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平成20年3月14日

財団法人 高輝度光科学研究センター
独立行政法人 科学技術振興機構
独立行政法人 理化学研究所
松下電器産業株式会社
国立大学法人 筑波大学

SPring-8で光ディスク材料の超高速構造変化過程を
世界で初めてリアルタイム観測

−相変化光記録材料の更なる高速化を目指した材料設計に指針−

 (財)高輝度光科学研究センター(理事長 吉良爽)、(独)科学技術振興機構(JST、理事長 北澤宏一)、(独)理化学研究所(理事長 野依良治)、松下電器産業(株)(社長 大坪文雄)、筑波大学(学長 岩崎洋一)は、書き換え可能な※1変化光ディスクの代表的な母体材料であるGe2Sb2Te5(ゲルマニウム・アンチモン・テルリウム三元化合物)およびAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7(銀・インジウム・アンチモン・テルリウム四元化合物)について、ナノ秒レベルで起こる結晶化過程を、大型放射光施設(SPring-8)※2高フラックスビームラインのX線回折で観測することに世界で初めて成功しました。今回、光学反射率も同時に測定することで、1)レーザーによる光記録とナノレベルでの物質の構造変化が同じ時間スケールで起こっており、2)2つの材料で、「相変化直後」の結晶成長プロセスに違いがあった、という2つの新しい発見がありました。今回発見した結晶成長プロセスの特徴は、より速い、次世代の相変化材料を探索・設計する上で重要な知見を与えると期待されています。
 本研究の成果は、JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」(研究総括:田中通義 東北大学 名誉教授)の研究テーマ「反応現象のX線ピンポイント構造計測」(研究代表者:高田昌樹)において、高田昌樹((独)理化学研究所 主任研究員)、木村 滋((財)高輝度光科学研究センター 副主席研究員)、田中義人((独)理化学研究所 先任研究員)、山田 昇(松下電器産業(株) グループマネージャー)、守友 浩(筑波大学 教授)を中心とする産官学連携研究グループの共同研究によって得たもので、応用物理学会が発行する雑誌「Applied Physics Express」のオンライン版に3月14日に公開されます。

<研究の背景>

 書き換え可能な相変化光ディスクDVD-RAMは大容量のデータ記録媒体としてデジタル全盛の現代には欠かせないメモリ媒体であり、家電に、OA機器にと広く普及しています。新規な相変化材料としてGe2Sb2Te5 が1987年に松下電器の山田らにより提案されて以降、相変化型光記録の研究開発は急速に進み、2000年には4.7GB容量のDVD-RAMへと結実しました。
 DVD-RAMやDVD-RW等の相変化光ディスクではこのGe-Sb-Te系や、Ag-In-Sb-Te系材料で構成されるメモリ薄膜層にサブミクロンサイズの微小スポットに絞り込んだレーザー照射を行うことで、メモリ薄膜内部の 原子結合状態(物質相)を局所的かつ可逆的に変化させ、その際に生じる状態間の反射率差を利用して情報の記録再生、書き換えを行います。
 記録を行う場合は、原子が規則正しく配列した結晶相にあるメモリ薄膜層に強いレーザー光を瞬時照射しますが、その際、照射部の薄膜材料は原子配列が大きく乱れる液体状態を瞬間的に経由して、そこから超急冷されることになり、液体の乱れた状態が室温で凍結されアモルファス※3相 となるという現象を利用しています。記録状態を再生する際は、アモルファス相が結晶化しない程度のパワーでレーザー照射し、照射部からの反射光強度の変化を検出します。また、消去する場合は、アモルファス相が融解しない程度のパワーでレーザー照射し、原子を再配列させることでメモリ薄膜層を結晶化させます。 この結晶→液体→アモルファス→結晶の相変化のサイクルを繰り返すことにより、書換可能なDVDは動作します。Ge2Sb2Te5や Ag3.5In3.8Sb75.0Te17.7では相変化速度(相変化に必要なレーザー照射時間)が20ナノ秒(1億分の2秒)と短く、しかもアモルファス相は室温では数十年以上も安定であるという優れたメモリ特性を有することからこれら書換可能な相変化光ディスクの基本材料として使われてきました。ところが、その速度とくに消去速度を支配する因子は原子レベルではまだ結論が得られておらず、ましてや原子の並びが変化する瞬間を直接観測された例はありませんでした。
 そこで、この高速相変化を原子レベルで観測するため、大型放射光施設(SPring-8)を研究実施場所として、JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「反応現象のX線ピンポイント構造計測」(研究代表者:高田昌樹)」の研究チームが発足し、高田昌樹((独)理化学研究所 主任研究員)、木村 滋((財)高輝度光科学研究センター 副主席研究員)、田中義人((独)理化学研究所 先任研究員)、山田 昇(松下電器産業(株) グループマネージャー)、守友 浩(筑波大学 教授)を中心とする産官学連携研究グループがこの問題に取り組みました。

<研究内容と成果>

 研究対象として、DVD相変化記録媒体の代表的な材料であるGe2Sb2Te5とAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7を選び、ナノ秒時間スケールで起こる消去プロセスに対応するアモルファス-結晶相変化過程のリアルタイム観察を試みました。そのために、放射光X線回折により、最速40ピコ秒の物質構造の時間変化を観測できるX線ピンポイント構造計測システムを製作しました。これは、SPring-8の放射光のパルス性※4を利用して、DVDのモデル試料にパルスレーザーによる光記録とX線回折測定を、ピコ秒精度で同期して行うことができる装置です。また、DVD記録媒体は、レーザー照射による加熱により相変化を起こす材料でできています。このような試料を対象に繰り返し精密測定ができるよう、測定試料位置をワンショットごとに回転移動させて、常に新しい試料が測定位置に現れるようにできる試料台を製作し、相変化中の物質をナノ秒から数十ピコ秒の時間分解能でX線構造計測できるシステムを組み上げました。今回は、光学反射率も同時に測定することにより、1)レーザーによる光記録とナノレベルでの物質の構造変化が同じ時間スケールで起こっており、2)2つの材料で、「相変化直後」の結晶成長のプロセスに違いがあった、という2つの新しい発見がありました。以下は、その具体的な観測結果と得られた知見です。

 1)試料台に成膜したDVD媒体用の母体材料を設置して、パルスレーザーを照射したときの結晶化過程を、時間分解X線回折法と光の反射率測定法を同時に適用して調べました。その結果、ブラッグ反射※5強度および反射率の時間変化を時間分解能ナノ秒で測定することに成功しました(図1)。Ge2Sb2Te5とAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7 について得られたブラッグ反射強度変化を図2に示します。パルスレーザーが照射されてから約百ナノ秒後に急激に結晶化が進み、300ナノ秒後にはほぼ結晶化が完了している様子がわかりました。さらに、この変化に同期するように反射率変化(つまり、データ消去)が起こっていることを世界で初めて示すことができました。

 2)SPring-8のパルスX線放射光をストロボ光の様に使って、結晶化が起こっている途中の時間で撮ったX線回折パターンのスナップショットの時間変化を図3に示します。時間とともに、ブラック反射の強度が大きくなっていく様子を観測することができました。その際、Ge2Sb2Te5とAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7で、そのブラッグ反射のピーク幅の変化に違いが観測されました。その幅は結晶の粒径に関係しています。これらのデータを基に考えられたGe2Sb2Te5およびAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7の結晶化モデルの模式図を図4に示します。Ge2Sb2Te5では、レーザー照射後、初期段階で比較的大きな結晶核ができ、その数が徐々に増えていき、全体が結晶粒で占められるのに対し、Ag3.5In3.8Sb75.0Te17.7の場合は、初期段階で細かな結晶粒が多数でき、それがつながって、全体が埋め尽くされた後も、さらに結晶粒どうしが融合して結晶粒のサイズが増大していく過程が存在するというものです。代表的な2つの高速相変化材料の間でも、その材料の違いによる、「相変化直後」の結晶成長プロセスの違いが浮き彫りになりました。
 このように、今回開発された手法により、相変化光ディスク材料における記録、消去の最中の原子レベルでの構造を調べることができ、その途中の過程について議論できるようになりました。

<今後の期待>

 本研究では、アモルファス相から結晶相への構造変化の最中を初めてX線回折でとらえることができました。書換型DVDの消去過程の瞬間を見たことになります。これまで、その原理が応用されていたにもかかわらず、その瞬間どのようにして結晶化が起こっているかは観測されていませんでした。今回の結果で、代表的な相変化材料であるGe2Sb2Te5とAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7の間で、その結晶化過程が異なることが明らかになりました。これらの時間分解の構造情報、つまり、材料の相変化にともなう結晶成長プロセスの特徴は、より速い、次世代の相変化材料を探索・設計する上で有用な知見を与えると期待されます。

研究発表

  本研究成果は、日本の応用物理学会誌Applied Physics Expressのオンライン版に2008年3月14日に掲載されます。
"Time-Resolved Investigation of Nanosecond Crystal Growth in Rapid-Phase-Change Materials: Correlation with the Recording Speed of Digital Versatile Disc Media" (日本語訳:時間分解測定法を用いた高速相変化材料のナノ秒結晶成長過程の研究:DVD媒体の記録速度との関連)
Yoshimitsu FUKUYAMA, Nobuhiro YASUDA, Jungeun KIM, Haruno MURAYAMA, Yoshihito TANAKA, Shigeru KIMURA, Kenichi KATO, Shinji KOHARA, Yutaka MORITOMO, Toshiyuki MATSUNAGA, Rie KOJIMA, Noboru YAMADA, Hitoshi TANAKA, Takashi OHSHIMA and Masaki TAKATA
doi: 10.1143/APEX.1.045001

研究領域等

 この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下のとおりです。
JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術
(研究総括:田中通義 東北大学 名誉教授)
研究課題名 反応現象のX線ピンポイント構造計測
研究代表者 高田昌樹((独)理化学研究所 主任研究員)
研究実施場所 (財)高輝度光科学研究センター SPring-8
研究実施期間 平成16年度〜平成21年度

<用語解説>

※1 相
物質の状態のこと。例えば、液体は液相、気体は気相とも言う。

※2 大型放射光施設(SPring-8)
兵庫県にある大型共同利用施設。ほぼ光速で進む電子が、その進行方向を磁石などによって変えられると接線方向に電磁波が発生する。これが「放射光(シンクロ トロン放射)」と呼ばれるものであり、電子のエネルギーが高く進む方向の変化が大きいほど、X線などの短い波長の光を含むようになる。特に第三世代の大型放射光施設と呼ばれるものには、世界にSPring-8、APS(アメリカ)、ESRF(フランス)の3つがある。SPring-8(電子の加速エネルギー:80億電子ボルト)の場合、遠赤外から可視光線、真空紫外、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができ、国内外の研究者の共同利用施設として、物質科学・地球科学・生命科学・環境科学・産業利用などの幅広い分野で利用されている。

※3 アモルファス
結晶のように三次元的に規則正しい原子配列を持たない固体物質のことを言う。非晶質とも呼ばれる。

※4 放射光のパルス性
放射光は光速近くまで加速された電子から発生する。電子を加速するために高周波の電場が用いられており、そのために電子は固まりとなって加速されている。この電子の固まりから発生する光は、その固まりの長さを反映したパルス長をもつことになる。SPring-8の場合では、パルス幅は約40ピコ秒(1ピコ秒=1兆分の1秒)となっている。

※5 ブラッグ反射
結晶のように周期構造をもつ物質に対して光(X線)を入射すると、周期の間隔、光の入射角、波長の3つのパラメータが特定の条件(ブラッグ条件)を満たした場合のみ、強い反射が観測される。この強い反射のピークをブラッグピークと呼び、さまざまな材料の結晶構造を解析するX線回折において、測定指標として使われている。

<問い合わせ先>

木村 滋(キムラ シゲル)
財団法人 高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門・副主席研究員
TEL:0791-58-0919 FAX:0791-58-0830
E-mail:

田中義人(タナカ ヨシヒト)
独立行政法人 理化学研究所 放射光科学総合研究センター・
石川X線干渉光学研究室・先任研究員
TEL:0791-58-2806 FAX:0791-58-2807
E-mail:

(報道担当)

財団法人 高輝度光科学研究センター 広報室
TEL:0791-58-2785、 FAX:0791-58-2786

独立行政法人 科学技術振興機構 広報・ポータル部 広報課
TEL:03-5214-8404、 FAX:03-5214-8432

独立行政法人 理化学研究所 広報室 報道担当
TEL:048-467-9272、 FAX:048-462-4715

松下電器産業株式会社 コーポレートR&D戦略室
戦略企画第一グループ 広報・IRチーム
TEL:06-6906-4819、 FAX:06-6906-4839

国立大学法人 筑波大学 総務・企画部 広報課 報道係
TEL:029-853-2040、 FAX:029-853-2014

<参考図>

図1

図1.(a)は高速フォトダイオードと信号処理回路を使った測定法と、
スナップショットを撮る手法を表す図。(b)は、回転試料台のイメージ。


図2

図2.ブラックピーク強度と可視光反射率の時間変化


図3

図3.X線スナップショット撮影による回折ピーク幅の時間変化測定


図4

図4.Ge2Sb2Te5材料およびAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7材料の相変化モデル