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平成21年3月10日

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)

東京大学 大学院理学系研究科
Tel:03-5841-8856(理学系広報室)

アンモニア水を用いた一級アミン合成の新手法を開発

−水溶性小分子利用を指向した新技術−

 JST基礎研究事業の一環として、東京大学 大学院理学系研究科の小林 修 教授らは、アンモニア水を窒素源とする一級アミン注1)合成反応の新手法を開発しました。またこの中で、世界で初めてとなるアンモニア水を用いる触媒的不斉合成反応注2)の開発にも成功しました。
 アンモニアは非常に安価で、窒素化合物として最も小さい分子であり、窒素源として精密有機合成に利用できれば非常に魅力的です。しかし、アンモニアの反応性の低さや過剰反応、選択性制御の困難さが障害となり、高収率、高選択性をもって進行する反応はこれまでにほとんど報告されていませんでした。
 本プロジェクトは、水中有機合成反応の研究の一環として、水溶性小分子を積極的に精密有機合成に利用するべく研究を行っており、今回、パラジウム触媒を用いることでアンモニア水を用いたアリル位アミノ化反応注3)が進行することを発見しました。本反応は長年の間、不可能であると多くの研究者らによって考えられてきましたが、アンモニアガスではなくアンモニア水を用い、反応条件を緻密に検討することにより、高い収率で一級アリルアミンを得ることに成功しました。
 本研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で近日中に公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究
研究プロジェクト 「小林高機能性反応場」
研究総括 小林 修(東京大学 大学院理学系研究科 教授)
研究期間 平成15年11月〜平成21年3月
 JSTはこのプロジェクトで、化学反応が起こる“場”をナノスケールで精密にデザインすることにより、反応場自体に高度な機能を付与し(高機能性反応場の構築)、これを活用した高効率かつ環境調和型の新プロセスの開発を目指しています。

<研究の背景と経緯>

 アンモニアは最も小さい窒素化合物で、工業的に大量生産されているため非常に安価であり、そのためアンモニアを窒素源として用いる有機合成反応の開発が現在世界中で活発化しています。しかし、アンモニアを窒素源として用いる合成反応には大きく2つの困難があります。1つ目の大きな問題は、アンモニアから一級アミンを生成できたとしても、その一級アミンが、原料であるアンモニアよりも反応性が高いために、さらなる過剰反応を引き起こすことです。2つ目は、アンモニアがさまざまな金属に対して強固に配位する性質を持つため、金属錯体を触媒とする反応を開発するには、アンモニアが存在する条件下においても不活性化されない金属錯体を見つけださねばならないということです。さらに、アンモニアガスではなくアンモニア水を用いる場合には、塩基性水に対する触媒の安定性も考慮しなければなりません。
 金属触媒によるアリル位アミノ化反応は、さまざまなアリルアミン化合物を得る手法として、過去30年あまりにわたって良く研究され、すでに確立された反応ですが、窒素源としてアンモニアをこの反応に用いることは、上述の理由により長年の間、不可能であると多くの研究者らによって考えられてきました。ところが今回、パラジウム錯体を触媒に用い、アンモニア源としてアンモニア水を用いて反応を行うと、アリル位アミノ化反応が定説に反して進行することが分かりました。

<研究の内容>

(1)モデル基質を用いたアリル位置換反応の検討
 初期検討として、テトラヒドロフランを溶媒とし、モデル基質として 1,3-ジフェニルアリルアセテートを用い、アンモニアガスをアンモニア源とするアリル位置換反応の検討を行いました。この場合反応は進行せず未反応の原料が回収されました。しかし、アンモニアガスではなくアンモニア水を用いて同様の反応を行ったところ、原料は完全に消失し、目的とする一級アミンが低収率ながら生成していることが分かりました。そして収率が低い原因は、一度生成した一級アミンがさらに反応して、望まない二級アミンに変化しているためであることが明らかになりました(図1)。
 この過剰反応を抑制すれば、目的とする一級アミンの収率を高めることができます。その方法を検討した結果、テトラヒドロフランではなくジオキサンを溶媒に用い、ジオキサンとアンモニア水の体積比を1/2にして反応させると最も収率が高くなることを突き止めました。また体積比を一定にしたまま全体の濃度を薄めていくと、さらに目的とする一級アミンの収率を高めることができました(図2)。

(2)アンモニア水を用いるアリル位アミノ化反応における基質一般性の検討
 モデル基質である1,3-ジフェニルアリルアセテートで検討した最適の反応条件において、さまざまなアリル基質で反応を行い、本反応系の基質一般性の検討を行いました(図3)。その結果、さまざまなアリルアミンを高い収率で得ることができました。

(3)エナンチオ選択的反応への展開
 さらなる反応範囲の拡大を目指し、パラジウム触媒と不斉配位子であるバイナップを組み合わせて、触媒的不斉合成が可能かどうか調べました。その結果、高い収率、エナンチオ選択性注4)で光学活性アリルアミンが得られることが分かりました。これはアンモニア水を用いた触媒的不斉合成反応としては世界初の例です(図4)。

<今後の展開>

 本研究では、アンモニア水を用いるアリル位アミノ化反応が従来の定説を覆し進行することを見いだしました。また、不斉反応へも拡張が可能であることも実証しました。このことはパラジウム触媒が、アンモニア水を用いる別の異なるさまざまな合成反応にも応用できる可能性を示すものです。この知見は水溶性小分子を用いる精密有機合成を大きく発展させる指針となるものであり、今後ますます発展し、化成品や医薬品の合成へ応用されていくものと強く期待されます。

<参考図>

図1

図1 モデル基質による検討

 アンモニア水を用いると反応が進行することを示しています。しかし望まない二級アミンが主生成物であるため、望みの一級アミンの収率が低いことが分かりました。

図2

図2 反応条件の検討

 溶媒をジオキサンに変え、基質濃度を薄めると望みの一級アミンの収率が向上する様子を示しています。

図3

図3 アンモニア水によるアリル位置換反応

 さまざまな基質を用いて、アリル位アミノ化反応が高い収率で進行することを示しています。

図4

図4 アンモニア水を用いた世界初の触媒的不斉合成

 パラジウム触媒とバイナップを組み合わせることによりアンモニアが立体選択的に組み込まれることを示しています。

<用語解説>

注1)一級アミン
 一般式 R-NH2 で示される化合物のこと。R-NH2 の H を1つ他の原子に置き換えたものは二級アミンと呼ぶ。

注2)触媒的不斉合成
 少ない量の不斉触媒を用いて生成物の一方の鏡像体を多く得る合成手法。不斉とは、鏡に映した像が元の像と重なり合わない性質(右手と左手の関係)。

注3)アリル位アミノ化反応
 炭素炭素二重結合の隣の炭素(アリル位)に窒素原子を導入する反応のこと。

注4)エナンチオ選択性
 立体選択性の1つ。エナンチオマー(鏡像体)同士における選択性。

<論文名>

" Palladium-Catalyzed Allylic Amination Using Aqueous Ammonia for the Synthesis of Primary Amines"
(一級アミン合成のための、パラジウム触媒によるアンモニア水を用いたアリル位アミノ化反応)
doi: 10.1021/ja900328x

<お問い合わせ先>

小林 修(コバヤシ シュウ)
科学技術振興機構 ERATO小林高機能性反応場プロジェクト 研究総括
(東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻有機合成化学研究室 教授)
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel:03-5841-4790 Fax:03-5684-0634
E-mail:

小林 正(コバヤシ タダシ)
科学技術振興機構 戦略的創造事業部 研究プロジェクト推進部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5番地三番町ビル
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068
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