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平成21年4月8日

科学技術振興機構(JST)
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東北大学 大学院医学系研究科
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アラキドン酸が神経新生促進と精神疾患予防に役立つ可能性を発見

 JST基礎研究事業の一環として、東北大学大学院医学系研究科の大隅 典子 教授らは、多価不飽和脂肪酸注1)の一種であるアラキドン酸注2)神経新生注3)を促進し、ラットにおいて精神疾患様行動を改善する効果があることを発見しました。
 統合失調症注4)などの精神疾患の患者では、周囲の不必要な雑音などが意識に上らないようにシャットアウトする感覚フィルター機能注5)が弱まる症状が見られます。この感覚フィルター機能は、驚愕音への反応を弱めるプレパルス抑制(prepulse inhibition:PPI)注6)という生理学的な検査で評価することができます。
 本研究グループは今回、脳の発生・発達に重要な遺伝子であるPax6注7)に変異のある動物や、薬剤の投与によって神経新生を低下させた動物モデルにおいて、神経新生の低下がPPIの低下と相関することを見いだしました。これに加えて、これまでに見いだした多価不飽和脂肪酸に結合するたんぱく質が神経新生に関わるという研究結果から、多価不飽和脂肪酸の一種であるアラキドン酸に神経新生向上効果があるのではないかと考えました。
 そこでさらに今回、野生型のラットを生後4週までアラキドン酸を含む餌を与えて飼育し、神経新生の様態を解析したところ、対象群よりも約30%神経新生が向上することが分かりました。また、Pax6変異ラットにもアラキドン酸含有餌を投与したところ、やはり神経新生は向上し、PPIの低下に改善傾向が認められました。これらのことから、アラキドン酸が神経新生を向上させ、精神疾患様行動を改善する可能性が示されました。アラキドン酸を摂取することが、PPIの低下を伴う精神疾患の発症予防や治療に役立つものと期待されます。
 本研究成果は、理化学研究所 脳科学総合研究センターの分子精神科学研究チームの前川 素子 研究員・吉川 武男 チームリーダー、三菱化学生命科学研究所の井ノ口 馨 主任研究員ら、サントリー健康科学研究所の木曽 良信 所長らとの共同研究によるもので、2009年4月7日(米国東部時間)に米国のオンライン科学誌「PLoS ONE」で公開されます。

本成果は、以下の事業の支援によって得られました。
(1)JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」
(研究総括:津本 忠治(独)理化学研究所脳科学総合研究センター グループデイレクター)
研究課題名 ニューロン新生の分子基盤と精神機能への影響の解明
研究代表者 大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 教授)
研究期間 平成16年10月〜平成22年3月
 JSTはこの領域で、脳機能発達と学習メカニズムに関する独創的、先進的研究が進展し、その結果、教育や生涯学習における諸課題解決に対する示唆を提供することによって、成果を社会に還元することを目指しています。上記研究課題では、脳の細胞を産み出す遺伝子プログラムや、神経機能についての基礎研究を通じて、健やかな脳や心を育むことに貢献します。
(2)文部科学省グローバルCOEプログラム(脳神経科学を社会へ還流する教育研究拠点)

<研究の背景と経緯>

 現在、主たる精神疾患は統合失調症と気分障害(うつ病、躁うつ病)注8)の2つに大別されていますが、前者の統合失調症は思春期以降に好発し、発症率は人口の約1%と決して少ない疾患ではありません。その原因はさまざまであると考えられていますが、中でも脳発達期(特に胎児期)の微細な神経回路の形成障害が、将来の疾患発症の脆弱性基盤に関係するという「神経発達障害仮説」が注目されています。この説を支持する事象として、以下のような状況で統合失調症の発症率が上昇するという疫学的データがあります。

(1)妊婦の栄養不良
(2)妊婦のウイルス感染
(3)産科合併症、周産期障害
(4)母子間のRh血液型不適合
 特に(1)に関しては、第二次世界大戦末期にオランダのアムステルダムで起こったDutch Hunger Winterが有名です。アムステルダムでは戦争中にナチスドイツによって陸路が封鎖された影響で一時的に極端な食糧不足に陥り、食糧配給は最悪の時期1人あたり1日約1,000kcal以下であったと言われています。この飢饉の時期に母親の胎内にいた子どもが思春期に達した時、子どもの統合失調症の発症率は約2倍になったと言われています。また、1959〜1961年にかけて中国でも大飢饉が起こりましたが、この時期に母親の胎内にいた子どもが成人に達した時も、統合失調症の発症率は約2倍になったとの報告があります。このように、疫学データからは「胎児期の栄養不良から統合失調症の発症基盤形成」という図式が考えられます。しかし、栄養素といっても非常に多数あり、どの栄養素が直接的な原因かはこれまで特定できませんでした。
 そこで本研究グループは、多価不飽和脂肪酸(PUFA: polyunsaturated fatty acid)の摂取量が精神疾患の発症に関係している可能性を、生物学的マーカーであるPPIを指標として調べました。ちなみに、PPIは統合失調症、双極性障害注9)をはじめとする気分障害、注意欠陥・多動性障害注10)などを含む小児発達性精神障害、強迫性障害注11)(いわゆる強迫神経症)など複数の精神疾患で低下していることが報告されており、これら精神疾患に共通する病理を反映する生理学的指標の可能性があります。同時に、最近はうつ病や統合失調症では神経新生が低下しているとの報告があるため、多価不飽和脂肪酸の神経新生(図1)に及ぼす効果や神経新生の程度とPPIの関連を検討しました。

<研究の内容>

(1)脳発達期の神経新生低下がPPIの低下を引き起こす
 動物では精神疾患そのものを調べることはできませんが、いくつかの生理学的指標はヒトと共通な神経機能に基づいていると考えられます。統合失調症、双極性障害、注意欠陥多動性障害などの精神疾患患者では、ヒト特有の精神症状の他に、周囲の不必要な雑音などが意識に上がらないようにシャットアウトする感覚フィルター機能が弱まる症状が見られます。この感覚フィルター機能は、驚愕音への反応を弱めるPPIを測定することで評価できます(図2)。本研究グループは、疫学的なデータから、発達期の神経新生の低下がPPIの低下につながる可能性があると考え、遺伝的に発達期の神経新生が低下したラット(Pax6変異へテロラット)と、薬剤(methylazoxymethanol acetate: 細胞増殖阻害剤)により発達期の神経新生を低下させたラットとを用いて、それぞれの動物のPPI測定を行いました(図3)。その結果、いずれのラットにおいてもPPIが低下していることが分かりました。このことから、生後発達期の神経新生の障害が、将来のPPIの低下を来す神経回路基盤の形成に影響を与えることが示唆されました。

(2)アラキドン酸が発達期の神経新生を促進する
 Fabp7(fatty acid binding protein 7型:脂肪酸結合たんぱく質7型)注12)は、分子量14-15 kDa の低分子たんぱく質で、主に細胞質に存在し多価不飽和脂肪酸の取り込みや輸送、核内受容体(転写因子)と複合体を形成して他の遺伝子の発現調節に関わると言われています。本研究グループはこれまでに、Fabp7が胎生期から生後の脳に発現し神経幹細胞の増殖の制御に関わることを見いだしています。そこで今回、Fabp7と結合する多価不飽和脂肪酸が生後の神経新生に与える影響を調べました。
 多価不飽和脂肪酸(特にアラキドン酸あるいはドコサヘキサエン酸=DHA)を多く含む餌を野生型ラットの母親に経口投与し、母乳を介して仔ラットに生後2日目から4週間にわたって多価不飽和脂肪酸を与えました。すると、特にアラキドン酸を摂取した仔ラットの海馬において増殖細胞数が約30%増加するとともに(図5)、神経前駆細胞のマーカーであるグリア細胞線維性酸性たんぱく質(glial fibrillary acidic protein:GFAP)やポリシアル化神経細胞接着分子(polysialic acid-neural cell adhesion molecule:PSA-NCAM)の発現が増加することが分かりました。以上の結果を考え合わせると、胎生期から生後にかけて神経幹/前駆細胞に発現するFabp7が、多価不飽和脂肪酸(特にアラキドン酸)の取り込みと輸送、また、種々の遺伝子発現調節を行うことにより脳発達(神経新生)の制御を行う可能性が考えられました。

(3)アラキドン酸摂取によりプレパルス抑制の低下が改善する可能性がある
 次に、発達期に神経新生の低下を示し、かつ成体期にPPIの低下を示す動物(Pax6変異へテロラット)に対して、発達期の神経新生を改善させた場合に成体期のプレパルス抑制の低下が改善するかを調べました。Pax6変異へテロラットに対して、生後2日目から成体になるまでアラキドン酸を与えたところ、生後15週齢時点においてPPIの低下が改善傾向を示すことが明らかになりました(図6)。この結果、アラキドン酸が生後神経新生の改善を通じて成体期のPPIの低下を改善する可能性があることが考えられました。

<今後の展開>

 今回の結果から、脳の発生・発達期における微細な障害が、精神疾患の発症しやすさ(脆弱性)の基盤になるという仮説を栄養学的観点から補強したと考えます。また、精神疾患はいくつもの遺伝子と環境要因が複雑に関与して発症すると考えられますが、今回の結果は遺伝要因(今回の場合Pax6Fabp7)と環境要因(今回の場合多価不飽和脂肪酸、特にアラキドン酸の摂取)の相互作用の観点からも、発症脆弱性基盤の形成メカニズムの一端を明らかにしたものと考えます。
 脳発達期の栄養不良による精神疾患の発症の分子機構には未知の部分が多いと考えられますが、妊娠中から生後発達期にかけての多価不飽和脂肪酸の適正な摂取が精神疾患発症の予防につながるか、今後の研究が期待されます。

<参考図>

図1

図1 神経新生の様態(模式図)

 神経新生が生じる場所の1つである海馬では、神経幹細胞が顆粒細胞下層に存在し、細胞分裂することにより新生ニューロンを生みだす。新生ニューロンは1〜2ヵ月の間に既存の神経回路に接続し、新たな神経回路を構築する。生後5週の雄ラットでは、1日当たり約9,000個のニューロンが生まれ、そのうちの約半数が生存する。
※ 宮川 剛、大隅 典子「海馬ニューロン新生:解き明かされる脳のダイナミズム−特集にあたって」『Medical Bio』2009年3月号(発行:オーム社、アートワーク:マブチデザインオフィス)より引用。

図2

図2 プレパルス抑制(PPI)の測定方法

 齧歯類(マウスやラット)でPPIを計測する場合には、驚愕音による筋反射を圧センサーで測定する。

図3

図3 Pax6 変異ラットのPPI測定

 Pax6変異ラットでは、ヒトの思春期相当(生後6週;A)においてはPPIのスコアは野生型ラットと変わらないが、思春期以降(B, C)ではPPIのスコアの低下が認められる。図中、ppはプレパルスの略で、PPIを測定するときは、通常何種類かのプレパルスレベルで測定する。Wは生後何週間経過したかを示す。

図4

図4 生後の神経新生低下によるPPIの低下

 野生型ラットに対して、幼若期の生後4〜5週に細胞増殖阻害剤(MAM)を投与したのち、成長後の10週においてPPIを測定した(A)。MAM投与により一過性に神経新生の低下が認められ(B)、PPIの低下はその後長期間経った時点でも観察された(C)。神経新生の程度は、注射したBrdUを取り込んだ細胞の数で評価する。

図5

図5 多価不飽和脂肪酸投与による神経新生の向上

 野生型ラット(WT)を生後2日目から4週間、多価不飽和脂肪酸(PUFA)含有餌で飼育し、神経新生の状態を調べたところ(A)、アラキドン酸(ARA)投与群において神経新生が約30%向上した(B, C)。ドコサヘキサエン酸(DHA)含有餌、アラキドン酸およびDHA混合餌では、その効果はあまり認められなかった。Bで、緑色の点がBrdUを取り込んだ新生細胞を示している。

図6

図6 アラキドン酸によるプレパルス抑制低下の改善効果

 Pax6変異ラットを生後2日目以降、アラキドン酸(ARA)含有餌で飼育し、神経新生に対する効果の判定(BrdU assay)とPPIの測定を行った(A)。4週間のアラキドン酸投与により、Pax6変異ラットにおいても神経新生は向上し(B)、生後15週におけるPPIには回復傾向が認められた(C)。

<用語解説>

注1)多価不飽和脂肪酸
 脂肪酸は、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸であり、一般式 CnHmCOOH で表わすことができる。細胞膜脂質の構成成分や神経細胞を取り巻くミエリン脂質の構成成分として生体内(特に脳)に著量存在する。炭素鎖に二重結合を有しない脂肪酸は飽和脂肪酸、炭素鎖に二重結合を有する脂肪酸は不飽和脂肪酸と呼ばれ、特に二重結合が2つ以上ある不飽和脂肪酸のことを多価不飽和脂肪酸という。大豆油、ひまわり油などの植物油や魚油に多く含まれており、融点が低いために流動性が高く、室温では柔らかい状態か液体状である。
 具体的には、例えば炭素数が16個の飽和脂肪酸はパルミチン酸、炭素数が18個で二重結合が1つの不飽和脂肪酸はオレイン酸、炭素数が18個で二重結合が2つの不飽和脂肪酸にはリノール酸などがある。ドコサヘキサエン酸(DHA)は炭素数が22個、二重結合が6個の不飽和脂肪酸で、生体内でα―リノレン酸から変換される。アラキドン酸(ARA)は炭素数が20個、二重結合が4個の不飽和脂肪酸であり、リノール酸から変換される。DHAやARAは母乳中に含まれるが、乳児ではα―リノレン酸やリノール酸からの変換能が弱いと言われている。
 飽和脂肪酸はエネルギー源として代謝されるが、多価不飽和脂肪酸の一部は必須脂肪酸であり、不足すると皮膚障害、不妊などが引き起こされることから、いろいろな生体機能を担っていると考えられる。

注2)アラキドン酸
 DHA(ドコサヘキサエン酸)と同様に、脳・肝臓・皮膚などの身体のあらゆる組織を構成する主要な多価不飽和脂肪酸のひとつ。食品中には肉、卵、魚などに多く含まれており、体内で合成できないために外界(通常は食事)から摂取する必要がある。食事由来のリノール酸から体内で変換されて作られるが、ヒトにおける変換能はあまり高くないとされている。必須脂肪酸は、多くの代謝過程で働いているため、不足したり種類のバランスが悪かったりすると、体調を崩す原因になることが示唆されている。

注3)神経新生
 脳の中には、1,000億個のニューロン(神経細胞)と、その10倍の数のグリア細胞(神経膠細胞)が存在し、精密なネットワークを形成している。ネットワーク構築のためには、脳の細胞の元になる細胞(神経幹細胞)が多数分裂して数を増やし、ニューロンやグリアの細胞に変化する(分化する)ことが必要である。この過程を「神経新生」(もしくはニューロン新生)と呼ぶ。すなわち、神経幹細胞は分裂して自己を複製し、その存在を維持しつつ、神経細胞やその他の脳を構成する多様な細胞へ分化している。海馬では神経幹細胞は海馬歯状回顆粒層下層と呼ばれる特定の領域で脳が完成した生後も見られるが、その程度は加齢とともに減少することが知られている。

注4)統合失調症
 統合失調症は人口の約1%が罹患する精神疾患で、思春期・青年期に発症することが多い。幻覚や妄想、思考の障害、自発性の低下、感情の平板化などを主要な症状とし、社会的機能低下も問題となる。統合失調症の発症には、他の多くの精神疾患と同様に複数の遺伝的要因と環境要因が複雑に相互に作用していると考えられているが、詳細なメカニズムは不明である。症状を緩和する薬は1950年代に偶然発見されたが、根本的治療薬の開発や予防法の開発が待たれる。

注5)感覚フィルター機能
 生体には、五感を通して絶えず感覚入力があるが、必要な感覚しか意識に上らないようになっている。これは、感覚情報が集まる視床という脳部位に感覚入力のフィルター機能があって、無秩序で過剰な信号が大脳皮質に行かないように感覚入力を制限しているためと考えられている。たくさんの人が雑談しているカクテルパーティーのような雑踏の中でも、自分が興味のある人の会話、自分の名前などは、自然と聞き取ることができる「カクテルパーティー効果」も、この感覚フィルター機能に基づいている。統合失調症では、この感覚フィルター機能に障害があるために、不必要で無関係な信号が大脳皮質に過剰に伝達され、思考障害や困惑などの症状が起こる一因になっていると考えられている。感覚フィルター機能は音驚愕プレパルス抑制テスト(図2)によって測定することができる。

注6)プレパルス抑制(prepulse inhibition:PPI)
 突然の刺激(例えば驚愕音)への反応を、その直前に、同種かつ驚愕を引き起こさない程度の弱い刺激を与えることによって抑制する現象のこと。上記の感覚フィルター機能もしくは感覚運動情報制御機能(sensorimotor gating)を反映する指標の1つ。

注7)Pax6
 転写調節因子は遺伝子のスイッチをオン・オフしたり、発現量を増減させたりすることで、遺伝的プログラムで中心的な役割を果たす因子である。Pax6遺伝子が作るたんぱく質は細胞の核の中で転写制御因子として標的の遺伝子のスイッチを押す働きがある。Pax6は特に中枢神経系(脳)の発生の最も初期から成体まで神経幹細胞で働き、神経幹細胞の増殖と分化を制御することが知られている重要な因子である。本研究グループの大隅らは既に、脳で最も多い細胞であり、ニューロン(神経細胞)の働きを助けるなど多様な機能を担うアストロサイトの発生を同因子が制御することを報告している。

注8)気分障害(うつ病、躁うつ病)
 気分障害は、統合失調症と並ぶ2大機能性精神疾患の1つとされている。文字通り気分の変調をきたす疾患で、病的という場合、変調の程度(重症度)、持続期間などが考慮される。経過を通して抑うつだけが見られる場合は、うつ病という。うつ病性障害では、気分が落ち込む「抑うつ気分」や、何をしても興味が持てない「興味や楽しみの喪失」のために非常な苦痛を感じて、日常生活に支障が生じる。生涯発症率は、男性よりも女性で高い傾向がある。先進国では10〜20%、あるいはそれ以上であると報告されている。経過中にうつ状態だけでなく、躁状態が現れる気分障害は、躁うつ病(双極性障害)と言われている。躁状態では、非常に元気が良くなって何でもできると思い込むようなったり、気分爽快で自分ひとりで何でもきるような万能感を持ったりする。躁うつ病の生涯発症率は、性別や地域にあまり影響されず、1%弱であると言われている。

注9)双極性障害
 気分障害の1つ。気分障害については注7を参照。

注10)注意欠陥・多動性障害
 注意欠陥・多動性障害は多動性、不注意、衝動性を症状の特徴とする発達障害の1つと言われており、ADHD(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder)と呼ばれることも多い。規律を守らなければならない社会的ルールが増加する、小学校入学前後に発見される場合が多い。一般に遺伝的原因があるとされるが、原因は不明である。注意力を維持しにくい、時間感覚がずれている、さまざまな情報をまとめることが苦手などの特徴がある。日常生活に大きな支障をもたらすが、適切な治療と環境を整えることによって症状を緩和することも可能である。脳障害の側面が強いとされ、しつけや本人の努力だけで症状などに対処するのは困難であることが多い。

注11)強迫性障害
 してはならないことをしてしまった、あるいは、してしまうのではないかという不安・疑念(強迫観念という)を感じて質問や確認を繰り返したり、自分や自分の生活圏が汚れや細菌で汚染されているのではないかという強迫観念にかられ、手を何度も洗う行為(強迫行為という)がみられる。疾患のメカニズムは不明である。統合失調症や気分障害(特にうつ病)に伴うこともある。

注12)Fabp7(fatty acid binding protein 7型:脂肪酸結合たんぱく質7型)
 Fabp7遺伝子は「脂肪酸結合たんぱく質」を作る。類似の遺伝子が複数あり、ファミリーを形成している。現在のところ、Fabp1からFabp12の少なくとも12種類が知られている。Fabp7たんぱく質は、別名「脳型脂肪酸結合たんぱく質」と呼ばれ、体内の組織では脳内で多く発現している。脳の発達期では未分化な神経幹細胞に多量に発現するが、大人になると発現量は減少し、アストロサイトというグリア細胞の一種に局在するようになる。結合する脂肪酸として、(必須)不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やアラキドン酸(ARA)に親和性が高い。このように、Fabp7たんぱくは脳発生初期の未分化な神経幹細胞の中にたくさんあり、分化したニューロンにはほとんど見当たらないことから、機能の一部として、未分化な神経幹細胞の増殖あるいは分化(すなわち神経新生の過程)に関わっていると考えられている。なお、Fabp7はヒト以外の生物種でのたんぱく質に対する表記であり、ヒトではFABP7と表記する。

<論文名>

"Arachidonic acid drives postnatal neurogenesis and elicits a beneficial effect on prepulse inhibition, a biological trait of psychiatric illnesses"
(アラキドン酸は生後神経新生を促進し、精神疾患の生物学的指標となるプレパルス抑制に良い効果をもたらす)
doi: 10.1371/journal.pone.0005085

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