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平成22年2月25日

理化学研究所
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科学技術振興機構(JST)
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深紫外発光ダイオードの出力が7倍(15mW)の世界最高値を達成

−半導体殺菌灯の実用レベルをクリアし、実現に向けて大きく前進−

<本研究成果のポイント>

○ 多重量子障壁を用い、深紫外LEDの電子注入効率を80%以上と飛躍的に向上

○ 殺菌、医療、生化学産業、公害物質の分解処理など各種応用展開を促進

○ 紫外、青色、緑色半導体レーザ、LED、白色LEDランプでも効果が期待

独立行政法人 理化学研究所(理研、野依 良治 理事長)と独立行政法人 科学技術振興機構(JST、北澤 宏一 理事長)は、殺菌効果が高く、ダイオキシンなどの公害物質の高速分解を可能とする波長250nm帯の深紫外注1)発光ダイオード(LED)出力を、従来の7倍である15mWと飛躍的に高出力化することに成功しました。これは、理研基幹研究所 先端光科学研究領域 テラヘルツ光研究グループ テラヘルツ量子素子研究チームの平山 秀樹 チームリーダーによる研究成果です。

波長220〜350nm帯の深紫外光を発する高輝度LEDや同波長のレーザを発する深紫外半導体レーザ(LD)は、殺菌・浄水、各種医療分野、高密度光記録、高演色LED照明、公害物質の高速分解処理などと非常に幅広い分野での応用が期待されています。特に、殺菌効果が最も高い250〜280nm帯の半導体紫外光源が実現すると、医療や家庭で用いる小型殺菌灯などの用途が大きく広がります。しかし、これまで深紫外LEDでは、発光領域への電子注入効率注2)が10〜30%と低く、高効率動作は実現できませんでした。

研究グループは、多重量子障壁(MQB:Multiquantum Barrier)注3)層を深紫外LEDに初めて導入し、電子注入効率を80%以上に飛躍的に向上させることに成功しました。この結果、殺菌効果の高い波長250nmのLEDの効率を、従来の0.4%から1.5%まで(約4倍)増加させ、紫外光出力を室温連続動作において従来の2.2mWから15mWまで(約7倍)高めることに成功し、いずれも世界最高値を達成しました。この成果は、今後の医療、殺菌・浄水、生化学産業への応用に向け大きな前進をもたらすと考えられます。さらに、今回用いたMQBによる電子注入の高効率化は、紫外、青色、緑色LDやLED、白色LEDランプなど幅広い発光デバイスにも導入でき、大きな効果が期待できます。

本研究成果は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」研究領域における研究課題「230−350nm帯InAlGaN系深紫外高効率発光デバイスの研究」(研究代表者:平山秀樹)によって得られたもので、科学雑誌「Applied Physics Express」(2010年3月25日号)に掲載されるに先立ち、2010年2月26日(日本時間)にオンライン版に掲載されます。また、MQBの効果については、2010年2月24日(日本時間)に特許出願しました。

1.背景

波長が220〜350nm帯の深紫外光を高効率に発する発光ダイオード(LED)や半導体レーザ(LD)は、殺菌・浄水、各種医療分野、高密度光記録、高演色LED照明、公害物質の高速分解処理など、大変幅広い分野での応用が期待されています(図1)。特に、バクテリアなどの殺菌では、紫外光により直接殺菌する効果が最も高い250〜280nm付近の波長領域の光が応用され、有機物、ダスト、ダイオキシンなどの難分解性汚染物質の分解では、酸化チタンなどの光触媒に波長270〜320nm帯の紫外光を当て、効率よく分解する紫外線照射システムが注目されています。これまで深紫外光源は、エキシマレーザや各種SHGレーザ(第2高調波発生レーザ)注4)のような、ガス・固体を媒体とする紫外レーザやガスランプが主流でした。これらは、大型で、寿命も短く、また高価なため一般への応用が難しいのが現状でした。一方、半導体を使った高輝度の深紫外LEDや深紫外LDが実現すると、コンパクトで安価・高効率・長寿命の紫外光源が得られることになり、応用分野が飛躍的に広がるため、その開発が望まれていました。

窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系の材料注5)は、実用可能な深紫外発光デバイスを実現する材料として最も有力であると考えられ、多くの研究グループが、AlGaN系の深紫外発光デバイスの実現に向け、激しい開発競争を繰り広げてきました。研究グループはこれまでに、波長222〜351nmの広い深紫外領域を持つ三元系半導体のAlGaN系深紫外LED、四元系半導体のInAlGaN系深紫外LEDを開発し、さらに、窒化アルミニウム(AlN)注6)バッファー層(下地層)の貫通転位密度注7)の低減や、電子ブロック層注8)を導入することで、世界最高効率、最高出力動作を実現してきました。しかし、AlGaN系深紫外LEDでは、p型注9)層のホール濃度注9)が大変低いため、発光層への電子注入効率が10〜30%と低く、深紫外LEDの高効率化は難しい状況でした。

2.研究手法と成果

窒化物半導体の物性としてp型層のホール濃度が大変低いため、深紫外LEDの出力効率を決める電子注入効率(EIE)の改善は困難であると考えられてきました。研究グループは、電子ブロック層として多重量子障壁(MQB:Multiquantum Barrier)を量子井戸発光層の上部(p型層側)に挿入することで(図2)、この問題の解決に取り組みました。

シングルバリア注10)の場合、バリアの高さは、バリア最上部のポテンシャルエネルギーで決まり、それ以上のエネルギーの電子は、ほとんど反射されず発光層に戻りません。そのため、エネルギーの高い電子は、発光層に注入されずにp型層側へ流れてしまいます。しかし、MQBを用いた場合には、量子力学的な電子の多重反射効果によって、バリアの高さよりも高いエネルギーの電子も反射され、シングルバリアの場合に比べて、実効的なバリアの高さが約2倍という高い電子ブロック効果を実現できます(図3)。すなわち、従来のシングルバリアの場合は、材料の限界でその特性が制限されるのに対し、MQBでは多層バリア構造を最適化することで量子力学的な電子の多重反射効果を用いることができるため、高い実効的バリアの高さを実現することが可能となります。その結果、MQBを用いた電子ブロック層は、発光層への電子注入効率が、従来のシングルバリア層の10〜30%程度から、最大で80%以上と飛躍的に改善しました。

MQBを導入したAlGaN系深紫外LEDの発光スペクトル、紫外光出力、外部量子効率注2)を測定したところ、殺菌効果の高い波長領域(250〜262nm)で高効率動作を実現しました(図4)。紫外光出力・外部量子効率に関して、従来のシングルバリアのLEDと比較した結果、250nmの深紫外LEDでは、外部量子効率が従来の0.4%から1.5%まで約4倍、紫外光出力は室温連続動作において従来の2.2mWから15mWまでの約7倍増加し、いずれも世界最高値を達成しました。MQBの導入によって電子注入効率は、推定で22%から83%程度に増加しており、MQBによる電子注入効率改善の効果は絶大であることが分かりました。すなわち、p型AlGaNの低いホール濃度に起因する電子注入効率低下の問題は、MQB導入によりほぼ解決できることが確かとなりました。

また、MQBを導入したAlGaN系深紫外LEDの外部量子効率の波長依存性を、従来のシングルバリアの深紫外LEDと比べてみると、波長250〜260nm帯で大幅な効率の改善が見られました(図5)。また、MQBは同一周期の繰り返しよりも、変調バリア注11)を採用した方が効果の高いことが分かりました。この結果は、まだ実験の初期段階の成果であり、今後MQB構造を最適化するに従い、さらに効率は伸びるものと考えられます。

3.今後の期待

今回、これまで不可能とされていた深紫外LEDの高効率化に初めて成功し、紫外光出力は、実用レベルを大きく上回ることができました。今後、MQB構造の最適化を行うことで、波長250〜280nm帯の殺菌用途深紫外LEDの効率はさらに向上し、波長220〜390nmの広い波長領域でも高効率化を実現すると考えられます。また、MQBは、高いエネルギーの電子を反射する効果が高いため、高キャリア密度の場合に特にその効果を発揮し、いまだ実現していない深紫外LDを実現する上で鍵を握る技術となります。

MQBは、紫外発光デバイスだけでなく、すでに高効率化が実現している青色LED、緑色LDやLED、白色LEDランプの効率をさらに改善することも可能です。例えば、MQBを用いると、高い注入電流の場合でも高い電子注入効率(〜100%)を保持することが可能なため、青色LEDで問題となっている高出力時の効率の低下の改善が期待できます。

研究グループは、現在6〜8%と低い光取り出し効率(LEE)注2)の改善に取り組んでおり、1年以内に高効率化が実現すると考えています。今後、深紫外LEDの高効率、高出力が進み、現時点で1.5%の効率を数十%まで高めると、殺菌・浄水、各種医療分野、公害物質の高速分解処理など、多岐にわたる分野での応用が開花すると期待されます。

<参考図>

図1

図1 半導体深紫外光源の応用分野

図2

図2 多重量子障壁(MQB)を用いたAlGaN系紫外LEDの構造と発光の様子

図3

図3 多重量子障壁(MQB)の効果の概念と解析例

MQBを用いると、量子力学的な電子の多重反射効果により、シングルバリアのときよりも高いエネルギーの電子を跳ね返すことができる。シングルバリアを用いた場合、電子の漏れが発生するのに対し、MQBを用いた場合はほとんどの電子が反射され発光層に注入される。解析結果から、MQBを用いた場合実効的なバリア高さはシングルバリアのときの2〜3倍と大きく、電子ブロック効果が高い。

図4

図4 MQBを用いたAlGaN量子井戸紫外LEDの発光スペクトル、紫外光出力および外部量子効率

MQBを用いると、シングルバリアを用いたときに比べ、7倍の紫外光出力、4倍の外部量子効率を得た。

図5

図5 AlGaN量子井戸LEDの外部量子効率の波長依存性

MQBを用いると、シングルバリアを用いたときに比べ、波長250〜260nm帯で大幅に外部量子効率が改善した。変調バリアを導入するとさらにその効果が高くなる。

<補足説明>

注1) 深紫外
ここでは、紫外波長領域でも波長200〜350nm帯を深紫外と定義している。可視(紫、藍、青、緑、黄色、橙、赤)の波長である400〜780nmと深紫外との間の領域を近紫外(350〜400nm)とし、波長が200nm以下の短波は、空気中の酸素を分解してオゾンを発生させる波長領域で真空紫外と呼ばれる。深紫外は、“殺菌”、つまりタンパク質の分解に最も効果的な波長である260nm帯や、皮膚の日焼けなどを起こすUV−B(280〜315nm)の波長を含む。深紫外はDNA、タンパク質、生物・生体への作用が大きいことから、医療、殺菌・浄水、生化学分野への応用が重要である。また、酸化チタンなどの光触媒に照射することで、ダイオキシン、PCB、有機塩素化合物、各種環境ホルモンなどの難分解性汚染物質を高速分解処理できるなど、使い道は幅広い。
注2) 電子注入効率、外部量子効率、光取り出し効率
紫外LEDの出力効率は外部量子効率で測定される。外部量子効率(EQE:External Quantum Efficiency)とはデバイスの発光領域に印加する電圧と電流の積(投入電力)に対するデバイスから外部に放射される光出力で定義される。外部量子効率は、内部量子効率(IQE:Internal Quantum Efficiency)、電子注入効率(EIE:Electron Injection Efficiency)と、光取り出し効率(LEE:Light Extraction Efficiency)の積で決定される。内部量子効率は、発光領域に注入される電子数のうち発光に寄与する電子数の割合で定義され、発光層の純粋な発光効率である。研究グループでは、AlNバッファー層の貫通転位密度を低減することにより、従来0.5%以下であった内部量子効率を、50〜80%に増加させることに成功している。電子注入効率は、全注入電流に対する発光層に注入される電子の割合で定義される。深紫外LEDでは、電子が発光層に注入されずにp側層に漏れてしまうため、電子注入効率が10〜30%と低い。光取り出し効率は、発光領域から放射された光のうち外部に取り出せる光の割合である。光取り出し効率は、デバイス構造内部での光の吸収によって低下し、深紫外LEDでは電極やコンタクト層で深紫外光が吸収されるため、6〜8%と特に低い。
注3) 多重量子障壁(MQB:Multiquantum Barrier)
半導体中の電子の波長程度の膜厚(数nm)を持つ半導体多層へテロ構造で、バリア層とバレイ層を交互に多層積層させた構造である。バリア層が1層のときは、バリアのポテンシャルエネルギー以上のエネルギーの電子は透過してしまうのに対し、MQBでは量子力学的な電子の多重反射効果によって、バリアのポテンシャルエネルギーよりも2〜3倍高いエネルギーの電子でも反射可能である。深紫外LEDでは、電子のp型層への流れをブロックし、発光層への電子の注入効率を向上させるのに有用である。多層バリア構造の周期を変えることにより、反射する電子のエネルギー帯を変えることができる。また、周期の異なるバリア層を何種類か組み合わせて積層することにより、広いエネルギー範囲で電子をブロックすることができ、LEDの電子ブロック層として用いると効果が高い。
注4) SHGレーザ(第2高調波発生レーザ)
非線形光学結晶を用いた固体レーザで、基本波のレーザ光を入射して、2倍のエネルギーを持つ光(第2高調波)を発生させるレーザ。連続発振レーザでは、アルゴンイオンSHGレーザ(発振波長244nmや257nm)などがある。
注5) 窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系の材料
GaN(窒化ガリウム)とAlN(窒化アルミニウム)の混晶で、GaN〜AlNのすべての混晶組成範囲で直接遷移発光する半導体である。(1)深紫外の200〜360nm帯に発光範囲を持つ(2)高効率発光が可能である(3)材料が硬くデバイスの寿命が長い(4)ひ素、水銀、鉛を含まず環境に無害である、などの特徴を持ち、実用可能な紫外発光デバイスを実現する材料として最も有力視されている。
注6) 窒化アルミニウム(AlN)
窒化物半導体材料の中で最も短い波長(高いエネルギー)で発光する半導体。窒化物半導体は窒化ガリウム(GaN)を中心に開拓された材料系で、窒化インジウムガリウムアルミニウム(InGaAlN)系混晶として利用可能である。市販されている青色高輝度LED、青色LDでは、窒化インジウムガリウム(InGaN)が発光層に用いられている。深紫外発光デバイスの開発では、より高いエネルギーで発光する窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系材料が用いられる。AlGaN系深紫外発光デバイスのバッファー層(下地層)として用いられる。
注7) 貫通転位密度
結晶格子間隔の異なる基板上に半導体を結晶成長する際に生じる、原子の位置のずれ。特に、結晶成長とともに消えることなく表面まで達するものを貫通転位と呼ぶ。サファイア基板上にAlNを結晶成長する場合、両者で結晶格子の間隔が大きく異なるため、通常の結晶成長では貫通転移が大変発生しやすい。貫通転位の周辺では、発光強度が著しく減少するため、発光デバイスを作製する場合は大きな問題となる。
注8) 電子ブロック層
紫外LEDでは、p型層のホール濃度が低いため、電子は発光層に注入できず、一部の電子がp型層側に流れてしまう。そのため、電子注入効率は低下し、紫外LEDの高効率化が難しい原因となっている。電子ブロック層を発光層とp型層の間に入れることによって、電子を反射し、電子を発光領域に注入させることができる。AlGaN系紫外LEDでは、電子ブロック層はできるだけバリア高さが高いことが要求される。これまでの研究で、最もバンドギャップの大きいAlNを電子ブロック層とした場合でも、短波長紫外LEDの電子注入効率は十分に高くならなかった。今回、電子ブロック層としてMQBを用いることで、実効的な電子ブロック高さを大きく向上させ、高い電子注入効率を実現した。
注9) p型、ホール濃度
半導体には、n型ドーピングにより発生する過剰電子で電子(マイナス電荷)を伝導するn型半導体、p型ドーピングにより発生する電子の足りない状態(ホールと呼ぶ)でホール(プラス電荷)を伝導するp型半導体、がある。半導体デバイスは、p型とn型を組み合わせて、p−n接合ダイオード、n−p−n型トランジスタなどがある。ここでは、AlGaN系半導体にMg(マグネシウム)をドーピングすることによりp型AlGaNを形成した。ホール濃度は、アクセプターのドーピング量とその活性化エネルギーで決定され、活性化エネルギーが深い場合には電気伝導に寄与するホールの濃度が低い。p型AlGaNのアクセプターの活性化エネルギーは通常半導体の場合に比べ10倍程度も深い(GaNで0.24eV、AlNで0.67eV)ため、高濃度のMgをドーピングした場合でも、活性化されるホール濃度は低い。特に、Al混晶組成比が50%以上のAlGaNでは1×1016cm−3以下、80%以上のAlGaNでは1×1014cm−3以下と、通常のp−n接合発光デバイスで用いられる5×1017cm−3程度と比較して低い。そのため、深紫外LEDの電子注入効率を低下させるなど、p−n接合発光デバイスにおいて問題を生じる。
注10) シングルバリア
電子ブロック層を、1層の障壁層で形成したもの。シングルバリアを用いた場合、電子が反射するエネルギーは障壁の高さで決まり、それ以上のエネルギーの電子をブロックできない。従ってMQBより、電子の反射効果が低い。
注11) 変調バリア
MQBにおいて、バリア層の周期を少しずつ変化させて積層したもの。周期の異なるバリア層を何種類か組み合わせて積層することにより、広いエネルギー範囲で電子をブロックすることができ、LEDの電子ブロック層として用いると効果が高い。

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テラヘルツ量子素子研究チーム チームリーダー
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