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参考

<実験の概要>

1 フォトニック結晶による大規模結合光ナノ共振器を実現し、従来の結合共振器の性能を凌駕
2 結晶中の原子に類似した明瞭な結合状態を確認
3 従来のスローライト導波路の特性を上回るスローライト伝播を観測

 今回開発した結合共振器構造(図1)は、シリコン基板上に微細な空孔を420ナノメートル(ナノは10億分の1)の周期で三角格子状に配列したフォトニック結晶中に作製されています。穴のない直線状のスペース付近に、他と比べ数ナノメートル外側に空孔をシフトさせた領域(図で色づけした部分)が2.9ミクロン間隔で配置されていますが、この各領域が非常に強い閉じ込め効果を持つ光共振器として働きます。各共振器における光の閉じ込め体積は、シリコン中の光の波長とほぼ同程度(0.1立方2ミクロン)しかなく、全体としてこの光ナノ共振器が大規模に結合した構造が形成されています。従来技術と比べると、共振器間隔は6分の1以下、面積は100分の1程度に縮小できています。
 第一に、結合共振器の光透過率を評価する実験を行い、連結した共振器数が200個の試料においても、光透過率として最大100%近い値が観測され、従来技術よりも透過率が約二桁向上した極めて低損失な伝播特性が確認できました(図2左)。結合共振器では各共振器が結合することによって初めて光が透過できるので、この実験結果から200個全ての共振器が結合していることがわかります。また結合共振器の光閉じ込め時間は約1ナノ秒、共振器の閉じ込めの強さを表すQ値は100万程度で、結合共振器としてはこれまでの約10倍の最大の光閉じ込め性能が実現されています。
 第二に、この結合共振器中に形成される光波状態の分散を測定したところ、図2(右)のように明確な余弦関数型の関係が観測されました。これは、固体中で強く束縛された原子の結合構造がもつ特性と同一の原理による効果で、理論により予測された結合共振器状態が実現している証拠となります。このような特性が波長サイズの結合共振器で確認されたのは初めてのことです。
 最後に、この結合共振器がスローライト媒質として機能し、実際に光信号パルスの伝播速度を遅くできることを確認する実験を行いました。実験は光パルスの伝播時間を同じ長さの直線導波路と比較する形で行われ、結合共振器を通過させることによって図3(左)に示すように125ピコ秒(ピコは1兆分の1)の遅延が観測されました。単一の共振器では原理的に通過後の光パルス幅よりも長い遅延を得ることはできませんが、ここでは光パルス幅の6倍程度の遅延が得られており、結合共振器としての効果が顕著に現われています。このときの光パルスの伝播速度は空気中の光速のほぼ100分の1に減速されています。また図3(右)の試料においては最大170分の1の減速を確認することができています。この値は、従来のスローライト導波路で観測されたパルス伝播速度の最低値の約4分の1であり、誘電体導波路としてこれまでで最も遅い光パルスの伝播速度が実現しています。

Q値:共振器の閉じ込めの強さを表す指標。中心周波数を共振幅で割った量、または閉じ込め時間と中心周波数を掛けた量で求めることができる。