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平成20年9月9日

仙台市青葉区星陵町4-1
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キラーT細胞のはたらきを調節する受容体分子を発見

 移植免疫、癌免疫、感染免疫などにおいて中心的な役割を担うキラーT細胞注1)のはたらきの強さを、免疫細胞上にある受容体の一種であるPIR(ピア)注2)-Bというタンパク質が調節していることを、東北大学 加齢医学研究所の遠藤 章太 助教、高井 俊行 教授(遺伝子導入研究分野)の研究グループが突き止めた。
 PIR-Bが欠損したマウスでは皮膚移植片の生着率が低下して拒絶され易くなる反面、癌免疫が増強され、癌細胞の増殖が抑えられた。この受容体のはたらきを自在にコントロールする方法が見つかれば、皮膚移植、臓器移植、骨髄移植、癌、感染症の患者にとって朗報となろう。
 この研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の一環として行われ、この成果は米国科学アカデミー紀要2008年9月号での論文掲載に先立ち、9月第2週に電子版で公開される。

本研究テーマが含まれるJSTの事業・研究領域・研究課題は以下の通りである。
 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 「免疫難病・感染症等の先進医療技術」
(研究総括:岸本 忠三 大阪大学 教授)
研究課題名 「IgL受容体の理解に基づく免疫難病の克服」
研究代表者 高井 俊行(東北大学 加齢医学研究所 教授)
研究期間 平成13〜18年
なお、本研究テーマに対する研究支援は上記の他、以下の各所から得られた。
1.21世紀COEプログラム「シグナル伝達病」
(拠点リーダー:菅村 和夫 東北大学 教授)平成15〜19年度
2.グローバルCOEプログラム「Network Medicine」
(拠点リーダー:岡 芳知 東北大学 教授)平成20年度〜
3.文部科学省 科学研究費補助金:基盤研究(A)(代表者:高井 俊行)

<研究の成果>

 移植医療の成功のためには、シクロスポリンやFK506などの強力な免疫抑制剤を使用することでレシピエント注3)の免疫活性を抑え、拒絶反応をコントロールすることが重要である。また急性骨髄性白血病の有力な治療法である骨髄移植では、レシピエントの免疫作用を弱めてから行われるため、ドナー側の細胞がレシピエント組織を攻撃する移植片対宿主病(GVHD)に代表される不適合反応をうまく抑えることが成否のポイントとなっている。さらに癌患者では、癌に対する免疫応答がごく弱いものであるために異常自己細胞である癌細胞を効果的に除去できないことが、治療において大きな問題となっている。これら移植された組織、臓器、レシピエント側の組織、癌細胞などを攻撃して破壊してしまう重要な免疫系細胞がキラーTリンパ球(キラーT細胞)である。キラーT細胞は、その抗原受容体と共刺激分子注4)であるCD8注5)を利用して標的細胞上の抗原ペプチド-MHCクラスI分子注6)複合体を認識し、攻撃する(図1)。
 高井教授らはキラーT細胞の活性を制御する免疫細胞上の受容体を調べ、 T細胞抗原受容体やCD8と同じくMHCクラスI分子を認識しているPIR-BがキラーT細胞の制御を行うことを突き止めた。PIR-Bを欠損したマウスのキラーT細胞は正常マウスに比べて活性化しており、皮膚移植片の拒絶力が強まり、また癌細胞の定着を効果的に抑制した(図2)。この分子機構はMHCクラスI分子を巡る分子どうしの競合関係であると思われ、実際にCD8がMHCクラスI分子に結合するのをPIR-Bが立体障害により阻害していることを示唆するデータが得られたため(図3)、PIR-BがキラーT細胞の攻撃力の強さを調節していると結論付けた(図4)。

<今後期待できる成果>

 PIR-BのMHCクラスI分子結合活性のある部分を薬剤として投与するなど、PIR-BによるキラーT細胞抑制効果をうまく利用すれば、皮膚移植、臓器移植、骨髄移植の生着率を上昇させることができる。また逆にPIR-BのMHCクラスI分子結合活性を阻害する薬剤が開発できれば、癌免疫を増強させることができ、またウィルス感染などへの抵抗力の向上が図れるなど、広範囲に応用が期待される。また、慢性リウマチ関節炎など、キラーT細胞の活性が亢進している自己免疫疾患の治療にも応用可能と考えられる。

<参考図>

図1

図1 キラーT細胞のはたらき


図2

図2 PIR-Bが欠損した樹状細胞はキラーT細胞を強く活性化する


図3
図3

図3 PIR-BとCD8はMHCクラスI分子に対して競合関係にある


図4

図4 今回の発見のまとめ:PIR-BによるキラーT細胞の活性化阻害

<用語解説>

注1)T細胞
 胸腺に由来する免疫細胞で、樹状細胞(注7参照)から提示を受けた異物をT細胞抗原受容体と共刺激分子を使って認識し、抗原に対抗するための免疫反応を起こさせ、あるいは制御する細胞である。ヘルパーT細胞、キラーT細胞、レギュラトリーT細胞が知られている。ヘルパーT細胞はMHCクラスII分子上の抗原ペプチドを認識して細菌や寄生虫感染に対抗するのに対し、キラーT細胞はMHCクラスI分子上の抗原ペプチドを認識し、ウィルスや細胞内寄生性細菌に感染した細胞の排除、移植片の攻撃、癌細胞の攻撃を行う。

注2)PIR(ピア、ペア型イムノグロブリン様受容体)
 PIRは、免疫細胞上にある受容体の一種で、PIRには免疫を強めると考えられるPIR-Aと、逆に弱めるPIR-Bがあり、いずれも主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子を認識する。PIR-Aのはたらきはよく分かっていないが、PIR-Bは多様な局面で抑制的な役割を担うことが分かってきている。

注3)レシピエント
 他の人から提供された臓器・組織・血液を移植、輸血してもらう人のこと。

注4)共刺激分子
 T細胞の抗原認識の際に、主刺激となるT細胞抗原受容体からの刺激に対して、協調して作用するシグナルを伝える分子。共刺激がないとT細胞は活性化できずに不応答になることが知られており、免疫応答には不可欠であることが知られる。代表的なT細胞の共刺激分子には、CD4、CD8、CD28などがある。

注5)CD8
 キラーT細胞がもつ共刺激分子で、MHCクラスI分子を認識することでキラーT細胞の抗原受容体が抗原ペプチドとMHCクラスI分子複合体を認識することを助ける。CD8が無いマウスはキラーT細胞そのものが発達しない。ヘルパーT細胞がMHCクラスII分子を認識する際にはCD4という共刺激分子を使う。

注6)MHCクラスI分子(major histocompatibility complex:主要組織適合遺伝子複合体)
 MHC分子は、細胞内で抗原が分解されてできたペプチドを分子の先端に結合して細胞表面に発現する。
 T細胞は、抗原を直接認識することができず、細胞表面に発現する抗原ペプチドとMHC分子を複合体として認識する。白血球型、HLA型と呼ばれるものとほぼ同義。

注7)樹状細胞
 異物である抗原を細胞内に取り込んで加工し、MHCクラスII分子やMHCクラスI分子上に抗原ペプチドを載せ、ヘルパーT細胞とキラーT細胞に提示することで免疫応答を開始させる、組織にくまなく分布する重要な細胞。この細胞表面上に制御性MHCクラスI受容体であるPIR-Bが発現する。

<論文名および著者名>

“Regulation of cytotoxic T lymphocyte triggering by PIR-B on dendritic cells”
(樹状細胞上のPIR-Bによる細胞傷害性Tリンパ球の活性化の調節)
Shota Endo, Yuzuru Sakamoto, Eiji Kobayashi, Akira Nakamura, and Toshiyuki Takai
doi: 10.1073/pnas.0804571105

<お問い合わせ先>

高井 俊行(タカイ トシユキ)
東北大学 加齢医学研究所 遺伝子導入研究分野 教授
〒980-8575 仙台市青葉区星陵町4−1
Tel: 022-717-8501
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