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平成21年3月30日

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)

国立教育政策研究所
Tel:03-6733-6833

「平成20年度高等学校理科教員実態調査」
集計結果(速報)について

 JST(理事長 北澤 宏一)と国立教育政策研究所(所長 近藤 信司)は、平成21年1~2月に全国の約900校の高等学校で理科を教える約3300名の教員を対象とした、理科の教育環境や研修の状況などに関する質問紙による実態調査を共同で実施しました。
 その結果、高等学校普通科では小中学校段階に比べて観察や実験が少なく、生徒にとって魅力的な理科教育とは言い難い状況にあること、その要因として、観察や実験のための時間が不足しており、かつ、教材費についても厳しい予算状況であることが分かりました。一方、専門教育を主とする理数系の学科(理数科)や、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業指定校においては、課題研究や探究活動、表現力の育成、大学や研究機関との連携など、理数に関するさまざまな教育活動に積極的に取り組んでいることから、高等学校段階における将来の優れた科学者や技術者の人材育成を目指した教育活動を生徒に提供する上で、理数科やSSHは拠点的役割を果たしつつあることが分かりました。
 以下にアンケートの目的と集計概要を記します。また、集計結果(抜粋)は別紙をご覧ください。集計結果(速報)は、下記のアドレスからダウンロードできます。

【調査の背景・目的など】

○高等学校における理科は、生徒が科学技術や自然と将来どのようにかかわって生きていくかに大きく影響を与える大切な学習機会であるにもかかわらず、2006年に実施されたOECDのPISA調査の結果などから、日本の高校生の科学に対する意識が国際的に低い水準にあることがわかっています。今後の効果的施策を検討するため、初等中等教育段階での理科教育の現状と課題の把握、とりわけ理科教員に関する実態の把握が必要となっています。そこで、理科を教える教員の実態と理科の教育環境、および将来優れた科学者や技術者となる人材の育成状況について把握することを目的として、科学技術振興機構と国立教育政策研究所が協力し、平成21年1~2月に高等学校理科教員に対する実態調査を行いました。
○調査対象
ア すべての全日制高等学校から無作為抽出された「普通科」集団(イ、ウを除く)
イ 専門教育を主とする全日制の理数系の学科「理数科」集団(ウを除く)
ウ 平成20年度現在のすべてのスーパーサイエンスハイスクール事業指定校「SSH」集団
 各対象校において、以下の16 の教員各1名を対象に質問紙調査を実施した。
1 理科主任もしくはそれに代わる教員
2 総合的な理科(理科総合AまたはBまたは理科基礎)を担当する教員
3 物理II、または、その内容に相当する科目を担当する教員
4 化学II、または、その内容に相当する科目を担当する教員
5 生物II、または、その内容に相当する科目を担当する教員
6 地学II、または、その内容に相当する科目を担当する教員

有効回答数 ア 普通科 イ 理数科 ウ SSH指定校
 学校数 (教員1による) 700校 125校 89校
 教員数 (教員26 2422名 473名 355名
 内訳 教員2 655名 107名 83名
教員3 575名 121名 86名
教員4 612名 119名 88名
教員5 617名 111名 84名
教員6 74名 30名 27名
(※ 26 の回答者は一部重複)
○今回は、各調査項目別の集計結果を中心とした調査結果と一部のクロス分析結果の報告であり、今後、より詳細な分析結果を加えた報告書を公開予定です(平成21年7月頃)。本調査は今回が初めてであり、将来の調査によって経年変化を把握する予定です。また、本報告では平成20年度に実施した「小学校理科教育実態調査」および「中学校理科教師実態調査」の結果を引用しています。それぞれの調査の速報と報告書「平成20年度小学校理科教育実態調査及び中学校理科教師実態調査に関する報告書」はホームページ(https://www.jst.go.jp/cpse/risushien/)で公開しています。

【主な結果の概要】

 高等学校普通科の理科教員が担当する授業について、『日頃から力を入れて取り組んでいるか』に「そう思う」と回答した理科教員の割合は約7割で、公立中学校理科教員の約5割より高いです。また、『最新の科学技術をよく話題に取り上げているか』に「そう思う」と回答した割合は2~4割、『科学が日常生活に密接に関わっていることをよく解説しているか』に「そう思う」と回答した割合は3~5割と、それぞれ小学校や中学校で理科を教える教員よりも高い傾向にあります。
 しかし、普通科の理科教員で『実験の手順を生徒自身によく考えさせているか』と、『生徒に自分の考えを発表する機会をよく与えているか』に「そう思う」と回答した割合はともに1割未満です。また、生徒による観察や実験を週1回以上実施している割合も約1割で、小中学校の教員でこれらの問いへの回答割合が6~8割であるのに比べると極めて低いです。さらに、必ず実施することになっている探究的な活動や課題研究に割り当てる授業時間数が、年に「3時間以下」に過ぎない教員の割合が6~8割と高いです。また、生徒全員が履修する理科総合A、Bなどの総合的な「理科」の授業で、生徒の60%以上が好きだと感じていると回答した担当教員の割合は約1割に止まっており、小中学校の教員での4~8割を大きく下回っています。
 担当する科目において、観察や実験を行うにあたって障害となることは「授業時間の不足」、「大学入試への対応のための指導に時間を取られる」という時間の不足や「設備備品の不足」をあげる教員の割合が高いです。また、学校あたりの理科の設備備品費は普通科の全国平均が年間約32万円(高校生一人当たり407円)であるが、0円という学科も約3割存在しています。また、生徒一人当たりの消耗品費は510円であり、生徒による観察や実験を実施するには厳しい予算状況です。
 このように、全国の高等学校の約7割を占める普通科では観察や実験を通した理科授業が重視されておらず、生徒にとって魅力的な理科教育とは言い難いです。
 一方、理数科やSSHでは探究的な活動や課題研究に積極的に取り組むとともに、外部の資金を導入し、より特徴的な理科教育に取り組む傾向が見られます。JSTが行っているサイエンスパートナーシッププロジェクト(SPP)の活用は、理数科は約6割ですが、普通科では約1割です。特別に設定した時間での理数に関する課題研究や探究活動は、第2学年において理数科の約8割、SSHの約9割で行われています。理数に関して調査研究したことをプレゼンテーションしたり、英語で表現したりする力を高める学習も8割以上のSSHで取り組まれています。さらに科学者・技術者による特別講義・講演会も大半の理数科やSSHが取り入れているなど、理数に関するさまざまな教育活動に積極的に取り組んでいる様子がうかがえます。また、理科教員の研修や研究の面においても、少なくとも年に1回以上、大学や研究機関などの専門家と会合することがある教員は普通科で約3割、理数科で約5割、SSHで約7割と、取り組みの程度に大きな差が見られます。高等学校段階における将来の優れた科学者や技術者の人材育成を目指した教育活動を提供する拠点として、理数科やSSHが各地域で重要な存在であることがわかります。

(注)「普通科」は全日制の普通科を示す。「理数科」は専門教育を主とする全日制の理数系の学科を示す。「SSH」はスーパーサイエンスハイスクールの取り組みの主対象となる生徒の集団を示す。

(詳細は別紙「平成20年度高等学校理科教員実態調査」【集計結果(抜粋)】を参照。)

<添付資料>

別紙:「平成20年度高等学校理科教員実態調査」【集計結果(抜粋)】

<お問い合わせ先>

独立行政法人 科学技術振興機構 理科教育支援センター
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
担当:進藤 明彦(シンドウ アキヒコ)、長谷川 奈治(ハセガワ タイジ)
Tel:03-5214-8425 Fax:03-5214-8497 E-mail:

国立教育政策研究所 教育課程研究センター 基礎研究部
〒100-8951 東京都千代田区霞が関3-2-2
担当:小倉 康(オグラ ヤスシ)
Tel:03-6733-6862 Fax:03-6733-6975 E-mail: