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平成21年7月31日

北海道大学
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札幌医科大学
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フリーラジカル分子の世界最速3次元イメージング技術の開発に成功

<研究成果のポイント>

○4秒以下でフリーラジカル分子を含む試料の3次元画像化に成功
○体の中の酸化還元状態が関与する疾患研究への応用に期待

 JST 先端計測分析技術・機器開発事業の一環として、北海道大学 大学院情報科学研究科の平田 拓 教授らは、病気や酸化ストレスに関与している化学反応性の高いフリーラジカル分子の分布を短時間で画像化する3次元イメージング技術を開発しました。これまで、反応性が高く短時間で消滅するフリーラジカル分子の画像化は困難でした。そのような標的分子の分布を4秒以下で3次元画像化することに成功しました。今回の成果は、マウスやラットを用いた病気の研究に高速フリーラジカル分子イメージング技術を用いることが可能であることを示しています。
 本研究は、北海道大学 大学院情報科学研究科の赤羽 英夫 博士研究員(現 大阪大学 大学院基礎工学研究科 助教)、札幌医科大学の藤井 博匡 教授らと共同で行われました。
 本研究成果は、米国化学会の専門誌「Analytical Chemistry(アナリティカル・ケミストリー)」に受理され、オンライン版で近日中に公開されます。

 本成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。
事業名 先端計測分析技術・機器開発事業/要素技術プログラム
開発課題名 「高速電子常磁性共鳴イメージング法の開発」
チームリーダー 平田 拓(北海道大学 大学院情報科学研究科 教授)
開発期間 平成20~23年度(予定)
 JSTはこのプログラムで、計測分析機器の性能を飛躍的に向上させることが期待される新規性のある独創的な要素技術の開発を目指しています。

<研究成果の概要>

<背景>

 病気や酸化ストレスなどの現象と化学反応性の高いフリーラジカルと呼ばれる分子の関係を解明する研究が活発に進められています。フリーラジカル分子は、炎症や脳梗塞後に血液が再び流れた場合などに大量に発生し、正常な細胞を傷つけます。そのため、小動物の体の中でフリーラジカル分子を画像化する技術の開発が進められています。画像化には、磁場中にあるフリーラジカル分子の電子が、特定の周波数の電磁波を吸収する電子常磁性共鳴現象(電子スピン共鳴現象とも呼ばれます)を用いています。これまでの電子常磁性共鳴法を用いた画像化法では、1分以下といった短時間で消失するフリーラジカル分子を三次元で画像化することは困難でした。そのため、短時間でフリーラジカル分子を画像化する高速電子常磁性共鳴イメージング技術の開発が求められていました。

<研究手法>

 本研究グループは、短時間でフリーラジカル分子の画像化を行うために、試料に加える磁場を短時間で制御するイメージング装置を開発しました。試料を立体的に画像化するためには、多くの方向から見た試料の投影(影絵のような情報)を測定した後、計算により投影データから画像を再び組み立てます(再構成と呼ばれる画像処理です)。画像再構成には、X線CT(コンピューター断層撮影法)でも用いられている手法(フィルター補正逆投影法)を用いました。
 画像化の計測時間を短くするためには、短時間でフリーラジカル分子を含んだ試料の投影データを取得し、画像の品質が落ちない程度に投影の数を減らすことが必要です。今回の開発では、1つの投影データを50ミリ秒で取得し、合計で46個の投影データを用いて液体試料の画像化に成功しました。また、全体の撮像時間を3.6秒に短縮しました。ナイトロキシルラジカルと呼ばれるフリーラジカル分子を含む水溶液に、ビタミンC(アスコルビン酸)の水溶液を加え、液体試料の中で還元作用によりフリーラジカル分子の信号が消失していく経過を画像化しました。

<研究成果>

 試料の内部において消失していくフリーラジカル分子を3.6秒毎に3次元空間で画像化することに成功しました。水溶液中でフリーラジカル分子がビタミンCにより還元され消失する半減期は、早い所で30秒程度でした。短時間に連続して画像化することにより、フリーラジカル分子が還元反応で消失していく時間経過を可視化できました。
 得られた画像データからフリーラジカル分子が消えていく半減期を求めると、還元反応の速度を反映した画像情報を得ることができます。これまでの研究で、炎症がある部位では酸化還元状態が正常組織とは異なることから、フリーラジカル分子の消失速度が変化することが知られています。ナイトロキシルラジカルを標的分子として画像化すると、その消失速度から生体内の酸化還元状態の変化を知ることができます。今回の開発は、酸化ストレスや酸化還元状態に関わる病気や生物医学分野の研究に、画像計測技術の面から貢献するものです。

<今後への期待>

 論文で発表した実験は、試料管に入れたフリーラジカル分子を標的分子としましたが、今後はマウスやラットなどの体の中で標的分子として投与されたフリーラジカル分子の分布や消失の様子を、時間経過を追って観測することを目指します。今回の高速イメージング技術の開発により、これまで画像化が難しかった半減期の短いフリーラジカル分子を標的分子として用いることが可能になり、疾患モデル動物の研究において使用できる標的分子の範囲が広がりました。今回開発したフリーラジカル分子の高速イメージング技術が、炎症や脳梗塞などの研究へ応用されることが期待されます。

<掲載論文名および著者名>

 “Half-life mapping of nitroxyl radicals with three-dimensional electron paramagnetic resonance imaging at an interval of 3.6 seconds”
 赤羽 英夫(北海道大学、現在大阪大学)、桑原 洋子(札幌医科大学)、藤井 博匡(札幌医科大学)、平田 拓(北海道大学)
 doi: 10.1021/ac901169g

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>
平田 拓(ヒラタ ヒロシ)
北海道大学 大学院情報科学研究科 教授
Tel:011-706-6762 Fax:011-706-6762
E-mail:
ホームページ:http://www.bme.ist.hokudai.ac.jp/BPE/index-j.html

藤井 博匡(フジイ ヒロタダ)
札幌医科大学 医療人育成センター 教授
Tel:011-611-2111(内線2831) Fax:011-612-3617
E-mail:

<JSTの事業内容に関すること>
安藤 利夫(アンドウ トシオ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 先端計測技術推進部
Tel:03-3512-3529 Fax:03-3222-2067
E-mail:
ホームページ:https://www.jst.go.jp/sentan/

<報道担当>
北海道大学 総務部広報課
〒060-0808 北海道札幌市北区北8条西5丁目
Tel:011-706-2610 Fax:011-706-4870

札幌医科大学 経営企画課広報
〒060-8556 北海道札幌市中央区南1条西17丁目
Tel:011-611-2111 Fax:011-611-2237

科学技術振興機構 広報ポータル部
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