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<用語解説>

(注1) alpha-Klotho:
1997年のNature誌の報告では「生命の糸を紡ぐギリシャ神話の女神Klotho(クロト)」にちなみklotho遺伝子と名付けたが、その後ファミリー遺伝子を発見したため、オリジナルの遺伝子をalpha-klotho、新たに見つかったファミリー遺伝子をbeta-Klothoと命名しなおした。

(注2) 体液カルシウム濃度:
哺乳類の体液では、極めて厳密に1.25mMのイオン濃度が維持されている。血液中では、ほぼ同量のカルシウムが血中タンパク質に結合していて、急激な変化に際して緩衝的に働いている。体液カルシウム濃度は細胞膜の膜電位の安定化に極めて重要で、異常な濃度は神経症状、精神症状、不整脈などを引き起こす原因となる。

(注3) ビタミンD:
1920年代に「くる病」を防止する因子として食物中から発見された脂溶性ビタミンで、ステロイドホルモンの一種である。ビタミンDの構造を決定したWindaus教授は1928年にノーベル化学賞を受賞している。ビタミンDは血液中ではVBPというキャリアータンパク質に結合して循環しているが、細胞に対してはVDRという核内受容体を介して細胞に転写を誘導する機能がある。ビタミンDはこの作用により、腎臓尿細管での再吸収、腸管からの吸収、骨からの吸収により、血中カルシウムを上昇させる。ビタミンDはコレステロールから合成され、肝臓、腎臓で水酸化を受け、活性型になる。紫外線により皮膚で構造活性化が誘導されるので、日照時間が少ない地方ではビタミンD欠乏症である「くる病」が多発していた時代があった。くる病を予防するため、米国では牛乳にビタミンDを添加することが義務づけられている。活性化されたビタミンDは約10時間の半減期を有し、腸管、尿細管、骨からのカルシウムの吸収を引き起こす。半減期が長いことから、最も強力なカルシウム上昇機能を持つホルモンである。

(注4) PTH:
1940年代に発見されたペプチドホルモンで、上皮小体(副甲状腺)から分泌されるparathyroid hormoneのこと。体液カルシウムの低下を感知した上皮小体細胞は、1-2分以内にPTHを血管内に分泌する。PTHは血液中で活性型となり、その半減期は約2分である。PTHの標的臓器は骨と腎臓であり、七回膜貫通型のPTH受容体を介して標的細胞に作用する。骨においては、骨吸収を促進し、カルシウムを血中に動員する。腎臓においては、遠位尿細管に対してカルシウムの再吸収を促進する。また、近位尿細管に作用し、1α水酸化酵素(CYP27B1)の転写を促進し、ビタミンDの活性化を誘導する。

(注5) 逆遺伝学的な方法:
一般に、遺伝子の機能欠損がどのようにして症状(表現型)に結びついているのかを解明するアプローチは逆遺伝学と呼ばれている。しかし逆遺伝学的研究は、遺伝子から細胞、組織、個体までの全ての現象を解明しなければ理解に到達しないことが多く、成功することは稀であると言われている。

(注6) ビタミンD活性化酵素:
1α水酸化酵素(CYP27B1)。主に腎臓の近位尿細管細胞に発現している。ミトコンドリア内の1α水酸化酵素によりビタミンDの1α位が水酸化され、活性化ビタミンD(1,25ジヒドロキシビタミンD3)となる。

(注7) Naポンプ:
1950年代にデンマークのSkouにより予言され、その後分子的実在が証明された分子。Skouはこの業績により、1997年にノーベル化学賞を受賞した。Naポンプは全動物細胞に発現しており、細胞膜の膜電位、細胞内外の浸透圧差調整を行っている。ATPの加水分解エネルギーを用いて、3つのNaイオンを細胞外に汲みだし、2つのKイオンを細胞内に取り入れる。NCXと連動して、カルシウムの細胞外汲みだしを行うとされる。強心剤ジギタリスはNaポンプを標的とする薬剤であり、Naポンプ機能を低下させることでNCXを抑制し、カルシウムの細胞内濃度を上昇させ、これが心筋の収縮力を上昇させる。

(注8) 上皮小体:
副甲状腺ともいう。体液カルシウム濃度の低下を感知して、PTHを分泌する。この臓器の起源は、魚においてはエラであったことが最近判明した。腎不全患者では、近位尿細管でのビタミンD活性化能が低下しているためにビタミンD欠乏症となりやすく、二次性上皮小体機能亢進症を発症しやすい。

(注9) 遠位尿細管:
カルシウムを尿より再吸収する部位。血中カルシウム濃度を感知し、細胞自律的に尿からカルシウムを再吸収する現象が以前より知られていたが、詳細な機構は不明であった。この部位には、カルシウム運搬分子として知られるTRPV5, calbindinD28K, NCX-1が発現しており、まさにこの細胞にalpha-Klothoは発現している。

(注10) 脳脈絡膜:
血液から必要な成分を選別し、脳脊髄液を作り出す脳内の器官。上衣細胞由来と考えられている。ヒトでは1日に約800mlの脳脊髄液が産生されている。

(注11) ビタミンD過剰症:
ヒトでは過剰投与による医原病として知られているが、自然発症は知られていない。動物ではalpha-Klotho遺伝子変異マウスが初めての報告。

(注12) 脳や筋肉の活動:
細胞内と細胞外のカルシウム濃度差は4桁以上である。神経細胞(ニューロン)が他のニューロンや筋肉細胞にシグナルを伝達すると、カルシウムの細胞内流入が起こり、二次的メッセンジャーとして様々な細胞現象を引き起こす。筋肉の収縮は、筋小胞体と呼ばれる袋に貯えられたカルシウムイオンが筋肉細胞中に放出されることによって起こる。

(注13) 恒常性:
生物は、生体に起きる様々な変動を元に戻そうとするシステムを持ち、一定の状態を保つ能力があると考えられており、この定常状態を恒常性(homeostasis)という。生物のもつ重要な性質の一つで、生体の内部や外部の環境因子の変化にかかわらず、生体の状態が一定に保たれるという性質があるからこそ、生物が生物であることができる。すなわち、恒常性維持能を有し自己複製する存在が、生物である。
20世紀初頭に「ホメオスタシス」 (同一の(=homeo)状態(=stasis)を意味するギリシャ語)が造語された。病気や老化症状は、恒常性が破綻している状態とも理解することができる。