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平成21年6月8日

科学技術振興機構(JST)
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理化学研究所
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電場による磁化の制御に成功

(低消費電力メモリーデバイスへ新たな道)

 JST目的基礎研究の一環として、東京大学 大学院工学系研究科の十倉 好紀 教授とJST「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」の徳永 祐介 研究員らは、理化学研究所基幹研究所と共同で、電場によって磁化(磁石の強さ)を制御することに初めて成功しました。これは鉄とガドリニウムを原料とする酸化物の一種が強磁性体と強誘電体の性質を併せ持ち、この物質中では“電場による磁化”と“磁場による電気分極”の双方で制御が可能であると発見したことによるものです。
 研究で対象としたガドリニウムオルソフェライト注1)(GdFeO3)は、ペロブスカイト型の構造(図1)を持つ酸化物として古くから知られている物質の1つです。室温では鉄の磁性のもとであるスピンが規則的に配列することで磁石としての性質(強磁性)を持つことは知られていますが、低温での電気的性質については詳しく調べられていませんでした。
 本研究グループは今回、GdFeO3の単結晶試料を作製して低温での磁気的性質と電気的性質を詳しく調べることにより、この物質はガドリニウムのスピンが整列する温度(−271℃)以下で強誘電体になり、強磁性と強誘電性を併せ持つようになることを突き止めました。またこの物質は、磁場をかけると自発磁化の反転に伴い電気分極が変化するという性質を持つと共に、電場をかけると電気分極の反転に伴い磁化が変化するという例を見ない性質を持つことも判明しました。これらの新しく見つかった物性は、強磁性・強誘電状態でこの物質のドメイン壁注2)が複合ドメイン壁という特別な構造をとることで実現していると考えられます。
 この結果は、電場により磁化を自在に制御できるマルチフェロイック材料の開発への重要な設計指針を与えるもので、将来的には低消費電力のメモリーデバイスなどへの応用が期待されます。
 本研究成果は、2009年6月7日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。
戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究
研究プロジェクト 「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」
研究総括 十倉 好紀(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究期間 平成18〜23年度
 JSTはこのプロジェクトで、磁化と電気分極の強い相関を持つマルチフェロイック物質の創製と、その物性を説明する学理の構築を総合的に行うことで、材料の新たな設計指針を見いだしつつ、ものづくり手法の高度化と合わせて、新規材料群の開拓を行っています。

<研究の背景>

 強磁性体(磁石)と強誘電体は、それぞれハードディスクやメモリーデバイスなどのエレクトロニクス材料として広く応用されています。近年、この強磁性体と強誘電体との性質を併せ持つマルチフェロイックスと呼ばれる物質群が注目されています。これらの物質の中には、強磁性体と強誘電体の性質がお互い強く結びついているものがあり、これらの物質を用いれば電場によって磁化の方向を、磁場によって電気分極の方向を制御できる可能性を秘めています。また、電流による磁化方向を制御することも試みられていますが、これには大きな電流が必要で発熱量が大きく、高い電力消費を伴います。これに対し、電場による制御では電流を流す必要がなく、消費電力が小さいと期待されることから、マルチフェロイック物質を用いて電場により磁化を制御することができれば低消費電力のメモリーデバイスなどへの応用が期待されます。
 しかし、マルチフェロイック物質については磁場による電気分極の制御に関しては数々の報告があるにもかかわらず、電場による磁化の制御については報告がありませんでした。本研究で対象としたGdFeO3は、ペロブスカイト型の構造(図1)を持つ酸化物としては古くから知られる物質の1つです。室温で弱い磁石としての性質があることは知られていますが、低温での電気的性質については詳しく調べられていませんでした。

<研究の成果>

 GdFeO3では、ガドリニウムイオンも鉄イオンも磁性のもとになるスピンを持っています。室温ではガドリニウムのスピンはばらばらの方向を向いていますが、鉄のスピンは規則的に並んでいるので磁石としての性質を持ちます。温度を冷やしてゆくと、−271℃以下でガドリニウムのスピンが規則的に配列するようになります。
 本研究では、鉄とガドリニウムのスピンが両方整列した時に、この物質が強磁性(磁石)としての性質だけではなく強誘電体としての性質をも併せ持つ強磁性体・強誘電体となることを見いだしました。また、この物質は磁場をかけると自発磁化の反転に伴い電気分極が変化するという性質を持つと共に、電場をかけると電気分極の反転に伴い磁化が変化するという特異な性質を持つことが明らかとなりました。
 本研究で得られた主な成果を以下に示します。

(1) 浮遊帯域移動法を用いてGdFeO3の単結晶を作製し、磁化および電気分極の温度依存性を詳しく調べることで、この物質がガドリニウムのスピンが規則的に整列する温度(−271℃)以下の低温で、強磁性体と強誘電体としての性質を併せ持つことを示しました(図2)。例えば、鉄を非磁性のアルミニウムで置き換えたガドリニウムアルミニウム酸化物(GdAlO3)では、ガドリニウムのスピンが整列しても強誘電体にはならないことから、この物質の強誘電体としての性質には鉄とガドリニウムの両方のスピンが関係していると言えます。
(2) 電気分極の磁場依存性を調べた結果、磁化の反転に伴って電気分極に変化が表れることが分かりました。この変化は磁場を切っても保たれました(図3左)。
(3) 磁化の電場依存性を調べた結果、電気分極の反転に伴って磁化に変化が表れることが分かりました。この変化は電場を切っても保たれました(図3右)。
(4) 強磁性・強誘電状態では、ドメイン壁としては磁化の向きが反転する強磁性ドメイン壁(磁壁)と、強誘電分極方向が反転する強誘電ドメイン壁(強誘電分域壁)、磁化・電気分極の方向が同時に反転する、マルチフェロイックドメイン壁の3種類が考えられます。理論的考察により、この物質においてはその各々が鉄の強磁性ドメイン壁、ガドリニウムの反強磁性のドメイン壁、ガドリニウムイオンの結晶中での変位のドメイン壁――の3つのうちの2つが重なった複合構造をとることを示しました。こうしたドメインのうちマルチフェロイックドメイン壁が運動することで、電場による磁化の、磁場による電気分極の相互制御が可能であることを明らかにしました(図4)。

<今後の展開>

 今後は、強磁性磁壁や強誘電分域壁を直接観察することでより詳しく原理を検証するほか、さらに高い温度で動作するマルチフェロイック物質の開発を目指します。

<参考図>

図1

図1 ガドリニウムオルソフェライト(GdFeO3)の結晶構造

 斜方晶ペロブスカイト型と呼ばれる構造をとります。立方晶ペロブスカイト型構造からは歪んだ構造になっていて、多くのペロブスカイト型遷移金属酸化物がこれと同じ構造をとることが知られています。この結晶の歪み方を特に“GdFeO3型歪み”と呼んでいます。

図2

図2 本研究で作製されたGdFeO3単結晶の磁化履歴(左)および強誘電履歴曲線(右)

 観察された履歴はこの物質が弱い磁石としての性質(強磁性)および強誘電体としての性質の両方を兼ね備えた強磁性強誘電体であることを示しています。測定は−271℃で行いました。

図3

図3 磁場による電気分極の制御および電場による磁化の制御

左: 試料に印加する磁場を変えて強磁性磁化成分を繰り返し反転させると、強磁性磁化が反転するたびに電気分極の変化が観察されます。磁場を切っても電気分極の変化は保たれています。
右: 逆に試料に印加する電場を変えて強誘電分極を繰り返し反転させると、強誘電分極が反転するたびに磁化にも変化が観察されます。磁場を切っても電気分極の変化は保たれています。
  測定は−271℃で行いました。

図4

図4 電場による磁化変化のメカニズムの模式図

1・2:試料にプラス方向の電場を印加すると強誘電分域壁が動いてプラス方向の強誘電分域を広げようとします。
3:  強誘電分域壁が磁壁にぶつかると、2つのドメイン壁が結びついてマルチフェロイックドメイン壁を形成します。
4:  さらにプラス方向の電場を印加することでプラス方向の強誘電分域壁をより広げようとしてマルチフェロイックドメイン壁が運動します。この過程で磁化が+方向を向いた磁区も広がり、結果として結晶中の正味の磁化も変化します。逆に、磁場による電気分極の変化も同様のメカニズムで理解できると考えられます。

<用語解説>

注1)オルソフェライト
 化学式RFeO3(Rは希土類またはイットリウムイオン)で表されるペロブスカイト型酸化物をオルソフェライトと呼びます。室温で弱い磁石としての性質を持ちます。

注2)ドメイン・ドメイン壁
 強磁性体や強誘電体の内部において、磁化や電気分極が同じ向きを向いている領域をドメインと呼び、これらの方向が異なる領域との境界をドメイン壁と呼びます。通常の強磁性体中のドメインは磁区、ドメイン壁は磁壁と呼ばれています。強磁性体に磁場をかけると、内部の磁化が磁場方向を向いた磁区を拡大させるように磁壁が移動して結晶全体の磁化が磁場方向に揃えられます。これに対し、強誘電体におけるドメインは分域、ドメイン壁は分域壁と呼ばれています。強誘電体において電場をかけると、内部の電気分極が電場方向を向いた分域を拡大させるように分域壁が移動して結晶中の電気分極が電場方向に揃えられます。

<論文名>

“Composite domain walls in a multiferroic perovskite ferrite”
(マルチフェロイック特性を示すペロブスカイト型フェライトの複合ドメイン壁)
doi: 10.1038/nmat2469

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
金子 良夫(カネコ ヨシオ)
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」 技術参事
〒351-0198 埼玉県和光市広沢2−1 理化学研究所 フロンティア中央研究棟208号室
Tel:048-467-9785 Fax:048-462-4703
E-mail:

徳永 祐介(トクナガ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」 研究員
〒351-0198 埼玉県和光市広沢2−1 理化学研究所 フロンティア中央研究棟208号室
Tel:048-462-1111(内線:6327) Fax:048-462-4703
E-mail:

<JSTの事業に関すること>
小林 正(コバヤシ タダシ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究プロジェクト推進部
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