JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成22年5月31日

九州大学
Tel:092-642-2106(広報室)

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404 (広報ポータル部)

高輝度光科学研究センター
Tel:0791-58-2785(広報室)

多孔性ナノ薄膜の作製と界面ナノ構造解析に成功

―多孔性材料が結晶性の配向ナノ薄膜であることが明らかに。
燃料電池などの高効率な電極触媒開発に貢献―

九州大学(有川 節夫 総長)、高輝度光科学研究センター(JASRI、白川 哲久 理事長)は共同で、多孔性配向ナノ結晶薄膜の開発とその表面構造解析に世界で初めて成功しました。この新しい多孔性配向ナノ結晶薄膜の作製手法確立が、これまでになく安定性の高い高効率な電極触媒の開発につながるものと期待されます。これは、北川 宏 教授(京都大学 教授、平成22年3月まで九州大学 招聘教授)、JASRIの坂田 修身 主幹研究員らによる共同研究の成果です。

活性炭に代表される吸着剤は、分子を取り込み吸着する役割を果たす物質であり、物質内部に多数の細孔を有することから「多孔性物質」と呼ばれています。活性炭やゼオライトに比べて高いガス吸着選択性を示す「多孔性金属錯体」は、高効率分離・濃縮機能を有する多孔性物質として90年代後半から注目され、世界中で研究開発が進められています。特に最近では、COを選択的に高効率で吸着する多孔性金属錯体がいくつか開発され、それらの特異な柔軟構造により脱着時のエネルギーが少なくて済むことから、炭酸ガス削減技術の観点からも注目されています。他方、この材料を自己組織化法注1)Layer−by−Layer法注2)を用いて基板表面にナノ積層膜を積み上げる技術にも関心が寄せられていますが、これまで配向性を有するナノ結晶薄膜(多孔性配向ナノ結晶薄膜)の作製には誰も成功していませんでした。

上記研究グループは今回、ナノテクノロジーを駆使して多孔性配向ナノ結晶薄膜を作製することに成功し、その構造を大型放射光施設SPring−8注3)の高度な測定技術により明らかにしました。この研究成果により、高効率な電極触媒やナノ界面デバイス、エネルギーナノデバイスなどの開発が大きく加速するものと期待されます。

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「ナノ界面技術の基盤構築」における研究課題「錯体プロトニクスの創成と集積機能ナノ界面システムの開発」(研究代表者:北川 宏)の一環として、また大型放射光施設SPring−8の利用研究課題として行われたものです。

本研究成果に関する原著論文は、2010年5月30日(英国時間)に英国科学雑誌である「Nature Materials」のオンライン速報版で公開されます。

<背景>

活性炭に代表される吸着剤は、分子を取り込み吸着する役割を果たす物質であり、物質内部に多数の細孔を有することから「多孔性物質」と呼ばれています。多孔性物質は、一般に細孔の大きさにより、マクロ孔(>50nm)、メソ孔(2〜50nm)、ミクロ孔(<2nm)に分類されます。特にミクロ孔は、細孔サイズが分子サイズに近いために様々な分子の吸着・分離(分子ふるい)への実用面から、ミクロ孔を有する活性炭やゼオライトは古くから研究が行われてきました。90年代後半から、活性炭やゼオライトに次ぐ第3の多孔性材料として、多孔性金属錯体(PCP:Porous Coordination Polymer(多孔性配位高分子)やMOF:Metal−Organic Framework(金属−有機物構造体)と呼ばれている)が大変注目されています。ゼオライトに比べて空隙率が高く、また活性炭に比べて規則性(結晶性)が高いことが特長です。また、設計性や物質群としての多様性にも優れ、細孔のサイズや形状、細孔壁の親水性・疎水性の制御が可能であります。さらに、一部の多孔性金属錯体ではゲートオープン機能を発現する柔軟構造を有することから高いガス吸着選択性を示し、高効率分離・濃縮機能を有する多孔性物質として多方面から注目を集めています。特に、COを選択的に高効率で吸着する多孔性金属錯体が幾つか開発され、脱着時のエネルギーが小さいことから、炭酸ガス除去材料として、欧米で研究開発が精力的に進められています。他方、多孔性材料を用いた膜分離プロセスは蒸留法などに比べて省エネルギーな分離法であり、カーボン膜やシリカ膜、ゼオライト膜などが熱分解法や化学気相成長(CVD)法、水熱合成法により作製されていますが、これまでナノレベルで精密に膜厚制御された結晶性薄膜はありませんでした。

そのような背景から、多孔性金属錯体をLayer−by−Layer法や自己組織化法を用いて基板表面にナノ積層膜を積み上げる技術にも関心が寄せられていますが、配向性を有するナノ結晶薄膜の作製にはこれまで成功していませんでした。

<内容>

2次元ネットワーク(面内周期構造)を形成するのに優れたLangmuir−Blodgett(LB)法と、分子の積層および逐次成長(面外周期構造)させるのに優れたlayer-by-layer法を巧みに組み合わせた新規手法の開発により、多孔性金属錯体のナノ薄膜を作製しました(図1)。構成要素として、安定性が高いポルフィリン分子(CoTCPP)を選択し、ピリジン(py)と塩化銅水溶液によりCoTCPPが銅イオンで架橋された2次元ネットワーク(CoTCPP−py−Cu)を作製しました。CoTCPP−py−Cu単分子膜を、水平浸漬法により石英もしくは単結晶シリコン基板に移しとり、このサイクルを繰り返すことにより薄膜のlayer−by−layer成長を行いました。20サイクルの薄層成長により単結晶シリコン基板上に作製した薄膜(NAFS−1)を、大型放射光施設SPring−8における放射光X線回折手法を用いてその構造の詳細を調べました。NAFS−1のXRD回折パターンにおいてout−of−plane、in−plane配置共にピークが観測されたことから、薄膜面内、面外共に結晶性であることが分かりました。また、out−of−planeとin−planeのピーク位置が完全に異なることから、結晶成長方向が完全に制御されていることが明らかとなりました。NAFS−1の結晶構造は、in−plane XRDパターンのシミュレーションを行い、構造の詳細を解明することに成功しました。

<効果と今後の展開>

本成果は、1基礎面、2応用面の両方において、大きな波及効果が期待されます。

1 ナノメートルレベルで膜厚制御可能な多孔性薄膜の報告は殆どなく、本研究結果は、多孔性薄膜作製の新たな手法を確立したものです。しかも、配向制御された結晶性膜であり、電子伝導性、イオン伝導性、ポテンシャル制御による異方的物質輸送や反応など、ナノ界面における多くの素機能・素物性の複合化が大いに期待されます。

2 本研究で得られた多孔性配向ナノ結晶薄膜は高効率な膜分離プロセスへの応用は勿論のこと、多様な触媒と複合化することによって高効率な電極触媒(例えば燃料電池の電極触媒)の開発が大きく前進することが期待されます。また配向制御されていることから電子・イオン・物質の輸送損失が少なく、しかも結晶性であることから格子欠陥が少なく耐久性が向上することが考えられます。また、異種ナノ薄膜接合により傾斜型静電ポテンシャルの制御が可能になり、界面における一方向での物質輸送や電子・イオン輸送の発現が期待されます。これらは、発光デバイスなどのナノ界面デバイスやエネルギーナノデバイス、キャパシタなどの応用面が期待されます。さらに、このナノ薄膜は、将来的にはインクジェット法によりパターニングを行うことも可能です。

現在、この研究による基本特許を用いて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発事業「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発:多孔性金属錯体(PCP)を利用した副生ガスの高効率分離・精製プロセスの基盤技術開発」(プロジェクトリーダー:北川 宏)において企業との共同研究を始めています。このプロジェクトでは、COの高効率回収技術の確立と回収したCOガスの化学品への転換に取り組んでおり、ナノテクノロジーの活用により、環境・エネルギー問題の解決を目指しています。

<参考図>

図1

図1 多孔性配向ナノ結晶薄膜の模式図

基板(石英もしくは単結晶シリコン、クリーム色で図示)上に、薄膜の構成要素が整列している。ポルフィリン分子(CoTCPP、灰色と赤色、緑色で図示)が、ピリジン(py、灰色と青色から成る六員環で図示)と銅(Cu、ピンク色で図示)イオンとで錯体を形成し、結晶性ナノ薄膜を作製した。

<用語解説>

注1) 自己組織化法
分子や原子が自ら集合・配列し、望ましい構造を自然に形成する現象を利用して成膜する手法のことである。生体では、細胞内のたんぱく質や膜構造において自己組織化が大きな役割を果たしており、同様の現象をエレクトロニクスに応用する可能性が探索されている。特に自己組織化法は、有機分子や錯体分子の特性を十分に活かした手法であり、今後の有機エレクトロニクス材料の成膜法として欠かすことのできない技術である。
注2) Layer−by−Layer法
逐次積層法は、環境負荷の少ない水系のコーティングでありながら、ナノオーダーの厚み制御が可能であるため、次世代薄膜コーティング技術として期待されている。従来の「ドライプロセス」による薄膜製造装置は真空条件を必要とするなどコスト面でのデメリットもあるが、「ウェットプロセス」では常温・常圧下で低コストに製膜することが可能である。
注3) 大型放射光施設SPring−8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その管理運営はJASRIが行っている。SPring−8の名前はSuper Photon ring−8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring−8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

<原著論文>

“Surface Nano-Architecture of A Metal-Organic Framework”
R. Makiura, S. Motoyama, Y. Umemura, H. Yamanaka, O. Sakata, H. Kitagawa
Nature Materials, Volume 9
doi: 10.1038/nmat2769

<お問い合せ先>

<研究内容に関して>

北川 宏(キタガワ ヒロシ)
国立大学法人 京都大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授
Tel&Fax:075-753-4035
E-mail:

坂田 修身(サカタ オサミ)
財団法人 高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 主幹研究員
Tel:0791-58-2750 Fax:0791-58-0830
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

長田 直樹(ナガタ ナオキ)
独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail:

<報道担当>

国立大学法人 九州大学 広報室
Tel:092-642-2106 Fax:092-642-2113
E-mail:

独立行政法人 科学技術振興機構 広報ポータル部
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

財団法人 高輝度光科学研究センター 広報室
Tel:0791-58-2785 Fax:0791-58-2786
E-mail: