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平成19年10月30日

独立行政法人 科学技術振興機構(JST)
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独立行政法人 理化学研究所
Tel:048-467-9272(広報室報道担当)

国立大学法人 東京大学医科学研究所
Tel:03-5449-5601(総務課庶務係)

日本人の標準的SNP頻度情報を公開

(病気や薬の副作用と関係する遺伝子の発見につながると期待)

 JST(理事長 北澤宏一)と理化学研究所(理事長 野依良治)、東京大学医科学研究所(所長 清木元治)は、平成19年10月31日(水)から日本人一般集団 934人のゲノム上における50万ヵ所以上のSNP頻度情報を、JSNPデータベース(注1)のウェブサイトを通じて公開します。
 病気や薬の副作用に関係する遺伝子を調べる場合、多くは病気や薬の副作用のある人(患者)とない人(対照者)について、ゲノム全体あるいは目的の遺伝子上にあるSNP(注2)を測定し、その頻度を比べることにより、遺伝子と病気や薬の副作用との関係を検討します。しかし、これまで日本人におけるSNPの標準的な頻度情報がないために、遺伝子と病気や薬の副作用との関係について統一的な結論を得ることは困難でした。
 今回、日本人の標準的なSNP頻度情報が公開されるため、これを種々の病気や薬の副作用を起こした患者のSNPの頻度を比べることにより、病気や薬の副作用と関係する遺伝子が次々と特定されることが期待されます。その成果は副作用が起きるのを避けるための診断をはじめ、個人の特性に合わせた医療(オーダーメイド医療)の実現をもたらすことにつながります(参考図)。また、日本人のSNP頻度は中国人と似ていることがわかっているため、このデータは中国や韓国を含むアジア系民族への応用も可能になると考えられます。

 本研究は、理化学研究所 遺伝子多型研究センターと東京大学 医科学研究所が共同で行ったものです。

 JSNPデータベース URL:http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/index_ja.html

<研究の背景と経緯>

 病気や薬の副作用と遺伝子の関係を調べる場合、一般的に病気や薬の副作用をも持つ集団(患者集団)と持たない集団(対照集団)について、遺伝子上のマーカーであるSNPを測定し、その頻度を比較する手法が行われています。しかし、一般人の集団のDNAサンプルを集めることは難しく、今までの研究では少数例の対照集団、または他の病気にかかっている人を対照とすることが多かったため、再現性のある結果を得ることは困難でした。
 東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センターと理化学研究所 遺伝子多型研究センターはこれまでに、ゲノム全体を網羅するSNPの解析を通じて心筋梗塞や変形性関節症、関節リウマチなどの疾患と関連する遺伝子を特定してきました。今年になり海外からも多数の症例を用いたゲノム全体の網羅的SNP解析を行った成果が、2型糖尿病を中心に続々と報告されるようになりました。こうした状況のなか、病気や薬の副作用と関連する遺伝子を探索する上で、ゲノム全体を網羅した日本人の標準的SNP頻度情報の必要性が高まっています。

<研究の内容>

 東京大学 医科学研究所(中村祐輔教授)は、研究目的や研究方法など、事前に十分な説明をして了解を得る「インフォームド・コンセント」を取得し、同研究所および理化学研究所 横浜研究所の倫理委員会で審査・承認された日本人ボランティアの協力を得て、日本人一般集団 934人のDNAサンプルを収集しました。
 これらのサンプルを理化学研究所 遺伝子多型研究センターにおいてイルミナ社製ビーズアレイ技術により作製されたDNAチップ(HumanHap550K)を用いて解析し、取得した日本人一般集団における全ゲノム上の50万ヵ所を超えるSNPの頻度情報を、JSTが東京大学と共同で管理運営しているJSNPデータベースを通じて国内外の研究者に広く公開することとしました。
 公開されるデータは、全ゲノム上の5%以上の頻度を有するSNPの91%をカバーしています。また、種々の閾値により選別され、最終的に常染色体上の515,286ヵ所のSNPの頻度情報が公開されています。

【追加情報】(11月01日更新)
 解析に用いたDNAチップは、HapMapプロジェクト(*)のデータを基に、ヒトゲノムの一般集団におけるSNPのパターンを代表するSNP(tagSNP)約55万ヵ所を解析対象としています。このtagSNPとそれ以外のSNP(HapMapプロジェクトPhaseⅠとⅡのデータでマイナーアレル頻度5%以上のSNP)との相関を専門のアルゴリズムを使って計算した結果ゲノムカバー率が91%となります。

(*)HapMapプロジェクト
 ヒトゲノム上の多型情報を医学応用していくために不可欠である、疾患感受性、薬剤に対する効果や副作用に関与する遺伝的要因を発見する上で役立つ研究ツールとなるハプロタイプ地図の作成に関する国際的な枠組み。

<今後の展開>

 国内外の研究者は必要とする遺伝子上のSNP頻度情報をデータベースより取得し、研究者自身が解析した患者のSNPデータと比較することにより、容易に遺伝子と病気の関係を推測することが可能となります。しかも、共通の標準的SNP頻度情報を対照集団のデータとして用いることにより、同様の研究を行っている他の研究者との連携が容易に可能となります。このことにより病気や薬の副作用と関係する遺伝子の解明が進み、オーダーメイド医療も実現化に向けて前進すると考えられます。
 また、公開されるSNP頻度情報は日本人一般集団のデータであるため、これを海外の集団におけるSNP頻度情報と比べることにより、アジア諸国との遺伝的類似性や日本人の遺伝的ルーツを探る研究にも応用可能です。

<参考図>

図1 SNP(一塩基多型)とSNP頻度情報の応用について図1 SNP(一塩基多型)とSNP頻度情報の応用について

図1 SNP(一塩基多型)とSNP頻度情報の応用について

<用語解説>

(注1)JSNPデータベース
 日本人の19万7000ヵ所の一塩基多型(SNPs)データにアノテーションデータ(遺伝子情報、位置情報、アミノ酸置換情報等)を付加して、ウェブサイト上で公開しているデータベース。遺伝子単位の検索結果表示には、国内外の12の多型関連情報データベースへのリンク情報も提供している。
 URL:http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/index_ja.html

(注2)SNP
 Single Nucleotide Polymorphism(一塩基多型)の略。ゲノム上の塩基配列の中で人種や個人(例えば健康な人と病気の人)間で異なっている塩基のこと。

<問い合わせ先>

【研究成果について】
中村 祐輔(ナカムラ ユウスケ)
 国立大学法人 東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター
 〒108-8639 東京都港区白金台4丁目6番1号
 Tel:03-5449-5372 Fax:03-5449-5433

【JSNPデータベースについて】
黒田 雅子(クロダ マサコ)
 独立行政法人 科学技術振興機構
 研究基盤情報部 バイオインフォマティクス課
 〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3 サイエンスプラザ
 Tel:03-5214-8491 Fax:03-5214-8470
 E-mail:

【報道担当】
独立行政法人 科学技術振興機構 広報・ポータル部 広報課
 〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3 サイエンスプラザ
 Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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独立行政法人 理化学研究所 広報室報道担当
 〒351-0198 埼玉県和光市広沢2番1号
 Tel:048-467-9272 Fax:048-462-4715
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