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平成21年11月23日

東北大学金属材料研究所
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科学技術振興機構(JST)
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超伝導材料開発への新たなる道

−絶縁体の超伝導転移温度を40倍に上昇−

JST目的基礎研究事業の一環として、東北大学金属材料研究所の岩佐 義宏 教授は、材料に電圧をかけて超伝導注1) 化する手法を改善し、超伝導転移温度を0.4K(ケルビン)から15Kまで40倍近く上昇させることに成功しました。電圧をかけて超伝導を起こさせる方法は、従来の化学的方法とは全く異なるもので、昨年、同研究グループによって発明されたものです。今回は、電圧をかける材料を改善し、特性の大幅向上に成功したもので、電圧による超伝導化という手法が広範な材料に適用できるものであることが明確に示され、超伝導材料の開発に新たな道が開かれました。

材料の電気の流れやすさは、電子すなわち電気を流す伝導キャリヤ注2) が材料にどれだけ含まれているかによって決まります。材料中の伝導キャリヤの濃度を化学的な手法でゼロから次第に増やして行くと、絶縁体から電気をよく流す金属状態へ変化し、さらには抵抗が完全になくなる超伝導になる材料がいくつか知られています。1986年に発見された銅酸化物、昨年の鉄ヒ素系材料の高温超伝導物質など、新超伝導体の探索には、常に、同様な化学的な手法が用いられてきました。

一方、半導体集積回路の基本素子である電界効果トランジスタ注3) では、電気的な手法によって伝導キャリヤの数を制御して、電流のスイッチとして使用されます。本研究では有機物と無機物を接触させた電気二重層注4)トランジスタという新しい電界効果トランジスタを用います。この方式による電界効果トランジスタの利用により、従来では不可能だった高濃度の伝導キャリヤ制御が実現し、超伝導を引き起こすことに、昨年、東北大学の川崎 雅司 教授、岩佐 義宏 教授、野島 勉 准教授らの研究グループが世界で初めて成功していました。

本研究では有機物として、新たにイオン液体注5) を導入し、電界で蓄積される伝導キャリヤの数を数倍に増やすことに成功しました。その結果、本手法を多くの材料に適用できる道が開かれ、今回、塩化窒化物と呼ばれる無機物質に対して、電界効果による超伝導を観測することに成功しました。超伝導になる温度は、絶対温度で15Kとなり、昨年のチタン酸ストロンチウム単結晶の0.4Kよりも大きく上昇しました。本成果によって、電気二重層トランジスタという新しい手法で、数多くの材料で超伝導を引き起こせる道が確立されました。将来、より高い臨界温度を示す新材料を発見する方法として、大いに期待されます。

本研究成果は、2009年11月22日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「ナノ界面技術の基盤構築」(研究総括:新海 征治 崇城大学 教授)
研究課題名 酸化物・有機分子の界面科学とデバイス学理の構築
研究代表者 川崎 雅司(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授)
研究期間 平成18〜23年度

JSTはこの領域で、異種材料・異種物質状態間の接合界面を扱う研究分野の融合によってナノ界面機能に関する横断的な知識を獲得するとともに、これを基盤として界面ナノ構造を自在に制御し、飛躍的な高機能化を可能にする革新的なナノ界面技術を創出すること、およびその有用性をデバイス動作により実証することを目的としています。上記研究課題では、異種接合界面に着目し、これらの界面における電子・磁気・光機能をひな形デバイスとして実証することを目指しています。

<研究の背景と経緯>

高い温度で超伝導を示す材料の開発は、材料科学分野の最も重要なテーマの1つです。従来の方法は、もっぱら、多数の元素を混ぜ合わせて新物質を化学的に合成することに限られてきました。しかし昨年、絶縁体の材料に電圧をかけるだけで超伝導を起こさせる技術が、岩佐教授を含む東北大学の研究グループによって発見され、超伝導材料開発の新たなる道が開かれました。

その方法とは、有機物と無機物を貼り合わせ電圧をかけ、無機物側に電気を流す伝導キャリヤを蓄積し、それを低温に冷却して超伝導を実現するというものです。この技術を用いると、元の物質が電気を流さなくても電圧をかけるだけで超伝導にできるので、超伝導物質探索の可能性が大きく広がりました。

しかしながら、昨年の研究で用いられた材料は、極めて少ない伝導キャリヤの数で超伝導が現れる特別な例で、超伝導になる温度も、絶対温度で0.4Kと、非常に低いものでした。

本研究では、イオン液体という特殊な有機材料を用いることにより、伝導キャリヤの数を大幅に増加させるとともに、新しい無機物質として層状構造を有する物質を用いることによって、超伝導になる温度を、従来の0.4Kから15Kまで上昇させることに成功しました。

<研究の内容>

本研究で用いられている有機物と無機物を接合した材料の模式図を示します(図1)。有機物と無機物を貼り合わせた面にできる極めて薄い層(電気二重層と呼ばれる)に伝導キャリヤが蓄積されます。図1に示した構造は、半導体集積回路の基本素子である電界効果トランジスタに似ているので、われわれは、電気二重層トランジスタと呼んでいます。

本研究のキーポイントの1つは、イオン液体と呼ばれる、室温で液体の状態をとる塩を導入したことです。イオン液体は、有機物の正イオンと負イオンからなる新規な液体として、リチウムイオン2次電池、スーパーキャパシタなどの蓄電デバイスのほか、燃料電池、有機太陽電池などの分野への応用が期待されています。これを新たに取り入れることによって、伝導キャリヤの数が、電界効果トランジスタの10倍以上、昨年の電気二重層トランジスタの数倍と、大幅に上昇させることができました。

そのため、超伝導化するのに必要なキャリヤ数が大きい材料に、本手法を適用することが可能になりました。今回は、無機材料として、非常に平らな結晶表面を用意しやすい塩化窒化物という無機の層状物質を用いました。その平らな結晶表面とイオン液体と接触させ、素子構造を作製します。用いた無機物質の結晶構造と、薄膜結晶にナノテクノロジーの技術を用いて端子を付けた写真を示します(図2)。これにイオン液体を接触させると電気二重層トランジスタの完成です。

ゲート電極にかけた電圧を大きくしていくと、電気抵抗の高かった層状物質の抵抗が劇的に低下してゆき、温度の低下とともに電気抵抗が小さくなっていく金属的な伝導が実現しました。さらに、電圧が3.5Vを超えるあたりから超伝導の形跡が現れ始め、4.5V以上で、電気抵抗がゼロになる超伝導を実現いたしました(図3)。超伝導になる温度は、絶対温度で15Kと、昨年の0.4Kから大きく上昇しました。これらの測定後、ゲート電極にかけた電圧を0Vに戻すと元通り電気抵抗の高い状態に戻りました。このように電気抵抗の高い絶縁体の状態から電圧を変化させるという電気的な手段だけで、抵抗の全くない超伝導へのスイッチングが実現しました。

<今後の展開>

本研究により、電圧をかけるだけで超伝導を実現する手法が、一般的な物質に適用可能であることが明らかになりました。今後は、この方法をさまざまな物質に適用して、従来化学的な合成法では超伝導にならなかった物質を超伝導化したり、より高い超伝導転移温度を持つ新材料を実現できると期待されます。

<参考図>

図1

図1 電圧により超伝導を制御するための電気二重層トランジスタの素子構造の模式図

無機物と有機物を貼り合わせ、対抗するゲート電極から電圧をかけると、有機物の中のプラスの電荷を持つ陽イオンが配列し、それに引かれてマイナスの電荷を持つ伝導キャリヤが無機物の内に誘起され、無機物は電気が流れる状態(ON状態)に変化する。本研究では、有機物としてイオン液体、ゲート電極として白金線を用いている。

図2

図2 無機物質として用いた層状塩化窒化物の結晶と、その素子構造

  1. 左側:枠内は結晶構造の模式図。雲母と同じく層状の構造をしているので、スコッチテープを使って簡単に薄くはぐことができる。この方法で厚み20ナノメートル程度、原子スケールで平たんな表面を有する薄膜結晶を作製した。
  2. 右側:ナノテクノロジーを用いて、電気抵抗測定を行うためのリード端子を作製した薄膜結晶の、光学顕微鏡写真。
図3

図3 層状物質、塩化窒化物のゲート電圧による金属化と超伝導転移

ゲート電圧を大きくすることで、電気抵抗が劇的に減少し、温度とともに抵抗が上昇する絶縁体的な振る舞いが、温度とともに抵抗が減少する金属的な振る舞いへと変化する。最終的に、絶対温度15Kで電気抵抗が突然激減し、超伝導になる。

<用語解説>

注1) 超伝導
ある温度以下で電気抵抗がゼロになり、電気が永遠に流れ続ける状態です。超伝導を起こすためには電子(伝導キャリヤ)同士の強い相互作用が必要なため、高濃度の伝導キャリヤが必要です。例えばシリコンやダイヤモンドなどの半導体を超伝導にするためには、高圧、高温など特殊な条件で多量の不純物を材料に溶け込ませる必要があります。
注2) 伝導キャリヤ
材料の中で、電気を運ぶことができる電子のことです。原子に束縛されず、結晶の中を自由に動き回ることができる性質があるため、この伝導キャリヤを持っている物質は、電気を流す性質を持ちます。
注3) 電界効果トランジスタ
電圧(正確には電界)によって材料表面に電荷が集まる効果です。絶縁体を2つの電極ではさんで電圧をかけると、正の電圧がかかった電極にはプラスの電荷が、負の電圧がかかった電極にはマイナスの電荷が蓄積します。この電極の片方を半導体で置き換えると、蓄積した電荷は半導体の中を自由に動き回る伝導キャリヤとして振る舞います。このようにして伝導キャリヤを集める手法を電界効果と呼び、電圧によって半導体の伝導性を制御するトランジスタとして広く使われています。
注4) 電気二重層
電気化学の用語で、電解質と電極の界面にできるイオンの集まった部分のことです。液体の中にイオンが溶け込んだ電解質を2つの電極ではさんで電圧をかけると、電解液の中の陽イオンは負の電圧のかかった電極のほうへ移動します。電極表面まで動いてきた陽イオンはそれ以上動けないので、電極の直上にぎっしりと詰まった状態になります。一方、電極の中では陽イオンの量に対応した数のマイナスの電荷が集まり、全体として電荷中性の状態を保ちます。この陽イオンの層を電気二重層と呼び、非常に大きな電荷を蓄積できることからコンデンサー(電気二重層キャパシタ、スーパーキャパシタ)として使われています。
注5) イオン液体
室温で融けている液体の塩(しお)のことです。塩化ナトリウムなど通常の無機塩は、室温では固体で、水などに溶かさなければ液体になりません。しかし、イオン液体は、水に溶けてもいないのに、室温で融けて液体状態にある不思議な塩です。最近、有機化学の技術を駆使して、室温で溶融状態にある塩が数多く合成され、盛んに研究が行われるようになっています。

<論文名および著者名>

“Liquid Gated Interface Superconductivity in an Atomically Flat Film”
(原子平坦な薄膜結晶表面を、液体を通した電圧によって超伝導化)
J. T. Ye, S. Inoue, K. Kobayashi, Y. Kasahara, H. T. Yuan, H. Shimotani, and Y. Iwasa
doi: 10.1038/nmat2587

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

岩佐 義宏(イワサ ヨシヒロ)
東北大学金属材料研究所 教授
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2−1−1
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<東北大学広報担当>

廣田 勝己(ヒロタ カツミ)
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