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平成22年6月14日

九州大学
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科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)

旭化成株式会社
Tel:0545-62-3111(研究開発センター)

新しい多孔性材料によりアルコールから電気エネルギーの取り出しに成功

−白金を使用しない電極触媒の開発と機構解明−

九州大学、旭化成株式会社は共同で、新しい多孔性材料注1)による電極触媒注2)の開発と理論的機構解明に世界で初めて成功しました。今回開発された電極触媒は白金などの貴金属を使用していないことから、安価な電極触媒の開発につながるものと期待されます。これは、北川 宏 教授(京都大学、平成22年3月まで九州大学 招聘教授)、古山 通久 教授(九州大学 稲盛フロンティア研究センター 次世代エネルギー研究部門)、木下 昌三 主幹研究員(旭化成株式会社)らによる共同研究の成果です。

活性炭に代表される吸着剤は、分子を取り込み吸着する役割を果たす物質であり、物質内部に多数の小さな穴(細孔)を有することから「多孔性物質」と呼ばれています。活性炭やゼオライトに比べて高いガス選択吸着性を示す「多孔性金属錯体」は、高効率分離・濃縮機能を有する多孔性物質として90年代後半から注目され、世界中で研究開発が進められています。特に最近では、COを選択的に高効率で吸着する多孔性金属錯体がいくつか開発され、それらの特異な柔軟構造により脱着時のエネルギーが少なくて済むことから、炭酸ガス削減技術の観点からも注目されています。他方、この材料を燃料電池などの電極触媒(電極上で化学反応を活性化させる物質)に応用する技術にも関心が寄せられていますが、これまで、電極触媒活性を示す多孔性金属錯体の開発には誰も成功していませんでした。

上記研究グループは、今回、エタノールから極めて低電位で電気エネルギーを取り出す多孔性金属錯体の開発に成功し、精密な計算化学によりその吸着機構と触媒機構を明らかにしました。この研究成果により、安価な非白金系電極触媒の開発やバイオマスを原料とする燃料電池等の開発が大きく加速することが期待されます。

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「ナノ界面技術の基盤構築」における研究課題「錯体プロトニクスの創成と集積機能ナノ界面システムの開発」(研究代表者:北川 宏)、及び九州大学と旭化成株式会社とが進める共同研究の一環として、同大学において実施したものです。

本研究成果に関する原著論文は、ドイツの科学誌である「Angewandte Chemie International Edition(応用化学誌 国際版)」のオンライン速報版で近日中に公開されます。

<背景>

活性炭に代表される吸着剤は、分子を取り込み吸着する役割を果たす物質であり、物質内部に多数の細孔を有することから「多孔性物質」と呼ばれています。多孔性物質は、一般に細孔の大きさにより、マクロ孔(>50nm)、メソ孔(2〜50nm)、ミクロ孔(<2nm)に分類されます。特にミクロ孔は、細孔サイズが分子サイズに近いために様々な分子の吸着・分離(分子ふるい)の目的に有用なため、ミクロ孔を有する活性炭やゼオライトは古くから研究が行われてきました。90年代後半から、活性炭やゼオライトに次ぐ第3の多孔性材料として、多孔性金属錯体(PCP:Porous Coordination Polymer(多孔性配位高分子)やMOF:Metal−Organic Framework(金属−有機物構造体)と呼ばれている)が大変注目されています。ゼオライトに比べて空隙率が高く、また活性炭に比べて規則性(結晶性)が高いことが特長です。また、設計性や物質群としての多様性にも優れ、細孔のサイズや形状、細孔壁の親水性・疎水性の制御が可能であります。さらに、一部の多孔性金属錯体ではゲートオープン機能注3)を発現する柔軟構造を有することから高いガス吸着選択性を示し、高効率分離・濃縮機能を有する多孔性物質として多方面から注目を集めています。特に、COを選択的に高効率で吸着する多孔性金属錯体が幾つか開発され、脱着時のエネルギーが小さいことから、炭酸ガス除去材料として、欧米で研究開発が精力的に進められています。他方、多孔性材料は電極触媒の担持材料として利用されており、電気伝導性のあるカーボンを中心に用いられています。しかしながらこれまで多孔性材料自体に触媒活性のあるものはなく、白金などの高価な貴金属微粒子がカーボン等に担持されたものが触媒として使用されています。この場合、電極付近には燃料極、固体高分子電解質、触媒の3つで作られる三相界面注4)が存在することになり、この界面での電子やイオンの移動の問題が燃料電池開発の大きな障害になっています。多孔性材料自体が電子とイオンを良く流し(混合伝導性)、かつ触媒機能を有すれば、この問題が一気に解決されます。北川教授はこれまでの研究でルベアン酸銅を構成単位とする多孔性金属錯体が混合伝導性を有することを見出しており、この物質の触媒機能の確認が急務の課題になっていました。

<内容>

多孔性金属錯体の1種で混合伝導性を有するルベアン酸銅誘導体RdtoaCu(R=HOC)(図1)に対して、バイオマス系燃料電池の電極触媒を想定し、エタノールの吸着能と酸化能について調べました。その結果、室温で銅2原子当たり0.8分子のエタノールを吸着することがわかりました。さらに、ルベアン酸銅誘導体を塗布したカーボン電極を用いて電気化学測定(サイクリックボルタモグラム)を行った結果、電解液中にエタノールを添加すると、エタノールがない場合に比べ、0.4V付近の酸化波のピークが増大することがわかりました。このことは、エタノールが極めて低い電位で酸化されることを示しています。また、酸化反応で生成した生成物を、ガスクロマトグラフィーによって同定した結果、アセトアルデヒドが生成していることがわかりました。

dtoaCuとエタノールとの相互作用エネルギー及び、ルベアン酸銅とエタノールプロトン脱離後の相互作用を量子化学計算手法の1つである密度汎関数法(DFT)法注5)を用いて計算した結果、ルベアン酸銅とエタノールとの相互作用は大きい一方でプロトン脱離後の相互作用は小さいことがわかりました。このことは、エタノールの吸着は促進される一方で、反応後は逆に脱離が促進されることを示しており、エタノールが極めて低い電位で酸化されたことを裏付けるものと言えます。

<効果と今後の展開>

本成果は、(1)基礎面、(2)応用面の両方において、大きな波及効果が期待されます。

  1. (1) 触媒作用と混合伝導性を併せ持つ多孔性材料の報告はなく、本研究結果は新しいタイプの多孔性材料を開発したものと言えます。貴金属触媒と同レベルの極めて低い電位でバイオ燃料であるエタノールからエネルギーを取り出せることが明らかになり、非白金系でありながら高効率に働く電極触媒であることがわかりました。
  2. (2) 本研究で得られた多孔性電極触媒は三相界面の問題を抜本的に解決するものであり、高効率な電極触媒(例えば燃料電池の電極触媒)の開発が大きく前進することが期待されます。また白金などの貴金属を使用しないことから、バイオマスを原料とする燃料電池の開発の促進が期待されます。
     現在、この研究の要素技術を用いて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発事業「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発:多孔性金属錯体(PCP)を利用した副生ガスの高効率分離・精製プロセスの基盤技術開発」(プロジェクトリーダー:北川 宏)において企業との共同研究を始めています。このプロジェクトでは、CO等の副生ガスの高効率回収技術の確立と回収したガスの化学品への転換に取り組んでおり、ナノテクノロジーの活用により、環境・エネルギー問題の解決を目指しています。

<参考図>

図1

図1 多孔性金属錯体を用いた電極触媒の模式図

規則正しいナノ細孔を有するルベアン酸銅RdtoaCu(R=HOC)は、エタノール分子(COH)を吸着し、低電位でエタノールをアセトアルデヒド(CHCHO)に酸化して、高効率に電気エネルギーを取り出すことができる。

<用語解説>

注1) 多孔性材料
活性炭に代表される吸着剤は、分子を取り込み吸着する役割を果たす物質であり、物質内部に多数の小さな穴(細孔)を有することから「多孔性材料」と呼ばれています。身の回りでは、水の浄化剤や冷蔵庫の脱臭剤に使用されています。多孔性物質は、一般に細孔の大きさにより、マクロ孔(>50nm)、メソ孔(2〜50nm)、ミクロ孔(<2nm)に分類されます。特にミクロ孔は、細孔サイズが分子サイズに近いために様々な分子の吸着・分離(分子ふるい)への実用面から、ミクロ孔を有する活性炭やゼオライトは古くから研究が行われてきました。その用途は、分離、除去、貯蔵、触媒など多岐に渡っています。
注2) 電極触媒
自らは変化せずに電極上で起こる電気化学反応を促進する物質です。電極触媒は燃料電池用触媒などで代表されるような化学エネルギーの電気エネルギーへの変換や、水の電気分解やソーダ工業などで代表されるような電気エネルギーを利用した化学変化などに用いられています。燃料電池に用いる電極触媒は重要な技術要素の1つであり、実用化に向けては高活性で安価な電極触媒が必須であります。燃料電池の広範な普及には高価で資源量が限られている白金の使用量の抜本的な削減が大きな課題になっています。
注3) ゲートオープン機能
多孔性金属錯体特有の性質で、分子の吸着に由来して、細孔が閉じた構造から開いた構造へ変化する機能のことです。閉じた構造をこじ開けるにはある圧力以上の分子圧が必要になりますが、このゲート圧は分子の種類によって異なります。ガスの圧力を調整することで、ターゲットとなるガス分子のみを選択的に吸着させることが可能であり、分離材としての応用に期待が集まっています。
注4) 三相界面
燃料ガス、電解質、触媒が同時に接触する界面のことであります。電気分解や燃料電池の触媒反応は気相-電解質液相-触媒相の3つの相が互いに接している三相界面のみで進行するため、これらの化学反応が進行する触媒表面での活性化損失をできるだけ小さくしなければなりません。電極触媒活性の改善には現在、担持触媒の高分散化やナノサイズ化により、三相界面が多数形成される技術の開発が進められています。
注5) 密度汎関数法(DFT:Density Functional Theory)法
量子論に基づき対象の電子状態を求めることで、材料の物性や機能を予測することのできる手法です。量子論に基づく手法には様々なものがありますが、密度汎関数法は実験結果との対応性の観点で最も高精度で信頼性の高い手法です。

<原著論文>

“A Metal-Organic Framework as An Electrocatalyst for Ethanol Oxidation”
Lifen Yang, Shozo Kinoshita, Teppei Yamada, Seiichi Kanda, Hiroshi Kitagawa, Makoto Tokunaga, Takayoshi Ishimoto, Teppei Ogura, Ryo Nagumo, Arika Miyamoto, Michihisa Koyama
Angew. Chem. Int. Ed., 49 (2010).
doi: 10.1002/anie.201000863

<お問い合せ先>

<研究内容に関して>

北川 宏(キタガワ ヒロシ)
国立大学法人 京都大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授
Tel&Fax:075-753-4035
E-mail:

古山 通久(コヤマ ミチヒサ)
国立大学 法人九州大学 稲盛フロンティア研究センター 教授
E-mail:

木下 昌三(キノシタ ショウゾウ)
旭化成株式会社 新事業本部 研究開発センター 主幹研究員
Tel:0545-62-3111
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

長田 直樹(ナガタ ナオキ)
独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
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<報道担当>

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