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参考1

発表事例(ナノ材料科学の最前線1 ナノのシートを積み上げる)

○発表時間・場所:11:10-11:30、B会場
○発表テーマ:「ナノ材料科学の最前線(1) ナノのシートを積み上げる」
○発表者:佐々木 高義(物質・材料研究機構 ナノスケール物質センター センター長)
○発表概要:

1.研究成果の概要

 本研究では層状化合物を層1枚にまでバラバラに剥離するというユニークな手法によって、酸化チタンなどの機能性セラミックスを分子レベルの薄さの2次元結晶、すなわちナノシートとして合成しました。さらにこれらのナノシートが電荷を帯びたコロイドとして溶液中に分散した形で得られるため、その反応性を制御して固体基板の上に1層ずつ、すなわち1ナノメートルの厚み精度で累積する液相製膜プロセスを開発しました。これは結晶格子レベルから物質を人工的に組み立てることにつながるものであり、ウェットプロセスを用いた新しいナノテクノロジーと言うこともできます。これにより様々な特性を持つナノシートを一種のパーツとして用いて積み木細工的に並べる、積み重ねることにより、多彩なナノ構造を持った材料が創製でき、これを通じた機能性開拓が可能となりました。このように本技術は、ナノテクノロジーの花形技術である分子線エピタキシー法などの気相製膜技術(超高真空中で高度なビーム技術を駆使)に匹敵するナノレベルでの構造制御・機能開発を実現するものでありながら、室温での液相プロセスであるため、高価な大型装置などを必要とせず、簡便、安価、省エネルギーという利点も併せ持っています。

2.具体的な応用例

 酸化チタンナノシートを用いて得られるアナターゼ(二酸化チタン)薄膜は優れた光誘起親水化特性(光が当たると薄膜表面の水滴が薄く濡れ拡がる現象)を示す上に(図1)、表面が非常に平滑であることから、窓ガラスをクリーンに保つ効果(セルフクリーニング効果)が高いことを突き止めました。これに加えて本薄膜が非常に硬く耐摩耗性に富んでいるという特徴も有り、新幹線の新型車両(N700系)への適用を目指して実車試験が始まっています。また同じく酸化チタンナノシートを精密に累積した多層薄膜は10ナノメートル前後の極薄領域でも高い誘電機能と絶縁性(低リーク電流特性)を示すことを見いだしました。このレンジの厚さで100以上の誘電率を持つ材料はほとんどなく(図2)、電子機器の小型化、省エネルギーに役立つ次世代high-k(高誘電率)材料の有力候補として応用に向けた検討が始まっています。

図1 図2
図1 光誘起親水化特性。紫外光を照射すると水滴の接触角がゼロに近くなり薄く濡れ拡がる。 図2 様々な薄膜の誘電率と膜厚の関係。図上部の写真は電極基板上でナノシートがクリーンな界面を形成しながら高秩序に積層している様子を示している。