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平成19年12月26日

東北大学
Tel:022-217-5922
(原子分子材料科学高等研究機構・事務部門総務担当)

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報・ポータル部広報課)

新型高輝度紫外光源「キセノンプラズマ放電管」の開発に成功

(新機能物質内部の電子状態解明に飛躍的な進展をもたらすものと期待)

 東北大学(学長 井上 明久)と科学技術振興機構(JST 理事長 北澤 宏一)は、新たに新機能物質の物質内部(バルク)の電子状態の解明に有用な「キセノンプラズマ放電管」(図1)と呼ばれる新型高輝度紫外光源を開発することに成功しました。
 このキセノンプラズマ放電管を、物質の電子状態を測定する光電子分光装置に組み込むことによって(図2)、以下のようなメリットが得られます。

1、従来の放電管に比べ低エネルギー(8-10エレクトロンボルト(eV))の高輝度紫外線を発光できるため、これまでの光電子分光の大きな問題点であった表面敏感性(注)を克服でき、物質本来(バルク)の電子状態を高精度で測定できます。
2、キセノンプラズマ発光のエネルギー幅が従来用いられていたヘリウムなどに比べて非常に狭いため、これまでの分解能を大きく超えた1ミリeV以下の超高分解能で電子の状態を観測することが可能になります。
3、コンパクトで廉価であることから、これまで大型放射光施設やレーザー等の大規模かつ高額な装置に頼っていた実験を、実験室で手軽に行えるようになります。
4、開発した新型放電管を用いた超高分解能光電子分光実験により、高温超伝導体やナノカーボンなどの新機能物質の機能発現メカニズムの理解が進み、より高性能で安全な新機能物質の開発と探索が大きく進展するものと期待されます。

(注)従来型の放電管では、表面数原子層(結晶表面から約1nm)までの電子しか観測できなかったのに対して、新型放電管では、5倍以上深いところまで電子を観測することができます。

 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域(研究総括:田中通義 東北大学 名誉教授)における研究課題「バルク敏感スピン分解超高分解能光電子分光装置の開発」(研究代表者:高橋 隆 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 大学院理学研究科 教授)の一環として行われました。研究成果は、平成19年12月6日(米国東部時間)米国科学雑誌「Review of Scientific Instruments」の電子版で公開され、平成20年1月16日頃発行の同誌に掲載されます。

<背景>

 近年、高温超伝導体やナノ物質等の多くの新機能物質が発見され、その機能発現と物質探索の研究が精力的に進められています。それらの物質における特異物性発現のメカニズムは物質固有の電子状態と密接に関連しており、これまで主に光電子分光法を用いてその電子状態が調べられてきました。しかし、光電子分光では物質の電子を結晶外に取り出して観測するために、従来型の光源では物質の表面ごく近傍(数原子層)の電子しか捉えることができず、物質内部(バルク)の状態を解明する上で大きな障害となっていました。また、高温超伝導体などの新機能物質の発現機構の解明のためには、より高分解能の測定が必要であり、これらの問題点を克服する新たな高輝度紫外光源の出現が望まれていました。

<研究の内容>

 本研究グループは今回、これまで実用化が困難と思われてきた重希ガスのキセノンを発光部に用い、これにマイクロ波をベースとした電子サイクロトロン共鳴という手法(図3)を適用することで、従来型の放電管では不可能であった物質のバルクの状態を直接観測できる低エネルギー高輝度紫外線(8-10eV)の安定的発光(1,000時間以上)に世界で初めて成功しました。これにより、新型放電管では発光のエネルギー幅が非常に狭いため、ヘリウム等を用いた従来型の放電管の分解能を大きく超える1ミリeV以下の分解能での光電子分光測定が可能となります。また、高いエネルギー分解能を用いることで、高温超伝導体の超伝導電子を直接観測することができるようになります。
 さらに、この新型光源はコンパクトかつ廉価であることから、これまで大型放射光施設やレーザー等の大規模で高額な装置に頼っていた実験が、実験室で手軽に行えるようになります。

<今後の展望>

 今後、開発したキセノンプラズマ放電管を用いて、高温超伝導体をはじめとする新機能物質の超高分解能光電子分光測定が行われることによって、その機能発現メカニズムの理解が急速に進展するものと期待されます。とりわけ、これまで表面とバルクの電子状態の違いが、その物性発現機構解明の大きな障害となっていた高温超伝導体や巨大磁気抵抗物質などの新機能強相関物質は、今後飛躍的な研究進展が期待されます。
 また、これまで光電子分光測定が困難であったナノ物質やDNA等の生体関連物質についても超高分解能光電子分光測定が可能となることから、より広範な機能物質の物性発現機構解明と新物質開拓に大きく貢献するものと期待されます。

<参考図>

図1 キセノンプラズマ放電管本体部の写真

図1 キセノンプラズマ放電管本体部の写真


図2 キセノンプラズマ放電管を組み込んだ超高分解能光電子分光装置 図2 キセノンプラズマ放電管を組み込んだ超高分解能光電子分光装置 図2 キセノンプラズマ放電管を組み込んだ超高分解能光電子分光装置

図2 キセノンプラズマ放電管を組み込んだ超高分解能光電子分光装置


図3 キセノンプラズマ放電管の原理

図3 キセノンプラズマ放電管の原理

<研究領域等>

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」
(研究総括:田中 通義 東北大学 名誉教授)
研究課題名「バルク敏感スピン分解超高分解能光電子分光装置の開発」
研究代表者高橋 隆(東北大学 大学院理学研究科 教授)
研究期間平成17年10月~平成22年3月

<お問い合わせ先>

高橋 隆(たかはし たかし)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 大学院理学研究科物理学専攻 教授
Tel:022-795-6417
E-mail:

金子 博之(かねこ ひろゆき)
科学技術振興機構 戦略的創造事業本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5番地 三番町ビル
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
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