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平成19年10月17日

科学技術振興機構(JST)
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京都工芸繊維大学
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光が伝播する3次元の様子の動画像記録・観察に世界で初めて成功

(光通信システムやレーザー加工技術などの超高速・高精度化に向けて前進)

 JST(理事長 北澤宏一)と京都工芸繊維大学(学長 江島義道)は、光が伝播する様子の3次元像の動画記録と観察に成功しました。
 近年、レーザーなどの光を利用する技術は通信や精密材料加工、バイオ・医療などさまざまな分野の高度化に必要不可欠な技術になっています。これらの分野では、光利用技術のさらなる高性能化が目指されており、そのためにレーザーから発せられる光パルスの発光時間が極短化したフェムト秒パルスレーザー注1)の利用が進んでいます。このような最先端のレーザー技術においては、レーザーから発せられた光が伝播する様子の観察・評価技術の確立が求められています。
 光の伝播の3次元の様子を捉えることは、高性能光ファイバーなど光学部品の開発による光通信の大容量高速化、照射する超短パルス光の最適化によるレーザー加工・光造形技術の高精度微細化、バイオ・医療技術におけるレーザーナノ手術の超高精度化など光利用技術革新の土台となります。
 光パルスの伝播を記録・観察するには、3次元画像技術であるホログラフィー注2)と超短パルスレーザー注3)を組み合わせた技術を用いる必要があります。本研究グループはこれまでに、2次元画像の記録・観察には成功しています。今回、光パルスを拡散させる媒質や記録・観察光学系などに一層の工夫をこらし、3次元画像の記録・観察に世界で初めて成功しました。
 この技術は、世界最高速級の既存高速度カメラの約100万倍以上の速度で3次元映像撮影が可能な技術です。
 本成果は、戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「構造機能と計測分析」研究領域(研究総括:寺部 茂)における研究課題「フェムト秒時空間画像計測システムの創成」の一環として、京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 粟辻安浩准教授が、同大学インキュベーションセンターで研究開発を行っている久保田敏弘名誉教授との共同研究により得られたもので、米国光学会速報論文誌「Optics Express」の電子版(URL:http://www.opticsexpress.org/)で2007年10月16日(米国東部時間)に公開されます。

【研究の背景と経緯】

 21世紀は光技術の時代と言われ、情報通信や材料加工、バイオ・医療などさまざまな分野で高度化・高性能化にレーザーが必要不可欠になっています。情報通信、インターネットでは、より高速かつ大容量の情報を扱うための光学素子の研究開発が活発に行われています。光学素子から発生する光パルスや、光学素子の内部を伝播する光パルスを観察することは、これらの素子の特性を理解・評価する際に非常に重要です。また、レーザー加工、光造形、生物細胞のレーザーナノ手術が近年注目を浴びていますが、フェムト秒パルスレーザーという超短時間だけ光を照射できるレーザーを用いれば、材料や生物細胞が熱的に破壊されないために非常に高精度で微細な加工や手術が行えます。これらの分野では現在、フェムト秒パルスレーザー光のエネルギー制御のみ着目されていますが、より高精度に加工・手術を行うためには、照射するパルスの形状や、加工材料内、細胞内を散乱した光の様子を詳細に調べる必要があります。
 光パルス伝播の観察についてこれまでに報告されている研究では、フェムト秒パルスレーザーから繰り返して発せられるパルスのそれぞれ一部を合成して表示するために、正確な光パルスを観察することはできませんでした。さらに、これらの研究は、画像のフレームや画素が存在するために、光パルスの伝播の時間的・空間的に連続な詳細情報を持つ動画は得られませんでした。これらの欠点のために、いまだこれらの技術による時間的・空間的に連続なフェムト秒の光パルス伝播の動画を記録・観察することはできませんでした。
 3次元画像技術であるホログラフィーと超短パルスレーザーを組み合わせた技術を用いれば、これらの欠点を持たずに光パルス伝播の時間的・空間的に連続な記録・観察ができます。この技術を用いて本研究グループはこれまでに、光の反射、屈折、回折、集光といった現象をピコ秒注4)やフェムト秒パルスレーザーを用いて観察していますが、従来の方法では図1−(a)のように光パルスと拡散板との交差部分の像を記録する方法であったために、記録・観察される像はすべて光の伝播の2次元の像でした。
 実際の世界で繰り広げられる現象はすべて3次元の世界で起こっており、これらの光学現象や光パルス伝播を3次元像として観察できれば、空間や光学部品、加工材料、生物体などの中を伝播する超短パルス光の振る舞いや特性について、より忠実で詳しい情報を得ることができると期待されています。

【成果の内容】

 光パルスの伝播の3次元像を観察するためには、図1−(b)のように、伝播している光パルスの全体から拡散光を発生させる拡散体を用いて記録する必要があります。図2に示すような光学系を考案・作製し、フェムト秒光パルスの伝播の3次元像を記録しました。伝播する光パルスを拡散させる拡散体を構成する媒質としてゼラチンで作製したゼリーを用いました。ホログラム注5)で光の伝播を記録するための適度な拡散性を得るために、ゼリーにはゼラチンと水と蔗糖を適切な割合で配合し媒質を製作しました。224フェムト秒の時間幅をもつパルス光を発するフェムト秒パルスレーザーを実験に使用しました。
 参照光パルスとホログラム記録材料との交差する点に、伝播する光のある時点の3次元静止画像が記録されます。したがって、参照光パルスが進んでいくとホログラム記録材料を横切る部分が時々刻々と移動していき、その移動時間に観察対象とする光が進んでいく様子が、ホログラムの異なる場所ごとに記録されます。観察の際は、図2のシステムで記録したホログラムに対して、光を連続的に発するレーザーの光を広げて参照光パルスと同じ方向から照明します。ホログラムから回折された光の中で観察者が肉眼でホログラムのある1点を見つめると、伝播している光のある時点での3次元静止画を観察できます。さらに参照光パルスがホログラムを横切ったのと同じ方向に視線を動かすと、その動きに応じて光が伝播する3次元の様子のスローモーション動画像を観察でき、観察者が移動する速度と同じ速度で伝播する光が再生されます。
 まず、平行光に広げたフェムト秒光パルスの伝播の3次元像の記録・観察を行いました。光パルスの伝播は連続した動画として観察されますが、図3がその動画の中から4シーンを取り出した画像とその一部を拡大した像で、時間間隔は14ピコ秒です(観察者の代わりにビデオカメラを移動させて撮影しましたので、実際に再生される像は光の3次元像ですが、この画像自体は2次元の像になっています)。
 光パルスの伝播の様子をわかりやすくするために、「光」という文字パターンを切り抜いた薄板を通過させた後のフェムト秒光パルスを記録しました。得られた動画では、236ピコ秒で起こっている現象をスローモーションで観察できました。また、平行光にしたフェムト秒光パルスが凸レンズによって1点に集光した後、広がっていく3次元の様子を記録・観察しました。図4が、その動画の中の6シーンを取り出した像です。時間間隔は15ピコ秒で、得られた動画では259ピコ秒で起こっている現象を3次元像のスローモーションで観察できました。いずれも、光が伝播する様子の3次元像の動画像記録と観察に世界で初めて成功したものです。この技術では世界最高速級の既存高速度カメラの約100万倍以上の速度が得られていれます。

【今後の展開】

 この新技術は、超高速光通信システムを構成する素子の評価、レーザーによる微細部品加工や光造形用の光パルスの評価、生物細胞のレーザーナノ手術用の光パルスの評価など、超高速計測・評価の幅広い分野で役立つと期待されます。本研究課題では、記録材料をCCD(電荷結合素子)に置き換えて、コンピューターで再生することにより、3次元画像のデジタル処理を可能とする研究を進める計画です。これに成功すると、光の伝播する3次元の様子のリアルタイム記録と観察、立体表示、通信伝送が可能となったり、伝播する光の定量的な解析が可能となるために、この技術の応用分野の研究開発をさらに大きく前進させることが期待されます。光速は速過ぎて、従来技術では光を撮影・観察することなどできませんでした。今回、「光」という画像情報の描かれた光の塊が空間を飛んでいく様子の3次元像を動画観察できたことにより、誰も見たことのない超高速の世界が見えました。

【参考図】

図1

図1

(a)従来の光伝播の記録方法:拡散板と光との交差点のみが記録されるために、得られる像は光伝播の2次元しか得られなかった。
(b)考案した方法:3次元の拡散体を用いるので、光伝播の3次元が記録できる。

図2 フェムト秒光パルス伝播の3次元像の動画を記録するための実験システムの概要

図2 フェムト秒光パルス伝播の3次元像の動画を記録するための実験システムの概要


図3 広げて平行光にしたフェムト秒光パルス伝播の3次元像の動画像の記録・観察結果

図3 広げて平行光にしたフェムト秒光パルス伝播の3次元像の動画像の記録・観察結果

 連続した動画として観察されますが、その動画の中の4シーンを取り出した像とその一部を拡大した像です。光パルスの伝播の様子をわかりやすくするために、「光」という文字パターンを切り抜いた板を通過させた後のフェムト秒光パルスを記録しました。クシ状のパターンは伝播する様子がわかりやすいように設けました。クシの歯の間隔は1cmです。光パルスは(a)→(b)→(c)→(d)の順に右から左に進んで行きます。
 (e)「光」の部分を拡大した像。各画像の時間間隔は14ピコ秒で、得られた動画では236ピコ秒で起こっている現象をスローモーション再生で観察できました。動画はこの論文のホームページから無料で自由に閲覧できます。
米国光学会速報論文誌「Optics Express」 URL:http://oe.osa.org/abstract.cfm?URI=oe-15-22-14348

図4 広げて平行光にしたフェムト秒光パルスが凸レンズによって1点に集光した後、広がっていく3次元の様子の記録・観察結果

図4 広げて平行光にしたフェムト秒光パルスが凸レンズによって
1点に集光した後、広がっていく3次元の様子の記録・観察結果

 連続した動画として観察されますが、その動画の中の6シーンを取り出した像です。(a)→(c)で光パルスは集光していき、(d)ちょうど集光した瞬間、(e)→(f)で広がっていくのが観察できます。虫眼鏡を覗き込んだ時と同じように「光」という文字が集光した後、上下左右とも反転して進んで行くことも観察できます。時間間隔は15ピコ秒で、得られた動画では259ピコ秒で起こっている現象を3次元像のスローモーションで観察できました。光パルス以外の光路が明るく写っていますが、これは、光路をわかりやすくするために、連続的に光を発するレーザーで同様のシーンをホログラムで撮影し、得られた像を重ねて観察しているからです。動画はこの論文のホームページから無料で自由に閲覧できます。
米国光学会速報論文誌「Optics Express」 URL:http://oe.osa.org/abstract.cfm?URI=oe-15-22-14348

【用語解説】

注1)フェムト秒パルスレーザー:
 フェムト秒パルスレーザーとは10兆分の1秒程度以下の時間だけ光を放つことができるレーザー。1フェムトは1000兆分の1。

注2)ホログラフィー:
 ホログラフィーとは光の干渉・回折を利用して物体のすべての情報を記録・再生する技術のことです。記録には主にレーザー光を使います。

注3)超短パルスレーザー
 ピコ秒パルスレーザーやフェムト秒パルスレーザーのこと。

注4)ピコ秒:
 1ピコ秒は、1兆分の1秒。

注5)ホログラム
 ホログラムとは、ホログラフィーで記録された、物体のすべての情報を記録した媒体のことです。

【掲載論文名】

Moving picture recording and observation of three-dimensional image of femtosecond light pulse propagation
フェムト秒光パルス伝播の3次元像の動画像記録と観察
doi: 10.1364/OE.15.014348

【研究領域等】

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究領域 「構造機能と計測分析」研究領域
(研究総括:寺部 茂 兵庫県立大学 名誉教授)
研究課題名 フェムト秒時空間画像計測システムの創成
研究者 粟辻 安浩
(京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 准教授)
研究実施場所: 京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科
研究実施期間: 平成17年10月〜平成21年3月

【問い合わせ先】

粟辻 安浩(アワツジ ヤスヒロ)
京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科
電子システム工学部門 光情報工学研究分野
〒606-8585京都市左京区松ヶ崎御所海道町
TEL:075-724-7444
FAX:075-724-7400
E-mail:

久保田 敏弘(クボタ トシヒロ)
京都工芸繊維大学 インキュベーションセンター
インキュベーションルーム No.1
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