JST基礎研究事業の一環として、細野 秀雄 東京工業大学フロンティア研究センター教授らは、新系統の高温超伝導物質(鉄を主成分とするオキシプニクタイド化合物LaOFeAs)を発見しました。
2.経緯・意義
鉄が関与しているにもかかわらず、V属のリンやヒ素という元素と一緒になることで磁性体にならず、かつ常圧でこれほど高い温度で超伝導特性を示した例はこれまでにない。これは極めて重要な発見であると認識している。フッ素をドープすることで、LaO層からFeと共有結合でつながったAs層にキャリアが移動しているのではないかと考えている。いずれにしても、今までの高温超伝導物質とは全く違う新物質であると感じている。
4.今後の対応
JSTは、東京工業大学等と連携して、特別研究チームの発足やシンポジウムの開催など本研究の一層の推進を図るための措置をとっていきます。
戦略的創造研究推進事業 発展研究(ERATO-SORST) | ||
研究プロジェクト | : | 「透明酸化物のナノ構造を活用した機能開拓と応用展開」 |
研究総括 | : | 細野秀雄(東京工業大学 フロンティア研究センター 教授) |
研究期間 | : | 平成16年10月~平成21年9月 |
<研究の背景>
超伝導現象の発見は、1911年にオランダの物理学者カメリン・オンネスが水銀を極低温まで冷やしてゆくと、電気抵抗がゼロになるという現象を見つけたことに遡ります。この発見以降、様々な金属材料が極低温で超伝導現象を示すことが明らかにされ、より高い転移温度を示す材料の探索が進められてきました。金属系材料としては、現時点では、2001年に秋光らによって発見されたMgB2(2ホウ化マグネシウム)の示す39Kが最高の転移温度を示しています。これに対して、1986年にベドノルツとミューラーが発見した銅系酸化物材料は、発見当初から約30Kという高い転移温度を示したことやセラミックスという常温では通常絶縁体であると考えられていた材料が超伝導を示したことが驚きと衝撃を与え、超伝導フィーバとも呼べる現象を引き起こしました。その結果、ごく短期間に物質探索が進み、YBCO系やBSCCO系という転移温度が液体窒素温度(77K)を越える物質が連続して発見され、室温超伝導も夢ではないのではないかと思われた時期もありました。しかし、1993年の銅水銀系酸化物での転移温度(130K 常圧力、160K 高圧)を最後に、記録の更新は止まっています。(図1)
超伝導状態では、電気抵抗がなくなるため、強力な電磁石や低損失送電、低損失電子デバイスとしての実現が可能であるなど、その応用は計り知れない広がりを持つものと期待されていますが、依然として動作温度領域が低温にとどまっていることがその実用化を制限しており、より高い転移温度の材料開発が期待されています。
<研究内容と成果>
細野教授らは、JST基礎研究事業の一環として、ERATO-SORSTプロジェクトの中で、LnOMPn(Ln = ランタン系元素、M = 遷移金属、Pn = P, As, Sb)系化合物の系統的な機能探索を行ってきました。これらの層状化合物は、絶縁層であるLnOと半導体層であるMPnが交互に積層した結晶構造であり、各元素の選択により、絶縁体、半導体、磁性半導体、強磁性体となるなど、大変興味深い性質を示すことが明らかとなってきました。
図2(a)および(b)に、今回高温超伝導特性を示すことが明らかとなったLaOFeAs系物質の結晶構造の概略図ならびに酸素イオンの一部をフッ素置換した物質(F-doped)とそうでないもの(undoped)のX線回折パターンを示します。図2(b)より、フッ素置換をしても基本構造に変化のないことが分かります。図3には、異なるフッ素イオン置換量のサンプルの電気抵抗(a)と磁化率(b)の温度変化を示します。フッ素置換していないもの(undoped)では、温度を下げていっても抵抗や磁化率に急激な変化はなく、超伝導転移を起こさないことが分かります。これに対して、x = 0.05と僅かながらもフッ素置換したものは、30K付近で抵抗が急速に小さくなる現象が観測されました。また、磁化率は負の値となり反磁性を示すことも明らかとなりました。ゼロ抵抗ならびに大きな反磁性が観測されたことから、この温度領域で超伝導転移が起こったことが確認されました。
図4には、フッ素置換量による超伝導転移温度の変化をまとめています。フッ素置換されていないものでは、超伝導転移が見られないものの、置換量が3%を越えると超伝導状態が発現し、11%近辺で、最大の転移温度である32K(Tonset)の転移温度が得られました。
<今後の展開>
今回の発見に先立ち、細野教授のグループは、同系統のLaOFePが超伝導物質であることを一年半前に既に発見・報告していますが、その転移温度は5K程度と極めて低いものでした。今回、その組成の一部を変更することのみで、転移温度が一挙に向上しました。本系統の化合物は、Ln[O1-xFx]M Pn(Ln = ランタン系列元素、M = 遷移金属、Pn = P, As, Sb)と一般式で表すことができますが、元素の入れ替え、フッ素の置換割合の調整など今後探索すべき条件は数多く、今回の成果は超伝導物質としての可能性のほんの一部を示したに過ぎません。今後、材料探索が進むにつれ、より高い転移温度が得られることが期待されます。
<参考図>

図1 超伝導転移温度の年度推移

図2 LaOFeAsの結晶構造(a)とX線回折パターン(b)

図3 電気抵抗(a)と磁化率(b)の温度依存性

図4 超伝導転移温度のフッ素イオン濃度依存性
<用語解説>
注1) K(ケルビン)
温度を表す単位。通常使われる温度の単位である℃(摂氏)とは次の関係式で結び付けられる。
C = K - 273.15
水の融点は、273.15K、液体窒素の沸点は、77K(-196℃)に当たる。
<論文名>
"Iron-based layered superconductor La[O1-xFx]FeAs(x = 0.06-0.12) with Tc = 26 K"
(Tc = 26 Kを持つ鉄ベース層状超伝導物質La[O1-xFx]FeAs(x = 0.06-0.12))
doi: 10.1021/ja800073m
<お問い合わせ先>
細野 秀雄(ほその ひでお)
東京工業大学 フロンティア研究センター 教授
〒226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259
Tel:045-924-5127 Fax:045-924-5127
E-mail:
小林 正(こばやし ただし)
科学技術振興機構 戦略的創造事業本部 研究プロジェクト推進部
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