毎秒ギガビットを超える、非接触メモリカード注1)を開発しました。

フラッシュメモリ注2)の大容量化により携帯電話やMP3プレーヤー、デジタルカメラが実用化されていますが、携帯電話通信の高速化、画像の高画素化などに伴い、高い信頼性・安全性を持ち、かつ、高速なメモリカードの開発が望まれていました。

本CRESTチームは、24チップものフラッシュメモリを同時に並列動作させるメモリ制御システムと、データ通信と電力伝送を無線で同時に行う回路システムを開発することで、従来のメモリカードから7.5倍の毎秒ギガビット超の高速化を実現しました。

提案する非接触メモリカードは、高速のデータ通信だけでなく、防水機能を備え、接触不良や、動作中の誤った抜き差しなど利用者の誤使用、人体との接触による静電気破壊、使用に伴う劣化に高い信頼性・安全性も確保することを目的としています。今後、メモリの信頼性の向上や通信速度の高速化、電力伝送の高効率化することで、近い将来、メモリカードを携帯電話やテレビ、車、パソコン、音楽機器、デジタルカメラ、ビデオカメラと接触させることで、あらゆる機器が“マイPC”として使えるようになります。

本研究は、東京大学 生産技術研究所の桜井 貴康 教授・高宮 真准 教授、株式会社東芝と共同で行ったものです。

本研究成果は、2010年6月16日から18日(米国ハワイ時間)に米国・ハワイで開催される「VLSI回路シンポジウム」で発表されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」
(研究総括:浅井 彰二郎 株式会社リガク 取締役副社長)
研究課題名 ディペンダブル ワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)
研究代表者 竹内 健(東京大学 大学院工学系研究科 准教授)
研究期間 平成21年10月~平成25年3月

JSTはこの領域で、VLSIシステムの高信頼・高安全性を保証するための基盤技術の研究開発を推進しています。上記研究課題では、1mmの通信距離で10Gbpsの超高速無線通信・給電機能を持ち、かつ、信頼性・安全性の高いワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)およびホストシステムの実現を目指し研究を進めています。

<研究の背景と経緯>

フラッシュメモリの大容量化により携帯電話やMP3プレーヤー、デジタルカメラが実用化されてきました。携帯電話通信の高速化、画像の高画素化などに伴い、高速なメモリカードの開発が望まれています。また、従来のメモリカードのコネクタはゴミの付着や汚染、メモリカードとホスト機器の頻繁な着脱によるコネクタの摩耗が接触不良や速度劣化を引き起こしたり、人体との接触による静電気破壊を起こしたりするという問題がありました。

<研究の内容>

今回、東京大学のグループは非接触メモリカードのメモリの高速化技術(論文(1))を、慶應義塾大学のグループはメモリとホスト機器間のインタフェースの高速化技術(論文(2))を開発しました。

東京大学のグループは、24個ものフラッシュメモリを並列に動作することを可能とする、チャネル数検出回路を開発しました(図1)。チャネル数検出回路は並列動作するフラッシュメモリの数を自動検出することができます。検出した並列動作するフラッシュメモリの数に応じて、フラッシュメモリに供給する電力の最適な制御を行います。並列動作させるフラッシュメモリの数を従来の15個から24個に増やすことで、メモリの書き込み速度は60%高速化されます。その結果、従来のメモリは毎秒2.6ギガビットに対して、メモリの速度としては世界最速の毎秒4.2ギガビットの高速書き込みを実現しました。

また慶應義塾大学のグループは、磁界結合により、データ伝送と電力伝送を同時に行うことで非接触のメモリカードを実現しました(図2)。データ伝送用のコイル形状に工夫を加えたクローバ型コイルを用いることで、データ伝送と電力伝送の間の干渉を減らすことに成功し、メモリカードとしては世界最速の毎秒6ギガビットのデータ伝送を実現しました。これまでのメモリカードの最高データ伝送速度は毎秒0.8ギガビットなので、今回7.5倍の高速化を達成したことになります。また、ホスト機器がメモリカードの消費電流をモニタし、必要に応じて給電電力を制御することで、電力伝送効率を従来の2倍以上である10%まで高めることに成功しました。

<今後の展開>

本研究で開発する非接触メモリカードは、今後フラッシュメモリの微細化・大容量化により、2015年にはテラ(テラは1兆)バイトの容量に達すると考えており、その容量ではユーザーデータに加えて、基本ソフトウェア(OS)やアプリケーションソフトウエアも記憶することができます(図3)。今後、メモリの信頼性の向上や通信速度の高速化、電力伝送の高効率化をすることで、提案する非接触メモリカードを携帯電話・テレビ・車・パソコン・音楽機器・デジタルカメラ・ビデオカメラに触れると、あらゆる機器がパソコンと同様に利用できる“マイPC”となります。

また、開発した非接触メモリカードは防水機能を備え、接触不良や、動作中の誤った抜き差しなど利用者の誤使用、人体との接触による静電気破壊に高い信頼性・安全性を確保できるようになります。

<参考図>

図1

図1 東京大学によるメモリの高速化技術(論文(1)

  • 上段左図: 3次元積層メモリカードの概念図(1cmx2cmの大きさのパッケージにフラッシュメモリ・DRAM・NANDコントローラ・チャネル数検出回路を搭載した電源システムを3次元に積層します。32個の4GByte(ギガバイト)フラッシュメモリで128GByteのメモリカードを実現できます。)
  • 上段右図: チャネル数検出回路を搭載した電源システムの構成図(チャネル数検出回路が並列動作するフラッシュメモリの数を自動検出します。検出した並列動作するフラッシュメモリの数に応じて、フラッシュメモリに供給する電力の最適な制御を行います。)
  • 中段 : フラッシュメモリの書き込み電圧の信号波形(チャネル数検出回路が並列動作するフラッシュメモリの数の減少(左図)、増加(右図)を自動検出します。チャネル数の変化を検出し、電源システムを“省電力モード”と“高速モード”の間で切り替えます。)
  • 下段 : 今回開発した3次元積層メモリカードのデモシステムのチップ写真
図2

図2 慶應義塾大学による接触通信・給電技術(論文(2)

  • 左上図 : クローバ型コイルを用いて無線データ通信と電力伝送を同時に行うワイヤレスメモリカードおよびホストの概念図(カードおよびホストにそれぞれコイルを搭載し、コイル間の磁界結合を利用して、ホスト側からカード側に無線で電力を給電しながら同時に、カード内のメモリデータを無線で読み書きします。)
  • 右上図 : クローバ型通信用コイルを電力伝送用コイル内に配置したデータ・電力同時伝送用磁界結合チャネルのレイアウト図およびデータ伝送と電力伝送の間の干渉低減効果を説明する概念図(通信用コイルの形状を工夫し電力伝送用コイルの内部に配置することで、通信用コイルと電力伝送用コイルの間の干渉を小さく抑えることができます。)
  • 左下図 : 無線データ伝送と電力伝送チャネルを評価するために今回開発したワイヤレスメモリカードの試作チップ
  • 右下図 : データ・電力同時伝送時のチップ入出力信号実測波形(黄色波形はホストからカードに伝送される電力送信のための信号で緑色波形はカードの電源電圧です。緑色波形が一定の電圧を保っていることから、電源が安定的に無線で供給できていることが確認できます。青色波形がカードから読み出されて送信されたデータ信号で赤色波形がカードが受信したデータ信号です。データ伝送速度は、毎秒6ギガビットです。無線で電力を給電しながら同時に正しく高速にデータ伝送できていることが確認できます。)
図3

図3 非接触メモリカードが切り開くアプリケーション

  1. 左図 : 高信頼な非接触メモリカード(提案する非接触カードは高速なデータ通信だけでなく、防水機能を備え、接触不良や、動作中の誤った抜き差しなど利用者の誤使用、人体との接触による静電気破壊、使用に伴う劣化に高い信頼性・安全性も確保します。)
  2. 右図 : 非接触メモリカードが切り開く新しいアプリケーション(メモリカードを携帯電話やテレビ、車、パソコン、音楽機器、デジタルカメラ、ビデオカメラと接触することで、あらゆる機器が“マイPC”として使えるようになります。)

<用語解説>

注1) メモリカード
ここで言うメモリカードとは、大容量のフラッシュメモリを、ハードディスクドライブの代わりに記憶媒体として用いるSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)のこと。
注2) フラッシュメモリ
データの一括消去を特徴とする、電気的にデータの読み書きが可能で、電源を切ってもデータが消えない半導体記憶装置。

<論文名>

(1) “A 60% Higher Write Speed, 4.2Gbps, 24-Channel 3D-Solid State Drive (SSD) with NAND Flash Channel Number Detector and Intelligent Program-Voltage Booster”
(NANDチャネル数検出回路・インテリジェント書き込み電圧発生回路を備えた、60%高速・4.2Gbps・24チャネル、3次元ソリッド・ステート・ドライブ(SSD))
doi: 10.1109/VLSIC.2010.5560284

(2) “Simultaneous 6Gb/s Data and 10mW Power Transmission using Nested Clover Coils for Non-Contact Memory Card”
(非接触メモリカードのための入れ子型クローバ形状コイルを用いた6Gb/sデータ・10mW電力同時伝送)
doi: 10.1109/VLSIC.2010.5560298

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

竹内 健(タケウチ ケン)
東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1 工学部2号館12階122A3号室
Tel:03-5841-6672
E-mail:
研究室ホームページ:http://www.lsi.t.u-tokyo.ac.jp

黒田 忠広(クロダ タダヒロ)
慶應義塾大学 理工学部 電子工学科 教授
〒223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉3-14-1
Tel/Fax:045-566-1534(ダイヤルイン)
E-mail:
研究室ホームページ:http://www.kuroda.elec.keio.ac.jp

<JSTの事業に関すること>

長田 直樹(ナガタ ナオキ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail: