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平成22年3月19日

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構

東北大学 大学院理学研究科

科学技術振興機構(JST)

鉄系高温超伝導体におけるディラック電子的振る舞いの観測に成功

−超高速超伝導電子デバイスへ道−

<概要>

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構の高橋 隆 教授と同大学 大学院理学研究科の佐藤 宇史 助教らの研究グループは、最近日本において発見された鉄系高温超伝導体において、「ディラックコーン」と呼ばれる特異な電子状態が実現していることを初めて明らかにしました。この発見は、鉄系高温超伝導体を用いた超伝導・超高速電子デバイスへの道を拓くものです。

本研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review Letters(フィジカル・レビュー・レターズ)」の注目論文に選ばれ、オンライン速報版で近日中に公開されます。

本成果は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域(研究総括:田中 通義 東北大学 名誉教授)の研究課題「バルク敏感スピン分解超高分解能光電子分光装置の開発」(研究代表者:高橋 隆)、および、JST 同事業の「新規材料による高温超伝導基盤技術」(TRiP)研究領域(研究総括:福山 秀敏 東京理科大学 教授)の研究課題「高分解能ARPESによる鉄系高温超伝導体の微細電子構造の研究」(研究代表者:佐藤 宇史)によって得られました。

<背景>

固体中の電気伝導を担う電子は、通常、有限の質量をもって運動していますが、ディラックコーン状態と呼ばれる特殊な状態(図1)になると、電子は素粒子の一種であるニュートリノと同じ質量ゼロのディラック粒子となって固体中を運動すると理論的に予言されていました。このような状態にある粒子は光速に近い速度で運動し、その運動は、今から約80年前に英国の物理学者ディラック(1933年ノーベル物理学賞)が提唱した相対論的量子力学に従います。ディラックコーン状態は、これまで原子1層の炭素薄膜(グラフェン)や有機導体などでその可能性が指摘され、トランジスターなどの次世代超高速電子デバイスなどへの応用研究が世界中で精力的に展開されていますが、それ以外の物質において実現するかどうかはよく分かっていませんでした。

<研究の内容>

今回東北大学のグループは、外部光電効果注1)を利用した角度分解光電子分光注2)という手法を用いて、鉄系超伝導体注3)から電子を直接引き出して、そのエネルギー状態を高精度で調べました(図2)。その結果、室温から温度を下げて、試料が反強磁性状態注4)に変化した途端、電子の運動状態が劇的に変化して、ディラックコーン状態が出現することを世界で初めて明らかにしました。さらに、今回の研究では、このディラックコーンの出現が、超伝導体内部の磁気的秩序と密接に関係していることも見いだされました。

<今後の展望>

今回の研究成果は、ディラックコーン状態がグラフェン等のごく限られた物質だけでなく、鉄系超伝導体のような超伝導物質においても発現することを示したものです。将来的には、超伝導物質の原子種類や組成などを工夫することでディラックコーン状態の電子を制御して、超伝導・超高速電子デバイスの実現などへの産業応用が期待されます。

<参考図>

図1

図1 ディラックコーン状態における電子のエネルギー関係の模式図

バンド分散が直線的であるために電子の有効質量がゼロとなり、電子がディラック粒子的な振る舞いを示す。

図2

図2 光電子分光の概念図

物質に高輝度紫外線を照射して出てきた光電子のエネルギー状態を精密に測定する。矢印は反強磁性状態におけるスピンの向きを示す。

<用語解説>

注1) 外部光電効果
物質に紫外線やX線を入射すると電子が物質の表面から放出される現象です。物質外に放出された電子は光電子とも呼ばれます。この現象は、1905年に、アインシュタインの光量子仮説によって理論的に説明されました。アインシュタインは、この業績でノーベル賞を受賞しています。
注2) 角度分解光電子分光
結晶の表面に高輝度紫外線を照射して、外部光電効果注1)により結晶外に放出される電子のエネルギーと運動量を同時に測定する実験手法です。この方法により、固体中の電子のエネルギーと運動量の関係(これをバンド分散といいます)を決定でき、決定されたバンド分散から物質の示す様々な性質(例えば超伝導や光学的性質など)を説明することができます。
注3) 鉄系超伝導体
鉄系超伝導体は、2006年に東京工業大学の細野 秀雄 教授らのグループによってLaFePO1−xという物質で最初に発見され、その後同グループによって、2008年2月にリン(P)をAs(砒素)に置き換えることによって転移温度が劇的に上昇することが明らかにされました。現在、鉄系高温超伝導体の基礎科学および産業応用のための研究が世界的規模で爆発的に進展しています。鉄素系超伝導体の母物質(キャリアーが注入されていない物質)は半金属で、低温で反強磁性転移を示しますが超伝導にはなりません。この母物質に電子またはホールを注入することで超伝導が発現します。
注4) 反強磁性状態
隣り合う電子スピン同士が反対を向き、結晶全体の磁化が打ち消されている状態を指します。鉄系超伝導体の母物質では、図2の赤や青の矢印の方向に鉄のスピンが秩序した反強磁性状態が実現します。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

高橋 隆(タカハシ タカシ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授
Tel:022-795-6417
E-mail:

佐藤 宇史(サトウ タカフミ)
東北大学 大学院理学研究科 助教
Tel:022-795-6477
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

CRESTについて
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