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平成21年5月26日

独立行政法人 理化学研究所
独立行政法人 科学技術振興機構(JST)

タンパク質凝集構造の違いがハンチントン病の発症に関与

−同じアミノ酸配列のタンパク質が異なるアミロイド構造を形成し、毒性の強さを変える−

<本研究成果のポイント>

○ハンチントン病の原因タンパク質は、異なる構造を持つアミロイドを形成
○ハンチンチンは、アミロイド構造に依存して細胞毒性を発揮
○脳の部位ごとに特異的なアミロイド構造が存在し、異なる細胞毒性を示す

 独立行政法人 理化学研究所(野依 良治 理事長)と独立行政法人 科学技術振興機構(以下JST、北澤 宏一 理事長)は、神経変性疾患の1つであるハンチントン病注1)の原因タンパク質「ハンチンチン注2)」がさまざまな構造形態の凝集体を形成し、それぞれ異なる細胞毒性を示すことを世界で初めて発見しました。これは、理研 脳科学総合研究センター(利根川 進 センター長)田中研究ユニットの猫沖(町田) 陽子テクニカルスタッフ、田中 元雅 ユニットリーダー(元 JST さきがけ研究者)、構造神経病理研究チームの貫名 信行 チームリーダー、放射光科学総合研究センター(石川 哲也 センター長)高田構造科学研究室の伊藤 和輝らによる成果です。
 ハンチントン病は、不随意運動、認知力低下を伴う神経変性疾患で、その発症機構はいまだ十分に理解されておらず、治療薬も確立されていません。ハンチントン病の特徴として、原因タンパク質のハンチンチンが、脳内で不溶性の線維状凝集体「アミロイド注3)」を形成することが挙げられます。しかし、そのアミロイド構造が、ハンチントン病の病態にどのように関与しているかは不明でした。研究グループは、同じアミノ酸配列を持つハンチンチン断片が、異なるアミロイド構造を形成することや、その各々が異なる細胞毒性を持つことを見いだしました。また、ハンチントン病モデルマウスの脳内でも、アミロイド構造の多様性注4)を確認し、その多様性が、ハンチントン病における神経細胞の脱落や変性の部位特異性を決定している1つの要因である可能性が高まりました。
 本研究の成果は、ハンチントン病だけでなく、疾患原因タンパク質がアミロイドを形成する多くの神経変性疾患の病態解明や、新たな治療法の開発に道を開くものです。研究はJST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の「代謝と機能制御」研究領域(研究総括:国立医薬品食品衛生研究所 西島 正弘 所長)における研究課題「プリオン凝集体の代謝産物に着目した細胞機能制御」の一環として行われ、米国の科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』5月25日の週にオンライン掲載されます。

1.背景

 ハンチントン病は不随意運動、認知力低下を伴う神経変性疾患です。その発症機構は十分に理解されておらず、治療薬もいまだ確立されていません。ハンチントン病の特徴として、その原因タンパク質のハンチンチンが、脳内で不溶性の線維状凝集体「アミロイド」を形成することが挙げられます。しかし、アミロイドがハンチントン病の直接の原因なのか、二次的な結果に過ぎないのかは不明でした。また、ハンチントン病は、主に線条体注5)で神経細胞が脱落、変性しますが、その疾患部位特異性とアミロイドの関係についても明らかとなっていません。

2.研究手法と成果

 精製ハンチンチンエキソン1注2)を異なる温度(4℃、37℃)で凝集させ、線維状凝集体アミロイドを形成させました。分光学的手法を用いて、各アミロイドの二次構造や物理的性質を調べたところ、温度によって異なることが分かりました。37℃で形成したアミロイド構造はより強固で、アミロイドに典型的なβシート注6)に富んでいるのに対し、4℃で形成したアミロイド構造はより脆弱で、βシートに加え、ループやターン構造を含み(図1)、ポリグルタミン鎖が露出していることが明らかになりました。
 また、これらの異なるアミロイドを、ハンチンチンエキソン1を発現する培養細胞(neuro2a)へ導入したところ、発現したハンチンチンエキソン1は、外から導入したアミロイドを鋳型として効率よく凝集体を形成しました。さらに、それらneuro2a細胞の細胞生存率を評価したところ、4℃で形成したアミロイドがより毒性が高く、37℃で形成したアミロイドの毒性は、かなり低いことが判明しました(図2)。
 次に、ハンチントン病のモデルマウスから大脳皮質、線条体、海馬、小脳を取り出し、各部位からハンチンチンのアミロイドを精製しました。各アミロイドの構造を調べたところ、線条体由来のアミロイドは4℃で形成したアミロイドのように脆弱で、βシートに加え、ループやターン構造を含み、海馬や小脳由来のアミロイドは、37℃で形成したアミロイドのように強固で、βシートに富んでいることが分かりました。また、これらアミロイドの細胞毒性を調べたところ、線条体由来のアミロイドが最も毒性が高いことが明らかとなりました。
 これらの結果は、ハンチントン病ではアミロイド構造の多様性が細胞毒性に深く関与し、疾患の部位特異性を決める要因になっている可能性を示しています(図3)。

3.今後の期待

 今回、ハンチンチンは、アミロイド構造の違いにより、異なる細胞毒性を発揮することを見いだしました。また、ポリグルタミン鎖が露出したアミロイド構造が、より細胞毒性が高いことを突き止めました。この成果は、ハンチントン病の新たな治療戦略の開発に大きく貢献するとともに、疾患原因タンパク質がアミロイドを形成するほかの多くの神経変性疾患の病態解明や、新たな治療法の開発に道を開くと期待されます。

<参考図>

図1

図1 ハンチンチンエキソン1アミロイドの赤外吸収スペクトル
(青細線)ハンチンチンQ42−4℃ (青太線)ハンチンチンQ62−4℃
(赤細線)ハンチンチンQ42−37℃ (赤太線)ハンチンチンQ62−37℃

 1620、1640、1660〜1680cm−1シグナルはそれぞれ、アミロイド内の分子間βシート、βシート、ループ/ターン構造を示す。Q42、Q62は、ハンチンチンエキソン1内の連続したグルタミンの数を示す。

図2

図2 ハンチンチンエキソン1(thtt)アミロイドの細胞毒性

 各ハンチンチンエキソン1(thtt)Q42のアミロイドやモノマー、ウシ血清アルブミン凝集体を、培養neuro2a細胞へ導入し、細胞の生存率を評価した。Q16、Q60、Q150はハンチンチンエキソン1内の連続したグルタミンの数を示す。

図3

図3 アミロイド構造に依存した細胞毒性

 ポリグルタミン鎖が露出した脆弱なアミロイド構造は、より毒性が高いことが明らかになった。

<補足説明>

注1)ハンチントン病
 不随意運動、認知力低下を伴う神経変性疾患の1つ。原因遺伝子内に存在する塩基のC(シトシン)・A(アデニン)・G(グアニン)の繰り返し配列(CAGリピート)が異常に伸長することで発症し、常染色体優性遺伝を示す。繰り返し数が多いほど発症年齢が若く、かつ重症となる。

注2)ハンチンチン、ハンチンチンエキソン1
 ハンチンチンは、3145個のアミノ酸からなるハンチントン病の原因タンパク質。ハンチンチンエキソン1とは、ハンチンチンの翻訳領域エキソン1のことで、約90個のアミノ酸からなり、C(シトシン)・A(アデニン)・G(グアニン)の繰り返し配列(CAGリピート)を含む。C・A・Gがコードするグルタミン(Q)の繰り返しが36個以上に伸長することでハンチントン病を発症する。CAGリピートが伸長することで、タンパク質が凝集体を形成しやすくなる。

注3)アミロイド
 直径4〜10nmからなる線維状のタンパク質凝集体。神経変性疾患の原因タンパク質は、脳内にアミロイドを形成するものが多いが、それが疾患の直接の原因なのか、結果に過ぎないのかは議論が分かれている。

注4)アミロイド構造の多様性
 通常、タンパク質は決まった1つの折り畳まれた構造をとるが、凝集するときにはさまざまなアミロイドの構造形態をとる。近年、プリオン病などの神経変性疾患研究で、アミロイド構造の多様性が疾患の発症や特異性の発現に深く関与していることが明らかになってきている。

注5)線条体
 大脳基底核の主要構成要素の1つで、被殻と尾状核から成る。神経回路における大脳皮質からの入力を担い、運動機能、学習や記憶など様々な機能に関与する。

注6)βシート
 タンパク質の二次構造の1つであり、ペプチド鎖の間の水素結合により、シート状の平面構造をとる。βシートが集まることでアミロイドが形成される。

<報道担当・お問い合わせ先>

<研究に関すること>
独立行政法人 理化学研究所
脳科学総合研究センター 田中研究ユニット ユニットリーダー
田中 元雅(タナカ モトマサ)
Tel:048-467-6072 Fax:048-462-4796

脳科学研究推進部
納富 さより(ノウドミ サヨリ)
Tel:048-467-9757 Fax:048-462-4914

<JSTの事業に関すること>
独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究推進部
原口 亮治(ハラグチ リョウジ)
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