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2008年9月24日

独立行政法人 理化学研究所
独立行政法人 科学技術振興機構(JST)

内壁が疎水性(さらさら)で、大きさを変えたナノ細孔物質をデザイン

−サイズや極性の違うガス分子の分離が可能に−

本研究成果のポイント

○ 0.3ナノメートルと0.8ナノメートルの細孔によってガスを吸着・分離
○ ナノ孔物質の構造解析とガス分子吸着の動きの観察に成功
○ 二酸化炭素とメタン、水とメタノールなど、似た分子の高精度な吸着・分離が可能に

 独立行政法人 理化学研究所(野依 良治 理事長)と独立行政法人 科学技術振興機構(JST、北澤 宏一 理事長)の研究グループは、国立大学法人 京都大学、イタリアミラノ大学と協力し、手軽に手に入る硝酸アルミニウムなどを原料にして、ナノ注1)サイズの細孔を持つ「アルミニウム多孔性金属錯体Al(OH)(NDC)」という新物質(ナノ孔物質)の合成に成功しました。さらに、地球温暖化で問題となっている二酸化炭素、窒素、キセノンなどのさまざまなガス分子の貯蔵・分離能のメカニズムの解析にも成功しました。
 理研 放射光科学総合研究センター 空間秩序研究チームの北川 進 チームリーダー(JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「北川統合細孔プロジェクト」研究総括、京都大学 物質−細胞統合システム拠点 副拠点長兼任)、堀毛 悟史 博士(京都大学 大学院工学研究科、現米国UCバークレー 博士研究員)、松田 亮太郎 グループリーダー(JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「北川統合細孔プロジェクト」)らの研究グループが、ナノ孔物質の合成を行い、理研 放射光科学総合研究センター 量子秩序研究グループの高田 昌樹 グループディレクターを中心とするグループが、大型放射光施設SPring-8注2)の高輝度放射光を用いて材料の結晶構造を明らかにし、ミラノ大学のアンジェリーナ・コモッティ(Angiolina Comotti)博士らのグループが、固体核磁気共鳴(NMR)測定注3)によりガス分離のメカニズムを分子レベルで解析に成功しました。
 これらの結果、今回作製したナノ孔物質は、温度に依存せず構造が安定で、かつ疎水性を持つという利点を有しており、0.3ナノメートルと0.8ナノメートルの細孔によってガス分子の分離に適していることがわかりました。また、固体NMR測定によりナノ孔物質内でガス分子がゆっくりと動いている様子を明らかにしました。
 今回の結果は、文部科学省科学研究費補助金の特定領域研究「配位空間の化学」、JST戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「北川統合細孔プロジェクト」、理研量子秩序連携研究によるものであり、米国化学会雑誌『Journal of the American Chemical Society』に近日掲載されます。

1.背景

 私たちの身の回りにある窒素や二酸化炭素などの分子は、サイズが小さく、通常ガス状態であるため、それぞれの分子を大きさごとに選択して取り出すことは困難です。これらガス分子を選択的に分離し、貯蔵する技術は、工業利用のみならず、日常生活でもガスボンベなどに使われる非常に重要な技術であり、より高い選択的分子吸着特性を有する材料が求められています。最近、新たな機能性吸着材料として、多孔性金属錯体注4)と呼ばれるナノメートルサイズの孔を持つ物質群が開発されました。一部の多孔性金属錯体では、すでに広く活用されている活性炭注5)ゼオライト注5)を大きく上回る貯蔵・分離能を示すものが見つかっていますが、多くの場合、物質の構造が複雑で、吸着の詳細なメカニズムは明らかではありませんでした。このメカニズムを明らかにすることで、効率的な機能性吸着材料を設計することが可能になると考えられています。

2.研究手法

 今回、研究グループは、高いガス分子の分離能を有する多孔性金属錯体を新たに開発、合成し、最先端の粉末X線回析測定注6)と固体NMR測定を併用して、分子の吸着および分離のメカニズムを明らかにしました。
 まず、京都大学のグループが、アルミニウムを用いてナノ孔物質の合成を行いました。硝酸アルミニウムとナフタレンジカルボン酸を水中180℃で1日加熱することにより、Al(OH)(NDC)(Al=アルミニウム、OH=水酸化物イオン、NDC=ナフタレンジカルボン酸)の組成を持つアルミニウム多孔性金属錯体の化合物を、均一な白色粉末結晶として得ました(図1)。ナフタレン化合物は疎水的な特性を持つため、このナノ孔物質は選択的に水をはじく特徴を持つことが期待できます。
 次に、貯蔵・分離能を分子レベルで正確に評価するため、ナノ孔物質の分子構造と、実際のガス分子が内部でどのような運動をしているかを調べました。まず、理研のグループが大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を用いて、材料の結晶構造解析を行いました。SPring-8のビームラインBL02B2において、粉末X線回折測定の手法を用いて結晶を測定し、得られたデータから物質の分子構造を決定しました。続いて、ミラノ大学のアンジェリーナ・コモッティ(Angiolina Comotti)博士らのグループが、このナノ孔物質に吸着したガス分子がどの程度の速度で動いているのか、細孔のどの部分を通過しているのか、といったガス分離のメカニズムを調べるため、高い分解能を持つ固体NMR測定を実施しました。特に、細孔中のガスの挙動を詳細にNMRで測定するため、キセノンガスをヘリウムガスで100倍に希釈し、ナノ孔物質に吸着させながら連続的に直接測定する手法を用いました。

3.研究成果

 今回の研究で3点の成果を得ました。
 その1つめは、硝酸アルミニウムとナフタレンジカルボン酸を180℃の熱水で、1日加熱反応させるだけで、0.3ナノメートルと0.8ナノメートルというサイズの細孔を持つナノ孔物質の合成に成功したという点です。このナノ孔物質は、1ナノメートル以下の大きさである一般的なガス分子の貯蔵・分離に適した、0.3ナノメートルと0.8ナノメートルというサイズの細孔が均一かつ無数に開き、高温(300℃以上)でも安定な特長を持っています。特に、この材料がアルミニウムであるため、安全で、かつ安価であるという工業的な利点があります。
 2つめは、高輝度放射光を用いた粉末X線回折測定によって材料の結晶構造の決定に成功した点です。結晶構造解析の結果、この材料は2種類の異なったサイズの細孔(それぞれ0.8ナノメートルと0.3ナノメートルの直径の1次元細孔)を持つこと、また温度によらず構造が一定であることがわかりました。さらに、ナフタレン部位が細孔を取り囲むため、このナノ孔物質は、疎水的な特徴を持つこともわかりました(図2)。
 3つめは、高分解能な固体NMR測定を用いることで、ナノ孔物質に取り込まれたキセノンガス分子の運動を直接観察することに成功した点です。具体的には、大きさ0.44ナノメートルのキセノンガス分子が、0.8ナノメートルの直径を持つナノ孔物質の中を進む様子を、直接、詳細に観察しました。その結果、大きさ0.44ナノメートルのキセノンガス分子は0.8ナノメートルのサイズの細孔内だけに取り込まれ、強く捕捉されながら、長軸に沿って約100ヘルツというゆっくりとした速度で細孔内外を並行に運動していました(図3)。
 このように、ナノ孔物質は、ガス分子1つがぎりぎり通ることができる程度の細孔を持っており、分子サイズの似ている分子の分離や吸着によく適していることがわかりました。
 さらに、分子サイズが非常に似ている窒素(大きさ0.36ナノメートル)と二酸化炭素(大きさ0.33ナノメートル)でも、サイズの違いに加えて、細孔の壁との静電相互作用の影響もあって、わずかにサイズの小さな二酸化炭素だけを選択的に吸着する特性があることもわかりました(図4)。アセトン(大きさ0.66ナノメートル)やベンゼン(大きさ0.73ナノメートル)などの有機溶媒に対しても、ガス分子の大きさに応じた敏感な選択的吸着特性を示しました。また、細孔内部はナフタレン環によって強い疎水性空間であるため、サイズが小さく、容易に吸着されると思われる水を含めた親水性の分子(大きさ0.28ナノメートル)は、逆に吸着されにくいという化学特性も併せ持つことを明らかにしました。
 これらの分離・吸着機能は、すべてSPring-8によるX線結晶構造解析と固体NMR測定の結果から、分子レベルのメカニズムで説明できました。これら解析手法の併用によって、今後、さまざまな構造を持つナノ孔物質のガス分子の貯蔵・分離能を正確に評価することができると考えています。また同時に、精密なガス分離能を持つナノ孔物質の細孔サイズや、疎水性、親水性といった化学的特性をデザインするための指針を得ることができたといえます。

4.今後の期待

 今回得た設計指針に基づき、今後さらに研究を進めることで、二酸化炭素とメタン、水とメタノールなどのよく似た分子を、これまで以上の高精度で分離できるようになります。本研究で得られた二酸化炭素を選択的に吸着できる物質は、地球温暖化の原因といわれる二酸化炭素を削減し、地球環境の保全に大きな貢献をするものと期待できます。さらに、今回の物質で実現できた疎水性を高める技術を応用して、水蒸気中に含まれる微量の有機有害物質の除去の実現が見込まれます。

<報道担当・問い合わせ先>

<問い合わせ先>

(研究に関すること)
独立行政法人 理化学研究所 放射光科学総合研究センター 量子秩序研究グループ グループディレクター
高田 昌樹(たかた まさき)
Tel:0791-58-2942 Fax:0791-58-2717

独立行政法人 科学技術振興機構 ERATO北川統合細孔プロジェクト 研究統括
独立行政法人 理化学研究所 放射光科学総合研究センター 空間秩序研究チームリーダー
北川 進(きたがわ すすむ)
Tel:075-322-4711 Fax:075-325-3572

独立行政法人 科学技術振興機構 ERATO北川統合細孔プロジェクト グループリーダー
松田 亮太郎(まつだ りょうたろう)
Tel:075-322-4711 Fax:075-325-3572

(JSTの事業に関すること)
独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造事業本部 研究プロジェクト推進部
小林 正(こばやし ただし)
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068

(SPring-8に関すること)
財団法人 高輝度光科学研究センター 広報室
Tel:0791-58-2785 Fax:0791-58-2786
E-mail:

<報道担当>

独立行政法人 理化学研究所 広報室 報道担当
Tel:048-467-9272 Fax:048-462-4715
独立行政法人 科学技術振興機構 広報・ポータル部 広報課
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

<補足説明>

注1)ナノ
 10億分の1をナノといい、ナノメートルは10億分の1ナノメートル。

注2)大型放射光施設SPring-8
 理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の大型放射光施設。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、細く強力な電磁波のこと。

注3)固体核磁気共鳴(NMR)測定
 磁場中におかれた物質内部の原子核が、固有のエネルギーの電磁波を吸収・放出する現象を利用して物質の微細な分子構造を解析する測定手法。

注4)多孔性金属錯体
 有機化合物が、金属イオンに配位結合した化合物を金属錯体という。金属イオンと多様な有機化合物との組み合わせは無数にあり、さまざまな構造をつくることが可能。この内、多くの微細な孔を持った物質を多孔性金属錯体といい、空孔にさまざまな分子を吸着させることで機能的材料となる。

注5)活性炭/ゼオライト
 活性炭は吸着性の強い炭素からできている物質。吸着材として防毒マスク、ガスまたは液体の精製、溶液の脱色、触媒などに使われている。ゼオライトはイオン交換性を持つ合成ケイ酸塩で、分子ふるい、触媒などに使われている。

注6)粉末X線回折測定
 X線を用いた結晶構造解析手法の1つ。粉末(単結晶の集合)の試料に角度を変えながらX線を照射すると、入射角度によって異なる回折強度が得られることから、試料内部の原子配列を調べることができる。

<参考図>

図1

図1 Al(OH)(NDC)の組成を持つアルミニウム多孔性金属錯体の化合物

均一な白色粉末である。

図2

図2 ナノ孔物質Al(OH)(1,4-NDC)の結晶構造

 緑色がアルミニウム原子、灰色が炭素原子、赤色が酸素原子を示している。Large channelという部分が直径0.8ナノメートル、small channelという部分が直径0.3ナノメートルの細孔を持っており、いずれもナフタレン環(6角形が2つつながる環)に囲まれているため高い疎水性を示す。

図3

図3 (上)固体NMR測定の結果から得られたキセノンガス分子吸着のモデル図
  (下)チャンネルの形状の違いによるキセノンガス分子吸着のモデル図

 大きな細孔にはキセノンガスが入り、長軸方向への並行運動が可能だが、小さい細孔には吸着できない。

図4

図4 二酸化炭素と窒素の吸着の違い

 縦軸はナノ孔物質が吸うガス体積、横軸はそれぞれのガス測定温度(二酸化炭素:−78℃、窒素:−196℃)における飽和蒸気圧に対する相対圧をあらわす。二酸化炭素の方が窒素よりも吸着量が多いことがわかる。