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平成21年5月22日

九州大学
Tel:092-642-2106(広報室)

科学技術振興機構(JST)
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ナノレベルの散逸(さんいつ)構造(散逸(さんいつ)ナノ構造)の発見と
それを利用する金ナノ材料合成手法の開発

【発表概要】
 九州大学 大学院工学研究院応用化学部門の君塚 信夫 教授、副島 哲朗 特任助教らは、分子の自己組織化に基づくナノテクノロジーについて研究し、水と有機溶媒の界面において作り出された非平衡状態において、ナノレベルの散逸構造注1)(散逸ナノ構造)が形成されることを初めて明らかにしました。本成果は、独国科学雑誌「Small(スモール)」のオンライン速報版で近日中に発表されます。本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「ナノ界面技術の基盤構築」ならびに九州大学グローバルCOEプログラム「未来分子システム科学」(拠点リーダー:君塚 信夫)の研究の一環として行われました。

【発表内容】
 自己組織化(Self-organization, Self-assembly)は、例えば細胞内における細胞膜の形成、ウィルス粒子の形成など、構成要素(分子)が自己集合によって自然にできあがるしくみを指します。この分子が自ら集まって構造を形成しようとする働きを利用して、従来のトップダウン注2)手法では作製困難なナノスケール注3)の構造を作り上げるボトムアップ注2)手法が、省エネルギーのナノテクノロジー注4)基幹技術として注目され、世界的に研究されています。
 自己組織化は、“平衡系”と“非平衡系”の自己組織化に大別されます。従来、化学の分野においては、前者の平衡系における自己組織化、すなわち熱力学的平衡条件注5)下において、分子が自ら集まり、ある特定の構造をとる“自己集合(Self-assembly)”が広く研究されてきました。現在では、分子レベルでの制御も可能となり、分子集合体や超分子の化学として成熟しつつあります。
 一方、エネルギーや物質が拡散してゆく非平衡開放系での自己組織化(Self-organization)によっても秩序構造が創り出され、1977年ノーベル化学賞を受賞したIlya Prigogine(イリヤ・プリゴジン)は、これを“散逸構造”と呼びました。非平衡条件注5)下で創り出される散逸構造は、エネルギーと物質とを外界と交換しながら形成され維持される構造であり、その典型的な例としては、熱対流における流れのパターン(ベナール対流)や化学反応系における濃度パターン(ベロウソフ‐ジャボチンスキー反応)など、目に見える大きな(巨視的な)パターン形成現象が知られています。しかしながら、これまで分子レベルやナノスケールにおいても散逸構造が形成されるかどうかは、全く知られていませんでした。
 本研究では、負電荷を有する金(III)錯体の水溶液と、正電荷を有する脂溶性アンモニウムイオンを溶解した有機溶媒を接触させると、その界面で金錯体とアンモニウムカチオンのイオン対注6)が自己組織化し、自発的にナノレベルの一次元集合体を形成することを(この集合体を光還元注7)すると金ナノワイヤーが形成されることから)実証しました。さらにこの金ナノワイヤーはナノサイズ注3)の中空孔をもつ特殊な構造を有しており、従来の熱力学平衡系で合成される金ナノワイヤーにはない独特の構造的特徴を示しました。本研究は、界面における非平衡プロセスを設計することによって、分子・ナノサイズにおいても散逸構造が形成されることを世界で初めて明らかにしたものであり、今後、化学やナノ材料研究における新しい潮流を生み出すことが期待されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 「ナノ界面技術の基盤構築」(研究総括:新海 征治 崇城大学 工学部 教授/九州大学 名誉教授)
研究課題名 「自己組織化に基づくナノインターフェースの統合構築技術」
研究代表者 君塚 信夫(九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門 教授)
研究期間 平成19年10月〜平成25年3月

<研究の背景>

 物質やデバイスを微細化することによって、“高速化”、“低消費電力化”、“高集積化”などの多くの利点がもたらされるため、現在ナノテクノロジーに大きな期待がよせられています。注8)従来、半導体デバイスを主な対象としたナノテクノロジー(ナノメートル=nm=:10億分の1メートル)は、光リソグラフなどのトップダウン手法を中心に発展してきましたが、十数年後の近い将来、トップダウン手法によるナノ構造の作製に困難が増大することが指摘されています(微細加工の技術的限界、物理的限界や経済的限界など)。そのため、トップダウン手法を補完あるいは代替する研究手法として、ボトムアップ手法である“自己組織化”が注目を集めています。
 自己組織化には、大きく2つの分類があります。ひとつは、熱力学的平衡条件を舞台として分子が集合する自己集合(Self-assembly)であり、界面活性剤(洗剤)によって作られる球状の分子集合体(ミセル)や、脂質による二分子膜(生体膜)の形成、液晶の秩序構造形成などが挙げられます(図1)。また、DNAの二重らせんは、核酸塩基の相補的水素結合により作られますが、これも熱力学的に安定な構造が作られた例です。近年では、人工的に設計された分子から特定の分子集合構造である超分子を形成させようとする研究が盛んですが、この超分子化学も熱力学的平衡に基づいて成立しています。これらの分野は我が国から目覚ましい成果が数多くあげられ、大きな成功をおさめていますが、一方では成熟をみせつつあり、原理的なブレークスルーが得にくい状況がもたらされていました。
 このような背景のなか、平衡系自己組織化の枠を超え、非平衡条件で創り出される秩序構造である“散逸構造”や、非平衡過程を取り入れることにより、構成要素の性質の単純な総和にとどまらない新しい性質が生み出される“創発”現象が、新しいナノテクノロジーやナノ化学を切り開くためのキーワードとして注目されています
 散逸構造とは、1977年ノーベル化学賞を受賞したIlya Prigogine(イリヤ・プリゴジン)によって提唱された、“非平衡開放系における自己組織化により生み出される動的な定常構造”を指します。散逸構造の具体的な例として、熱帯魚の体表面模様に代表されるTuring(チューリング)パターン注9)、熱い味噌汁で見られる縞模様(Bernard(ベルナール)対流注10))、流しに水をながしたときにできる渦、渦潮や、また寒気の噴き出しに伴う渦巻き状の雲(カルマン渦)の形成過程などが挙げられ(図2)、私たちにとって身近な科学現象の1つと言えます。しかしながら、これらは分子やナノレベルと比べて非常に大きな(巨視的な:目に見える)規則構造として知られ、分子あるいはナノレベルの散逸構造は、その存在自体が知られていませんでした。これは、分子やナノレベルの構造を観察するためには、電子顕微鏡などの高解像度の観察手段が必要となり、これらは高真空下(すなわち乾いた状態)を必要とするため、エネルギーや物質の出入りがある非平衡開放系を観察するためには適さないなどの理由によるものです。このように、実験的に非平衡条件下でのみ形成される秩序構造を捉えることは困難であり、このため、ナノスケールや分子サイズのような微少な大きさの散逸構造の存在は、考えられることもありませんでした。
 本研究では、負電荷を有する金(III)錯体の水溶液と、正電荷を有する脂溶性アンモニウムイオンを溶解した有機溶媒を接触させると、その界面で金錯体とアンモニウムカチオンのイオン対が形成し、有機相から水相へむけたアンモニウムイオンの拡散(非平衡状態から平衡状態に近づこうとしておこる界面を隔てた物質輸送)と連動してイオン対が自発的にナノワイヤー状の集合体(散逸ナノ構造)を形成(自己組織化)することを、(この集合体を光還元すると金ナノワイヤーが形成されることから間接的に)世界で初めて実証しました。この散逸ナノ構造を光還元して得られる金ナノワイヤーは、ナノサイズの中空孔を有しており、また金ナノチューブの構造も一部観察されました。これらのナノ構造は、従来の熱力学平衡条件下では得ることのできないユニークな構造であり、新しいナノ材料をナノレベルの散逸構造(散逸ナノ構造)を利用して作り出す新しい方法論を開発しました。
 本研究は、界面における非平衡プロセスを利用することによって、散逸ナノ構造が形成されることを世界で初めて報告する例であり、今後、化学やナノ材料の研究における新しいパラダイムを生み出すことが期待されます。


<研究の具体的な内容>

1. 液体と液体の界面(水と有機溶媒の界面)において非平衡反応システムを創るために、特定の分子が溶解した一方の液体相から、その分子が存在しない他の液体相へ、分子が一方向に分配される過程を取り上げました。今回、そのような役割を担う分子として、単純な分子構造を有する四級アンモニウム塩を用いました。四級アンモニウム塩は正電荷を有するため、負電荷を持つ金錯体とイオン対を形成することが期待されます。今回用いたアンモニウム塩は脂溶性であり、有機溶媒に良く溶け水にはほとんど溶解しませんが、そのカチオンが有機溶媒―水界面において親水性アニオンである金錯体とイオン対を形成すると、水への溶解と分配が加速されます。

2. 金錯体として、アニオン性のAu(OH)4-を用いました。この錯体は、紫外光を照射すると容易に還元されて金ナノ粒子を与えることが、私たちのこれまでの研究成果から明らかとなっています。金錯体を水に溶解させ、アンモニウム塩を有機相に溶解させて両相を接触させると、イオン対が水と有機溶媒のなす界面で形成されます。界面で形成されたイオン対は、アンモニウム塩の濃度勾配に従って水相へと拡散してゆきますが、この際に、ナノワイヤー状のイオン対集合体(ナノ散逸構造)が形成されます。このイオン対金錯体を光照射して還元すると金ナノワイヤーが得られました。このことは、水相中にAu(OH)4-とアンモニウム塩からなるナノワイヤー状の構造が、あらかじめできていたことを意味します。つまり、界面から形成された不安定な散逸ナノ構造(軟らかい物)を、安定な金ナノワイヤーに変換することにより、電子顕微鏡を用いた観察が可能となりました。

3. 具体的には、Au(OH)4-を含む水溶液と、四級アンモニウム塩であるTBA+・PF6-(テトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロフォスフェイト)のクロロホルム溶液を静かに接触させ、すぐに(つまり熱力学的平衡に達していない、非平衡条件下で)光照射を行うと、平均直径11nm、アスペクト比500を越える非常に発達した金ナノワイヤーが水相中で得られました(図3)。一方、平衡条件、すなわち上記の2種類の溶液を十分に撹拌し、イオン対の分配が平衡に達した後に光照射を行うと、ナノワイヤー構造体は得られず、球状の金ナノ粒子凝集体のみが得られました。この金ナノ粒子凝集体は、アンモニウム塩を含まないAu(OH)4-水溶液に光照射を行った場合においても得られる構造体です。すなわち上記の結果は、ひものように一次元に発達したTBA+・Au(OH)4-イオン対から成る集合構造が非平衡条件下においてのみ、界面で形成されていること(散逸ナノ構造が形成されていること)を示しています(図4)。
 散逸構造の大きな特長の1つとして、同様の非平衡条件においては、幅広い物質から同様の集合体が一般的に形成されることが挙げられます。実際、TBA+・PF6-におけるカチオン種(アンモニウム塩)、アニオン種の分子構造を色々と変化させた場合でも、金ナノワイヤー構造体が一般的に得られることを確認しました。この結果は、界面においてナノ散逸構造が形成されていることを強く支持しています。

4. ナノ散逸構造から得られた金ナノワイヤーについて詳細な分析を行ったところ、金ナノワイヤーの中央部に中空のナノ空間が存在していることが分かりました(図5)。このような特徴的な構造を有するナノ物質は、従来、平衡条件で合成される金ナノロッドやナノワイヤー材料では得られない構造であり、散逸ナノ構造を利用することによって、ユニークな形状を有するナノ材料が得られることが分かりました。また、実験条件に依存して、金ナノチューブも得られました。これは、多孔性を有する酸化アルミナなどの固体鋳型を用いずに金ナノチューブをワンステップ合成に成功した、世界で初めての例です(図6)。

<今後の展開>

 革新的な機能を有するナノ構造を作製する手法として、自己組織化法を進展させることは、多様なナノ構造を作製する上で非常に重要な課題です。材料やデバイスを自己組織化法によって作製する技術は、省資源・省エネルギー面での効果が期待でき、また地球環境・エネルギー問題の観点からも大きく期待されています。このように、自己組織化を利用するナノ材料の開発研究は、ナノテクノロジー研究の領域に留まらず、広範な領域において、研究の進展が期待されています。

 今回、界面における非平衡条件下、散逸ナノ構造の形成と、それを光還元することによる特異形状を有するナノ中空構造を有する金ナノワイヤー、金ナノチューブの作製に初めて成功しました。

 散逸ナノ構造を経由して作製される金ナノワイヤーは、
(1)作成方法が簡便であり、原理的にスケールアップが可能である。
(2)既存の手法で合成される金ナノワイヤーには、存在しない、ナノ孔が形成される。すなわち、従来のナノワイヤーにない表面を作り出すことができ、触媒活性などの機能が期待できる。
(3)今回得られた金ナノワイヤーは、これまで平衡条件で合成されてきた固い金ナノロッド、ナノワイヤーとは異なる多結晶体であり、そのために非常に柔軟な構造を有しています。この柔軟な構造のために、例えば電極などの基板上に固定化しても、綿菓子のように絡み合って微細な空間を持つ状態を与えることが確認されています。そこで、電極上にこの金ナノワイヤーを固定化させることによって、高表面積を有する金電極が非常に簡便に作製できます。
 この高比表面積を有する電極は、
(ア) 高感度DNA検出システム
(イ) 新規色素増感太陽電池の開発
(ウ) 血液・唾液・尿などに含まれる微量生体分子の分析
    などをはじめとする、様々な応用が期待できます。
またさらに、
(4) 散逸ナノ構造は、上述したような非平衡条件下、様々な分子を用いて形成させることができると考えられます。今回見出された方法を展開することによって、高分子、金属錯体や有機−無機材料など、様々な新しいナノ材料の合成手法として発展するものと期待されます。
(5) “自己集合”と“散逸構造”に関する理解を深めることができ、これによって新しい自己組織化材料を設計することが可能となると期待されます。例えば、非平衡プロセスにおいては、これまで平衡系で作られてきた物質とは異なる構造・機能を有する分子や超分子を開発できる可能性があります。

平成20年度、非平衡科学に基づく材料開発を目指した文部科学省科学研究費 新学術領域研究「分子ナノシステムの創発化学」(領域代表:川合 知二 大阪大学 産業科学研究所 教授、http://www-souhatsu.sanken.osaka-u.ac.jp/index.html)が発足しています。

<参考図>

図1

図1 熱力学的平衡条件において形成される分子集合構造の例


図2

図2 非平衡条件で作られる構造(パターン)の例

 これらの模様やパターンは、平衡状態に到達すると(例えば冷えて熱対流がなくなると)消えてしまいます。また、これらの散逸構造は、いずれも人間の目で見える(巨視的な)大きさ、あるいはそれ以上のスケールです。一方、分子・ナノサイズの散逸構造は、その存在自体が知られていませんでした。

図3

図3 今回の研究成果のまとめ

 非平衡条件下での光還元プロセス(1)では、散逸ナノ構造である金錯体の一次元集合体の構造を反映した金ナノワイヤーが形成されました。一方、熱力学的平衡条件(2)では、金ナノ粒子の凝集体のみが得られました。(1)の条件で金ナノワイヤーが形成されたことは、非平衡条件でナノレベルの一次元会合構造(散逸ナノ構造)が存在することを示しています。

図4

図4 非平衡条件(a→b→c)と平衡条件(a→d→e→f)における金ナノ結晶の形成メカニズム

 非平衡条件では、金錯体と四級アンモニウムカチオン(TBA+)のイオン対が散逸ナノ構造(一次元集合体)を形成し、これを光照射すると(光還元反応がおこり)金ナノワイヤーが得られます。
 一方、平衡条件(攪拌混合した後、2相に分離した状態)において、水相では熱力学的に最安定な球状のイオン対集合体が形成され、これが光還元されると金ナノ粒子が得られます。

図5

図5 中空構造を有する金ナノワイヤーの透過型電子顕微鏡写真と模式図

 白矢印はナノ中空孔の存在する部分であり、ほぼ周期的に形成されています。

図6

図6 実験条件を変えることによって得られた金ナノチューブの電子顕微鏡写真

<用語解説>

注1)散逸構造
 平衡熱力学では、ある一定の温度、圧力の条件下における物質の熱力学的性質が調べられます。熱平衡状態は時間的に変化しない状態です。ところが、系内に温度差や濃度差があると、その差に応じて熱対流や拡散流が生じます。温度差などが小さいときは、熱対流の大きさなどは、温度差などに比例します。これらの関係を議論する分野は線形非平衡熱力学と呼ばれます。ところが、温度差などが大きくなると、上に述べた比例関係が成り立たなくなり、系のマクロな状態が熱平衡に近い状態と定性的に異なる状態をとることがあります。例えば、容器に入れた水を下から熱すると、温度差が小さいときは熱伝導状態で、熱対流は温度差に比例し、水自身は止まっています。しかしながら温度差を大きくすると、ある温度差以上で対流運動が生じ、マクロな流体運動が自発的に生じてきます。この対流運動のような、熱対流によりエントロピーが生成されている系に生じるマクロな動的状態を散逸構造と呼んでいます。

注2)トップダウン、ボトムアップ
 トップダウンとは、物体を微細加工してナノ構造体を作り出す微細加工技術をさします。代表的技術としてリソグラフィーがあり、従来技術の極限化、高精度化、高機能化を追求するものです。光リソグラフィーおよび電子リソグラフィーでは100nm以下および10nm以下の線幅で描画することが可能になっていますが、これらの手法で加工線幅50nm以下の構造を大量生産することはコスト的に難しいとされています。
 一方、ボトムアップは、原子や分子を組み上げてナノスケールの物質を作り出す微細組み立て技術です。ナノスケールの構造が、ある条件下で自発的に形成する“自己組織化”は、約50nm以下のスケールのナノ構造体を作り出すことが可能な省エネルギー技術として注目されています。
 トップダウン方式は主に機械・電子系の分野で、ボトムアップ方式は化学系の分野で研究されていますが、ボトムアップ方式では、トップダウン方式では作成不可能な微細な物質を作り出すことが可能となります。最近では、トップダウン手法とボトムアップ手法を融合した新しい方法論の開発が、重要な課題と認識されています。

注3)ナノスケール、ナノサイズ
 ナノメートル(1nm)とは0.000000001 m(10億分の1)であり、ナノスケールはその領域の大きさを指します。ナノテクノロジー・ナノマシンなどの分野では、1〜100nm程度の大きさをそのスケールとして取り扱います。

注4)ナノテクノロジー
 「ナノテクノロジー」とは、物質をナノメートル (nm、1nm = 10−9m)の領域において、自在に制御する技術のこと。ナノメートル(nm:1メートルの10億分の1)レベルで物質を設計、創成するとともに、その機能を自在に制御して、材料分野・情報技術・バイオ/医療・環境・エネルギーなどの様々な産業分野に活かすための基幹技術です。ナノテクノロジーは、科学技術基本計画で指定された重点4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)の1つであり、国として重点的・集中的に進めるべき最重要科学技術分野として位置付けられています。現在、「ナノテクノロジー」の研究は21世紀の最重要技術として、また従来の限界を超えて新たな産業技術のパラダイムシフトを引き起こす可能性を秘めた革新科学技術として、世界中で激しい競争が始まっています。

注5)平衡条件、非平衡条件
 平衡条件とは下左図のように、ある物質(あるいはエネルギー)がA相とB相の両方に均一に分布しており、各相へと移動する速度がつりあっているために、見かけ上変化がない状態となります。一方、非平衡条件とは、ある物質(あるいはエネルギー)がどちらかの相に偏って存在し、系が平衡に近付こうとして物質(あるいはエネルギー)の流れがある状態を指します。現在では、平衡条件の熱・統計力学については完成がなされ、超分子やナノマテリアルの開発など、先端化学は熱力学平衡条件を前提として行われています。一方、非平衡熱力学系を舞台とする超分子やナノマテリアルの化学は殆ど未開拓の分野であり、この分野の突破口が待たれている状況にあります。

注6)イオン対
 それぞれ正電荷と負電荷を持つイオンが、お互いの電荷によって引き合い対をなしたもの。

注7)金錯体の(光)還元
 溶液中で金属イオンが電子を受け取ると、金属へ還元されます。光還元とは、光照射によって還元反応を促進することを言います。Au(OH)4-錯体は、光照射下で容易に金に還元されます。

注8)ナノテクノロジーが期待される理由
 現在コンピューターなどで利用されている電子回路のトランジスタは、だいたい数十nm程度の大きさですが、これを1/10にすることができれば、コンピューターを現在よりもずっと小型化し、必要な電力や発熱を抑えることが可能になるものと期待されます。また同様に、記憶装置などにおいても小型化・高機能化が期待されます。また、物質を数ナノメートルの大きさにすると、量子効果と呼ばれる特殊な現象が発現することが知られています。例えば、金属や半導体のナノ粒子においては、電子の閉じこめによるエネルギー準位の離散化があらわれます。このように、ナノスケールにまで制御されたナノ材料においては、従来の金属材料では実現できなかった優れた特性が発現することが見出されています。また電子材料以外にも、ドラッグデリバリーシステムに代表される医療や診断分野への応用もさかんに研究されています。

注9)Turing(チューリング)パターン
 標準的な反応−拡散系において生じる、一定の空間パターンやリズムなどの自己組織化現象のことを指します。実用的なコンピュータモデルを発明した数学家であるAlan Turing(アラン・チューリング)によって、理論的な存在が示されたためにTuringパターンと名付けられています。

注10)Bernard(ベルナール)対流
 流体に熱を掛けると、下層の流体は上昇し、上層の流体は下降することで対流が生まれます。このような対流運動の結果として、細胞状のパターンが生じる熱対流をBenard対流と呼びます。最も簡単な熱対流の1つです。

<掲載雑誌名および論文名>

掲載雑誌名 Small(出版社 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA, Weinheim, Germany)
Small 2008, DOI: 10.1002/smll.2000900348
論文名 “Holey Gold Nanowires formed by Photoconversion of Dissipative Nanostructures Emerged at the Aqueous-Organic Interface”
(水/有機溶媒界面で生じる散逸ナノ構造の光変換による中空孔を有する金ナノワイヤーの形成)
doi: 10.1002/smll.200900348

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
君塚 信夫(キミヅカ ノブオ)
九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門 教授
Tel:092-802-2832 Fax:092-802-2838
E-mail:

<JSTの事業に関すること>
廣田 勝己(ヒロタ カツミ)
独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5番地 三番町ビル
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
E-mail:

<広報担当>
九州大学 広報室
Tel:092-642-2106 Fax:092-642-2113
E-mail :

独立行政法人 科学技術振興機構 広報ポータル部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

<参考意見など 問い合わせ先>
●散逸構造について
山口 智彦
独立行政法人 産業技術総合研究所 ナノテクノロジー研究部門 主任研究員
〒305-8565 茨城県つくば市東1−1−1 中央第5−2
Tel:029-861-9408 Fax:029-861-6236
E-mail:

●自己組織化材料、分子の自己組織化(分子組織化学)について
国武 豊喜
九州大学 名誉教授/(財)北九州産業学術振興機構(FAIS) 副理事長
〒808-0135 北九州市若松区ひびきの2−1
Tel:093-695-3051 Fax:093-695-3010
E-mail: