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平成21年3月25日

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)

東京大学 大学院理学系研究科
Tel:03-5841-8856(理学系広報室)

アルカリ土類金属塩により触媒される新反応

−豊富資源の有効活用−

 JST基礎研究事業の一環として、東京大学 大学院理学系研究科の小林 修 教授らは、アルカリ土類金属塩を触媒として用いる選択的炭素−炭素結合生成反応を開発しました。
 有機化学において、炭素−炭素結合生成反応は最も基本的で重要な反応です。炭素−炭素結合生成反応には、これまで一般的に地球上に少量しか存在しない、「有害で」「稀少で」「高価な」金属を含む触媒が用いられてきました。このような金属触媒を用いる反応は、商業化する際の大きなネックとなるため、より「低毒性で」「豊富に存在する」「安価な」金属触媒の探索が望まれています。
 アルカリ土類金属はその目的に合致する元素であり、具体的には、狭義にはカルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、広義にはさらにベリリウム、マグネシウムが該当します。しかし、これまで報告されている有機化学反応を見ても、アルカリ土類金属を触媒として用いる炭素−炭素結合生成反応は非常にまれであることが分かります。
 本プロジェクトでは、積極的にアルカリ土類金属を触媒として用いる検討を続けていましたが、今回アルカリ土類金属塩が、本プロジェクトが新たに開発した「スルホニルイミデート」という求核剤注1)を極めて効率的に活性化することを明らかにしました。これにより、アルカリ土類金属塩を触媒とした炭素−炭素結合生成反応を可能にしました。
 また、スルホニルイミデートを用いる有機反応においては、反応生成物として2種類の異なる化合物が得られますが、本反応に用いる有機溶媒の種類を変えるだけで、これら2種類の化合物のうち、望みの化合物を選択的に作り分ける方法を開発しました。この成果により、豊富資源を有効に活用する実用性の高い有機合成という新たな領域が開かれ、今後、これまで開発されてきた稀少金属を用いる有機反応が大きく塗り替えられると考えられます。
 本研究成果は、ドイツ科学誌「Angewandte Chemie International Edition(応用化学誌 国際版)」のオンライン速報版で近日中に公開されます。

 本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。
  戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究
研究プロジェクト「小林高機能性反応場プロジェクト」
研究総括小林 修(東京大学 大学院理学系研究科 教授)
研究期間平成15年11月〜平成21年3月
 JSTはこのプロジェクトで、化学反応が起こる"場"をナノスケールで精密にデザインすることにより、反応場自体に高度な機能を付与し(高機能性反応場の構築)、これを活用した高効率かつ環境調和型の新プロセスの開発を目指しています。

<研究の背景と経緯>

 有機合成反応において、炭素−炭素結合生成反応は最も基本的かつ重要であると言えます。多くの場合、この反応は触媒により加速され、その触媒の多くは金属元素を含有しています。金属の種類により触媒活性は大きく異なり、中にはとても有害で高価な金属ではあるが、非常に特異な触媒活性を有するために頻繁に用いられるような触媒も存在します。しかし、やはりそのような反応が低毒性で安価な金属触媒に代替することが可能になれば、コストなどの実用面において、さらには環境調和という観点からも大きな進歩と言えます。
 反応そのものの効率化は、触媒の効率化に劣らず重要な課題です。目的の反応を達成するために大量の不要物が生じる反応は、コストの面からも環境調和型観点からも望ましいとはいえません。しかし一般に、有機反応を進行させるためには、用いる原料をあらかじめ活性化しておく必要があり、その時に用いられる活性化剤は不要物として捨てられる運命にあります。したがって、用いる原料が全て目的生成物内に組み込まれる、原子効率注2)100%の反応を目指し、多くの研究者が研究を続けています。近年、私たちはスルホニルイミデートを基質とするMannich型反応注3)が原子効率100%で進行することを見いだし報告しました。しかし、この反応においては2種類の生成物のうち一方のみしか選択的に得られず、もう一方の生成物の方が望みの物質である場合には、別の経路により合成しなければならないという欠点が解決されていませんでした。
 今回、普遍金属として知られるアルカリ土類金属を触媒として、スルホニルイミデートを用いるMannich型反応が進行し、用いる溶媒の種類を変化させることのみで両方の生成物をそれぞれ選択的に得る方法を開発しました。

<研究の内容>

(1) 有効な触媒種の探索
 はじめにジメチルホルムアミドを溶媒として種々のアルカリ土類金属塩を反応に用い、ベンズアルデヒド由来のイミンとスルホニルイミデートとの反応をモデル反応として選択し検討を行ったところ、マグネシウムの塩を0.1当量用いることで高い収率と選択性を実現できることが分かりました(図1)。さらに検討を続け、溶媒をテトラヒドロフランに変えて触媒をストロンチウム塩にしたところ、シン選択的に反応が進行することを見いだしました(図2)。

(2) 基質一般性の検討
 最適の反応条件において、さまざまなイミンを用いて反応を行い本反応系の基質一般性の検討を行いました(図3)。条件Aと条件Bの反応によりそれぞれアンチ体、シン体の生成化合物を選択的に得ることができました。この検討において性質の異なるイミンを種々用いましたが、例えば芳香族、脂肪族、酸素や硫黄を含む芳香族など、いずれの場合においても反応は進行することが分かりました。

(3) エナンチオ選択的反応への展開
 この反応をさらに有用な反応にするため、エナンチオマー注4)の一方のみを選択的に得る試みを行いました。その結果、ストロンチウム塩に不斉配位子を加えて触媒的不斉合成を試みたところ、中程度ながらエナンチオ選択性の発現が見られました(図4)。

<今後の展開>

 本研究では、アルカリ土類金属を触媒として用いるスルホニルイミデートの炭素−炭素結合生成反応に成功しました。本反応は以下の3つの点において優れているといえます。1つ目は比較的豊富に存在する金属であるアルカリ土類金属塩を触媒として用いていること、2つ目はこれまで用いられることのなかったスルホニルイミデートを出発原料として用いて原子効率が100%の反応を達成したこと、3つ目は生成物を作り分ける手法を開発したことです。この反応を用いると、ターゲットとする化合物を、コスト、環境への負荷の観点から効率的に合成することが可能になると期待できます。

<参考図>

図1

図1 アンチ選択的Mannich型反応


図2

図2 シン選択的Mannich型反応


図3

図3 作り分けが可能なMannich型反応


図4

図4 一方のエナンチオマーを選択的に得るMannich型反応

<用語解説>

注1)求核剤
 通常有機反応は電気的にプラスを帯びている化合物とマイナスを帯びている化合物が反応するが、そのうちマイナスを帯びている化合物を求核剤という。

注2)原子効率
 有機反応の効率を示す1つの指標となる値。原料に含まれる全原子のうち、生成物に含まれる原子の割合を原子効率という。この値が高いほど、その反応は効率が高いと言える。

注3)Mannich型反応
 炭素−窒素二重結合を有する化合物に対する反応を一般にMannich型反応と言う。含窒素化合物を合成する有用な有機反応の1つ。

注4)エナンチオマー
 鏡像体とも言う。ちょうど鏡に映したように対称であるが重ね合わせることのできない2つの化合物をお互いにエナンチオマーであるという。エナンチオマーの分子はその性質がほとんど同一であるため、作り分けること、分離することが一般に困難である。

<論文名>

"Alkali Earth Metal-Catalyzed Addition Reactions of Sulfonylimidates with Imines"
(アルカリ土類金属によるスルホニルイミデートのイミンへの触媒的付加反応)

<お問い合わせ先>

小林 修(コバヤシ シュウ)
科学技術振興機構 ERATO小林高機能性反応場プロジェクト 研究総括
(東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻有機合成化学研究室 教授)
〒113-0033 文京区本郷7-3-1
Tel:03-5841-4790 Fax:03-5684-0634
E-mail:

小林 正(コバヤシ タダシ)
科学技術振興機構 戦略的創造事業部 研究プロジェクト推進部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5番地 三番町ビル
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068
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