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平成21年8月12日

自然科学研究機構 生理学研究所(せいりけん)
Tel:0564-55-7722(広報展開推進室)

科学技術振興機構(JST)
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脳梗塞でも反対側の脳が失われた機能を“肩代わり”

―神経回路のつなぎ換えと機能回復を順々に促進―

 自然科学研究機構 生理学研究所の鍋倉 淳一 教授のグループは、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の一環として、脳梗塞で失われた脳の機能も、その反対側の脳が肩代わりすることで機能回復できることを証明し、その回復過程の詳細を明らかにしました。脳血管障害や脳外傷の患者に対するリハビリテーションの意味を明らかにし、その効果的な方法の開発に役立つ成果です。

<プレスリリース内容>

 最近の脳科学の進展によって、脳梗塞などによって失われた脳の機能も、効果的なリハビリテーションによって機能回復につながることがわかってきました。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の鍋倉 淳一 教授の研究グループは、脳梗塞後には反対側の脳が失われた機能を“肩代わり”することを証明し、また、その脳の機能回復の過程の詳細を、マウスを使って明らかにしました。脳の神経回路の「つなぎ換え」(再編)や機能回復は、順序よく整然としたプロセスで起こっていることが初めて明らかになりました。日本でも患者数250万人にも上るといわれる脳卒中後の効果的なリハビリテーション方法開発に役立つ成果です。米国神経科学学会誌(Journal of Neuroscience、8月12日号)で報告されます。

 研究チームは、マウスの脳の右半球の表面、大脳皮質(体性感覚野)といわれる部位に脳梗塞をひき起こし、そのとき、反対側の左半球の同じ部位の神経で何が起こるのかを、詳細に調べました。右半球の脳梗塞で失われた脳の機能も、左半球が代わりに働くようになり、機能を“肩代わり”するようになりました。その過程で、脳梗塞とは反対側の左半球では、脳の中の神経のつなぎ方がまず最初に組み変わり、機能を肩代わりするための新たな神経回路が組まれ(神経回路のつなぎ換え)、そしてその後に、刺激に応じて最適な機能回復が促されることが明らかになりました。このとき、脳の神経のつなぎ方が組み換わるのは脳傷害後早期の1週間目から2週間目の間という限られた時期に起こること、また、機能回復は刺激を与え続けることにより脳傷害後4週間目にかけて次第に完成されることも明らかになりました。

 鍋倉教授は、「脳傷害後の回復の過程は漫然と起こるのではなく、まず脳の神経のつながり方が変わり、そのあとで機能回復が起こるような、整然としたプロセスを経ていることが明らかになりました。神経回路の再編と機能回復は、それぞれ異なるメカニズムで起こっている可能性があり、それぞれに最適なリハビリテーション方法があると思われます。脳傷害後の特定の時期に傷害部位とは反対側の脳をいかに刺激するか、など、効果的な治療法・リハビリテーション方法の開発に役立つ成果です。」と話しています。

 本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」(研究総括:津本 忠治 (独)理化学研究所脳科学総合研究センター チームリーダー)における研究課題「発達期および障害回復期における神経回路の再編成機構」(研究代表者:鍋倉 淳一)の一環として行われました。

<今回の発見>

  1. 脳梗塞後に反対側の脳が失われた機能を“肩代わり”するようになった。
  2. 脳梗塞の反対側の脳の神経回路のつなぎ換えや機能回復は、順序よく整然としたプロセスで起こっていた。
  3. マウスでは、神経回路のつなぎ換えは、脳梗塞後1週間目から2週間目に限定していた。その後、作られた神経回路の活動パターンにも変化が起こり、それとともに機能回復は4週目までに完成した。

<この研究の社会的意義>

  1. 脳梗塞後の脳の回復過程に、脳梗塞とは反対側の脳(半球)がかかわっていることを証明
     脳梗塞を起こした脳半球の機能を、反対側の同部位の脳半球が肩代わりすることを、証明しました。
  2. 反対側の脳の神経回路のつなぎ換えは、(マウスでは1週間目から2週間目の)限定された時期に起きることを発見
     脳梗塞部位とは反対側の脳が機能を“肩代わり”することによる機能回復に先立って、この反対側の脳で、まず、神経回路のつなぎ換えが起きることを発見しました。マウスでは脳梗塞後1週間目から2週間目という限られた時期に起こっていました。
  3. つなぎ換えが盛んな期間のあと、脳活動の機能的な変化が起こり、失われた機能を肩代わりするための脳活動パターンが次第に作られていきました。
  4. 脳梗塞後の効果的なリハビリテーションへ提言
     今回みられたような脳梗塞後の機能回復過程では、脳梗塞とは反対側の脳の神経回路の再編と機能回復が順々に起こります。今回の結果は、その両者が、それぞれ異なるメカニズムで起こっている可能性を示しています。それぞれ、最適なリハビリテーション方法が異なる可能性があります。とくに、脳傷害後の特定の時期に梗塞部位とは反対側の脳をいかに刺激し神経回路のつなぎ換えを促すか、など、効果的な治療法・リハビリの方法の検討が必要でしょう。

<参考図>

図1

図1 右半球(右脳)の脳梗塞で、反対側の左半球(左脳)の神経回路の「つなぎ換え」が、まず起きる

 (A)脳の右半球の表面、大脳皮質(体性感覚野)に脳梗塞を起こしたとき、反対側の左半球の同部位(体性感覚野)に注目して研究を行った。(B)(C)マウスでは、右半球が脳梗塞を起こしてから1週間目から2週間目の限られた間に、神経回路のつなぎ換えが起こっていた。この時期には、神経の新しい突起が生まれたり、また無くなったりが頻度高く起こっていた。(B)観察開始0時間目。(C)観察開始6時間目。(B)と(C)の矢印に注目。観察開始6時間目には新しいシナプス(“突起”)ができていることがわかる。

図2

図2 脳梗塞後4週間で脳梗塞とは反対側の脳が反応するようになった

 脳の神経細胞がある脳の表面から200〜400ミクロン(マイクロメートル)くらいの深さの部分での反応に注目。左半球の脳は本来なら左足をいくら刺激しても反応しない(上図)。この左足の刺激に対して、脳梗塞後4週間目には、脳梗塞とは反対側である左半球の脳が反応するようになった(下図、点丸内の脳の中の赤と青の間で電流が流れている)。脳梗塞後1・2週間目から反対側の脳も反応しはじめるが、4週間たったところで顕著になった。

図3

図3 脳梗塞後4週間で脳の機能が回復

 痛み刺激(機械刺激)を左足にあたえ、そのときのマウスの行動を調べた(感受性の試験)。縦軸は機械刺激の重さ(g)。脳梗塞後すぐでは反応が鈍くなるが、2週目くらいから再び敏感となり4週目には元通りに戻った。もともと脳梗塞したときには失われた機能も、4週目には脳梗塞とは反対側の脳が肩代わりし、機能回復したものと思われる。

図4

図4 神経回路のつなぎ換えと機能回復が順序だてて起きる

<論文情報>

“Neuronal circuit remodeling in the contralateral cortical hemisphere during functional recovery from cerebral infarction”
Takatsuru Y, Fukumoto D, Yoshitomo M, Nemoto T, Tsukada H, Nabekura J
doi: 10.1523/JNEUROSCI.1638-09.2009

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
鍋倉 淳一(ナベクラ ジュンイチ)
自然科学研究機構 生理学研究所 教授
〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38
Tel:0564-55-7851 Fax:0564-55-7853
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<JSTの事業に関すること>
廣田 勝巳(ヒロタ カツミ)
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<広報担当>
小泉 周(コイズミ アマネ)
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
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