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平成20年9月24日

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酸化物と有機物の接合界面による紫外光検出器の開発に成功

(高性能紫外線センサーの実用化へ道)

 JST基礎研究事業の一環として、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構および金属材料研究所の川崎 雅司 教授らは、酸化物と有機物で構成される界面の機能を利用した高性能紫外線センサーの開発に成功しました。
 バンドギャップ注1)が大きく可視光領域(400〜800nm)で透明な性質を持つ酸化物半導体である酸化亜鉛(ZnO)を利用することによって、紫外線のみに応答する光センサーを実現することができます。さまざまなタイプの光センサーの中で、金属/半導体ショットキー接合注2)を利用した光起電力型のセンサーは、簡便なデバイス作製工程、高い検出感度、高い応答速度、低消費電力などの観点から応用上非常に重要です。酸化物半導体を用いる場合に、欠陥の少ない良質なショットキー接合界面を実現することが困難であったため、従来の半導体を利用した可視光に応答する接合に比べて開発が大きく遅れていました。
 本研究グループは今回、ある種の導電性高分子(PEDOT:PSS)注3)が代表的な透明酸化物半導体であるZnOに対して、極めて良質なショットキー接合界面を形成することを利用して、PEDOT:PSS / ZnOショットキー接合型の紫外線センサーを作製し、波長250nmから400nmの紫外線領域でほぼ100%の光電変換率を持つという、高性能な特性を実現することに成功しました。
 今回作製した高性能紫外線センサーは、通常の半導体デバイス作製で用いられる真空プロセスを使わず、簡便な短い工程で作製することが可能です。また、構成する材料が安価で無害であるため、早期の実用化が期待できます。これまではほぼ独立に発展していた有機エレクトロニクスと酸化物エレクトロニクスの融合を具現化したデバイスであり、学術的な意義も大きいといえます。
 本研究成果はローム 株式会社との共同研究によって得られ、米国学術誌「Applied Physics Letters」のオンライン版で近日中に公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 「ナノ界面技術の基盤構築」(研究総括:新海 征治 崇城大学 教授)
研究課題名 酸化物・有機分子の界面科学とデバイス学理の構築
研究代表者 川崎 雅司(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授)
研究期間 平成18〜23年度
 JSTはこの領域で、異種材料・異種物質状態間の接合界面を扱う研究分野の融合によってナノ界面機能に関する横断的な知識を獲得するとともに、これを基盤として界面ナノ構造を自在に制御し、飛躍的な高機能化を可能にする革新的なナノ界面技術を創出すること、およびその有用性をデバイス動作により実証することを目的としています。上記研究課題では、酸化物と有機物で構成される異種接合界面に着目し、これらの界面における電子・磁気・光機能を雛形デバイスとして実証することを目指しています。

<研究の背景と経緯>

 酸化物は一般に化学的に安定で、構成元素の多くは埋蔵量の豊富な鉱石から産出されるため、セラミックス材料として幅広い工業用途に用いられてきました。近年、酸化物薄膜の作製技術の向上に伴って、高品質な単結晶薄膜の作製および精密な不純物ドーピングが可能になり、酸化物は新しい電子材料として注目されています。
 可視光に応答せず、紫外線(波長400nm以下)のみに反応する光センサーはエレクトロニクス、環境、医療などの諸分野で大きな需要があります。シリコンやヒ化ガリウム(GaAs)などの、見た目が「黒い」、すなわち可視光領域で不透明な半導体を用いると、光を選択するフィルターを用いない限り可視光に不感な紫外線センサーを実現することが原理的に不可能です。見た目が「透明」な酸化物半導体を用いるとフィルターなどが不要になり、小型で安価な紫外線センサーが実現できます。「透明な」半導体の中でも、ZnOは埋蔵量が豊富であり、化粧品にも利用されるほど人体への親和性が良いため非常に重要な材料であり、さまざまな研究機関でZnOを用いた紫外線センサーの開発が行われていました。
 高性能なショットキー接合型の紫外線センサーを実現するためには、第一に欠陥の少ないショットキー接合界面を実現する必要があります。ZnOを用いたこれまでのショットキー接合型の紫外線センサーは、金属電極として白金(Pt)などの貴金属を用いたものがほとんどで、いずれの場合もZnOとの間に高品質な接合界面を形成する技術が確立されておらず、十分な性能が実現できていませんでした。

<研究の内容>

 本研究グループでは、ある種の導電性高分子とZnOの接合が、非常に高品質なショットキー接合となることを2007年に発見しました(Appl. Phys. Lett., 91, 142113 (2007))。この導電性高分子はpoly(3,4-ethylenedioxythiophene): poly(styrenesulfonate) (以下PEDOT:PSSと省略)と呼ばれ、有機ELディスプレーなどに使われています。PEDOT:PSSは導電性が極めて高い高分子で、波長250nmから800nmの範囲の光でほぼ100%の透過率を示すため、有機エレクトロニクスのさまざまな部材として利用されています。PEDOT:PSSをZnO単結晶基板上にスピンコート法によって塗布しただけの単純な構造であるにもかかわらず(図1参照)、理想的なショットキー特性が再現性良く得られます。
 ショットキー接合を光センサーに応用する場合、できるだけ微弱な光にも応答できるようにするため、光が当たっていない状態での逆方向(マイナス)電圧印加時の電流(一般に「暗電流」という)を抑えることが非常に重要となります。接合界面に欠陥があると暗電流が大きくなるため、高性能な光センサーを実現するためには、まず欠陥の少ない高品質なショットキー接合界面を実現する必要があります。ショットキー接合の品質は、デバイスに順方向(プラス)電圧を印加した際の電流の挙動を理論式と比較することによって評価することができますが、今回作製したデバイスは理論式と極めて近い挙動を示し、両層の間には高品質なショットキー接合界面が形成されていることが証明できました。また、±2Vの電圧を加えた際の電流の比(整流比)は1010程度であり、暗電流を十分に抑えた高品質の接合といえます。この値はこれまでに報告されているZnOを用いたショットキー接合の中では最高の値です(図2参照)。
 ショットキー接合に光を照射すると、V (電圧)= 0 V(ボルト)の状態で電流が流れ(短絡電流)、I (電流)= 0 A(アンペア)の状態で電圧が発生します(開放端電圧)(図3参照)。入射光強度に対する短絡電流の大きさ(受光感度)を入射光の波長に対して評価することにより、ショットキー接合型光センサーの波長選択性と光電変換効率を評価できます。図4に示す通り、作製したデバイスは波長250nmから400nmの紫外線領域では大きな感度を示しているのに対して、波長400nmから800nmの可視光領域における感度は検出限界以下となっており、紫外線のみに反応する光センサーが実現できました。この波長選択性はZnOおよびPEDOT:PSSの透過スペクトルを反映しています。光に応答するためには半導体であるZnOが光を吸収する必要がありますが、入射光の波長が400nmよりも長い可視光領域においては、ZnOは光を吸収しません(赤の波)。一方で、波長が250nmよりも短いとすべての光がPEDOT:PSSに吸収されるため、ZnOに届きません(青の波)。波長250nmから400nmの光のみがZnOに吸収され、電子と正孔のペアを生成して電流に寄与します(緑の波)。この領域における受光感度から算出した量子効率(光子・電子変換効率)はほぼ100%であり、理論上の限界値を実現しています。これには、高品質なショットキー接合界面の存在に加えて、PEDOT:PSSの高い透過率が大きく寄与しているものと考えられます。ZnOとPEDOT:PSSは安価な材料であり、デバイス構造および作製工程が非常に簡便であることから、本研究成果は安価で簡便に作製可能な紫外線センサーとして、実用化に結びつくものと期待されます。

<参考図>

図1
図1

図1 デバイスの写真(上図)と概略図(中図)
およびPEDOT:PSSの分子構造(下図)


図2

図2 典型的なデバイスの暗状態での電流−電圧特性


図3

図3 デバイスへの紫外線照射効果


図4

図4

左図)デバイスの分光感度特性(上図)とPEDOT:PSS薄膜、ZnO基板の透過率(下図)
右図)波長選択性のイメージ図
(赤:波長>400nm、青:波長<250nm、緑:250nm<波長<400nm)

図5
図5 ショットキー接合のエネルギー状態図

<用語解説>

注1)バンドギャップ
 半導体の性質を示す最も重要なエネルギーの指標です。バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光は半導体に吸収され、マイナスの性質を持つ電子とプラスの性質を持つ正孔が半導体の中に形成されます。通常のエレクトロニクスに用いるシリコンなどの半導体ではバンドギャップが可視光のエネルギーより小さいため、光が吸収され目には黒く見えます。一方で、バンドギャップの大きい半導体はワイドギャップ半導体と呼ばれ、目には無色透明に見えます。これはバンドギャップが可視光のエネルギーより大きく、可視光が透過するためです。この原理で光を検知するのが光センサーであり、電気エネルギーを生産するのが太陽電池です。逆に、電池をつないで半導体から光を出すデバイスは、発光ダイオードやレーザーダイオードと呼ばれています。発光デバイスでは、バンドギャップに相当するエネルギーの光を出すことが可能になり、ZnOは紫外線発光ダイオードを実現する材料としても注目されています。

注2)金属/半導体ショットキー接合
 電子が伝導を担うn型半導体に仕事関数の大きな金属を接触させると、両層の電子のエネルギー(フェルミ準位)が揃い、接合界面にショットキー障壁と呼ばれるエネルギー障壁が形成されます(図5参照)。このようなショットキー接合は一方向にしか電流を流さないという性質(整流性)を示し、エレクトロニクスの重要な構成部品として幅広く利用されています。ショットキー接合は光センサーとして利用可能であることに加えて、半導体の基礎物性を評価するツールとしても有用であり、良質なショットキー接合を実現することは半導体デバイスの構造設計および高性能・高機能化を目指す上で非常に重要な課題の一つです。ショットキー接合は、スイッチング素子として産業上重要な電界効果トランジスタにも利用されています。

注3)導電性高分子
 プラスチックなど普通の有機物は電気を流さない絶縁体ですが、ある種の有機物が半導体としての性質を備えていることが明らかになりました。有機半導体を用いたエレクトロニクスは無機半導体では実現が困難な新しい分野を形成しつつあり、ユビキタス社会の実現に向けて大きな注目を集めています。本研究で用いている導電性高分子は、1970年代に日本の白川英樹博士のグループが発見した電気が流れるプラスチックの総称であり、現在では有機材料を主体とする有機エレクトロニクスのみならず、エレクトロニクス産業のさまざまな局面で身近に使用されるまでに至っています。この功績により、白川博士ら、導電性高分子の発見から原理の解明に携わった3名の化学者に、2000年のノーベル化学賞が贈られました。

<論文名および著者名>

"Transparent polymer Schottky contact for a high performance visible-blind ultraviolet photodiode based on ZnO"
(透明なポリマーショットキー接触を利用した高性能な可視光不感ZnO紫外フォトダイオード)
M. Nakano, T. Makino, A. Tsukazaki, K. Ueno, A. Ohtomo, T. Fukumura, H. Yuji, S. Akasaka, K. Tamura, K. Nakahara, T. Tanabe, A. Kamisawa, and M. Kawasaki
doi: 10.1063/1.2989125

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

川崎 雅司(カワサキ マサシ)、牧野 哲征(マキノ タカユキ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
Tel: 022-215-2085(川崎)、022-217-5600(牧野) Fax: 022-215-2086
E-mail:(川崎)、(牧野)

<JSTの事業に関すること>

金子 博之(カネコ ヒロユキ)
科学技術振興機構 戦略的創造事業本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5番地 三番町ビル
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<報道担当>

科学技術振興機構 広報・ポータル部 広報課
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