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<用語解説>

1)シグナル分子:
 細胞間のシグナルに関わる分子と、細胞膜上でのシグナル伝達に関わる分子や細胞内でのシグナルに関わる分子などがある。ホルモンや成長因子などが代表的な細胞間シグナルに関わる分子であり、それらのうち細胞膜を透過できない分子は、細胞膜表面にそれに対応する受容体があって、それに結合することによって、細胞内にシグナルを伝える。細胞膜を透過できるような疎水性低分子のシグナル分子は、細胞内にある受容体に直接結合することが多い。
 細胞外のシグナル分子が細胞膜上の受容体に結合したとき、受容体はシグナル分子の到着を細胞内に伝えなくてはいけない。この過程で、単なる伝達だけでなく、シグナルの増幅や複合化などが起こって、細胞内シグナル分子に伝えられる。この過程は細胞膜上でのシグナル変換、と呼ばれる。シグナル変換は、受容体の構造変化や会合状態の変化が引き金となることが多く、それらの変化を細胞内から検知することによって、細胞膜の内側から細胞膜の外側表面部分に、シグナル分子が到達したことがわかる。GPIアンカー型受容体では、細胞内からシグナルの到着を直接に見る方法が考えられなかったので、研究が難航していた。
 細胞内では、シグナル変換によって、キナーゼの活性化やGTP結合タンパク質の活性化、イノシトール3リン酸の精製、カルシウムイオンの細胞内膜系から細胞質への放出などの現象が起こる。これらの分子は細胞内シグナル分子と呼ばれている。

2)CD59:
 参考図1に示したようなGPIアンカー型受容体の一種で、それに細胞外から結合するリガンドは、抗体が目的分子に結合したあとに活性化される補体成分の第8因子。この受容体にリガンドが結合すると、細胞内でのシグナルとして、Lynキナーゼの活性化、細胞内IP3濃度の増加、細胞質内のカルシウムイオン濃度の上昇などが誘起される。

3)ラフト:
 細胞膜は2次元状の液体である。それで、細胞膜を海にたとえると、そこにぷかぷか浮いているイカダ、というイメージからラフトという名前が使われるようになった。細胞膜は一様ではなく、氷山のようなものができていたり、シャーベット状の塊(正しくは、秩序液晶相という領域)があったりという議論は、この40年間続いている。人工膜では、このような膜領域を作り出すことができている。しかし、実際の細胞膜がどうなっているかは、ほとんどわかっていない。人工膜では、大抵、2-3種類の脂質分子で膜を構成するので話は簡単であり、そこで、シャーベット状の塊を作るために必要な代表的な脂質分子は、コレステロールと糖脂質であることもわかっている。しかし、細胞膜中には、1万種程度の分子が存在し、それらがどのように混ざり合って、液体中に不均一な構造を作るのかは、ほとんどわかっていない。したがって本研究で、GPIアンカー型受容体の会合が誘導されると、そこに、コレステロールと糖脂質が集まって直径数nm-数十nmのラフトが誘導されることがわかったことは、細胞膜の構造と機能の理解を大きく前進させるものである。

4)生細胞中での一分子追跡:
 生細胞中の目的分子に、蛍光や直径40nm程度の大きさの微粒子の目印を結合させる。様々な光学顕微鏡を用いて、目印が細胞中で動くのを1個ずつ追跡するのが、この方法である。細胞には蛍光を発する分子が多数存在し、また、微粒子と紛らわしい顆粒が多数存在するので、非常に難しい。また細胞に対する光毒性の除去や、細胞をよい状態に保ちながら観察するための装置側の工夫、さらに装置の時間分解能を、位置決め精度を損なわずにあげる必要があることなど、課題は多い。また、細胞がよい状態のまま困難な測定をするためには、自動化技術や画像取得後にノイズの中からシグナルを拾って1分子を追跡するためのソフトウェアの開発など、開発要素が非常に多い。我々はこの技術開発を1986年以来やってきており、時間分解能は、金コロイド微粒子による1分子追跡では4マイクロ秒、蛍光1分子追跡では50マイクロ秒と、他をはるかに引き離している。

5)リガンド:
 細胞外分子で、受容体に結合する分子。広義には、タンパク質分子に結合して、新たな機能を与えたり、構造変化を誘導する分子を、リガンドと呼ぶ。