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平成19年3月22日

科学技術振興機構(JST)
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京都大学
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免疫反応を調節するT細胞のはたらきを分子レベルで解明

(免疫疾患の発症機構解明と新しい治療法開発に光)

 JST(理事長 沖村 憲樹)と京都大学(総長 尾池和夫)は、国立がんセンター研究所(所長 廣橋説雄)らのグループと共同で、制御性T細胞(注1)による免疫応答制御の鍵となるメカニズムを分子レベルで明らかにしました。
 制御性T細胞とは、様々な免疫反応を抑制する方向に導く特別なリンパ球であり、正常な免疫機能の維持に機能する必要不可欠な細胞です。このT細胞は、自己免疫病やアレルギーといった過剰な免疫反応を抑制する一方で、腫瘍に対する有益な免疫反応も抑制してしまうことが知られています。あるいは、臓器移植において制御性T細胞の増殖、機能を強化することで拒絶反応を抑え臓器を生着しやすいようにすることができます。このことから、制御性T細胞の機能を操作する方法の開発は、免疫疾患やがんに対する新しい治療法につながると期待されていますが、制御性T細胞による免疫反応抑制のメカニズムについてはほとんど分かっていませんでした。
 本研究チームは、制御性T細胞に特異的に発現しているタンパク質Foxp3が、T細胞の機能に不可欠なタンパク質であるAML1に結合することにより免疫反応を抑制していること、さらに、Foxp3はAML1と結合することで、免疫応答を増幅する主要なサイトカイン(注2)であるインターロイキン2(注3)の遺伝子発現を制御していることを解明しました。今回の研究により、AML1とFoxp3の相互作用が、制御性T細胞による免疫応答調節において中心的なメカニズムであることが示され、Foxp3とAML1の相互作用に干渉することで、制御性T細胞を自在にコントロールできる可能性が開けました。この発見は、これまで謎が多かった、自己免疫・アレルギー疾患の発症メカニズムの解明に貢献するのみならず、免疫疾患の治療や、臓器移植における免疫抑制、腫瘍に対する免疫反応の活性化によるがん治療など、新しい創薬の基礎となることが期待されます。
 本成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「免疫難病・感染症等の先進医療技術」研究領域(研究総括:岸本忠三)の研究テーマ「制御性T細胞による免疫制御法の開発(研究代表者・坂口志文(京都大学再生医科学研究所 教授)および塚田俊彦(国立がんセンター研究所 プロジェクトリーダー)らの共同研究グループの一環として行われています。今回の研究成果は、2007年3月21日(英国時間)発行の英国科学雑誌「Nature」オンライン版に一般公開されます。


<研究の背景>

 身体の中にある免疫系は、生体へ侵襲しようとする様々な微生物、異物を認識し排除するための免疫機能を備えていますが、その機能が適切に制御されないと、自分の細胞や病原性のない花粉などまで過剰に排除しようとしてしまいます。そのため、正常な免疫系は、こうした過剰な免疫反応によってひきおこされる自己免疫疾患・アレルギー性疾患が発症しないようにするために、特別な制御機構を備えています。
 制御性T細胞とは様々な免疫反応を抑制的に調節する機能に特化した特異なリンパ球で、正常な免疫機能の維持に機能する必要不可欠な細胞です。制御性T細胞は、自己免疫病やアレルギーなどの過剰な免疫反応を抑制する一方で、腫瘍免疫などの有益な免疫反応も抑制してしまうことが知られています。もし、制御性T細胞のはたらきを人為的に強めることができれば、自己免疫反応、アレルギーなどの有害な免疫反応を抑えられると考えられます。また、逆にがん患者の制御性T細胞のはたらきを弱めることができれば、腫瘍に対して有益な免疫反応を引きだすことにより、がんの効果的な治療ができると予想されていました(図1)。しかしこれまでの研究では制御性T細胞による免疫反応抑制の分子レベルでのメカニズムについてはほとんど分かっていませんでした。

<研究成果の内容>

 本研究チームは、免疫制御のメカニズムを分子レベルで解明するために、免疫制御の鍵となる遺伝子の動作メカニズムを解析しました。様々な遺伝子のはたらきは、DNAからmRNAへの転写を制御する領域に特異的に結合して遺伝子の発現量を調整するタンパク質(転写因子)によって制御されています。そこで、本研究チームは、免疫反応をひきおこすサイトカイン(情報伝達物質)であるインターロイキン2遺伝子の、転写因子による制御メカニズムに注目して研究を始めました。その結果、インターロイキン2の発現を制御する遺伝子領域に転写因子AML1が結合し、インターロイキン2の発現を調節していることが分かりました。実際に、通常のT細胞において、転写因子AML1の発現量を減らしたところ、インターロイキン2の発現量もそれに伴って減少しており、AML1がインターロイキン2の発現に必要な因子であることが解明されました(図2)。すなわち、通常のT細胞が免疫反応をひきおこすためには、AML1が必要であることが判明しました。
 次に、免疫反応を抑制するはたらきをもつ制御性T細胞において、AML1の機能がどのようになっているかを調べました。通常のT細胞とは対照的に、AML1は制御性T細胞においては、インターロイキン2の発現量を増加させられませんでした。このことは、制御性T細胞においてのみ発現する転写因子であるFoxp3とAML1とのあいだに何らかの相互作用があることを示唆しています。さらに解析をすすめた結果、Foxp3がAML1と物理的に結合すること(図3)、さらに、制御性T細胞においては、Foxp3とAML1の相互作用により、インターロイキン2の発現制御が行われていることを明らかにしました(図4)。また、AML1と結合できない変異型Foxp3をもつ細胞は、制御性T細胞の機能を発揮できないことが分かりました。実際に、制御性T細胞内でのAML1の発現を減らすことで、制御性T細胞の機能が弱まりました(図5)。このことは、制御性T細胞が免疫反応を抑制する分子メカニズムが、転写因子Foxp3と転写因子AML1の相互作用に基づいていることを意味します。
 以上の研究により、転写因子AML1は通常のT細胞において、免疫反応をひきおこすために必要な遺伝子を制御しており、制御性T細胞においては、AML1は転写因子Foxp3と結合し複合体を形成することで、免疫反応を抑制するために必要な遺伝子を制御していることが判明しました。

<今後の展開>

 今回の研究で、制御性T細胞の抑制メカニズムの鍵と言える分子メカニズムを明らかにしました。医療への応用という観点からは、Foxp3とAML1の相互作用に干渉することにより、制御性T細胞を自在にコントロールできる可能性が開けました。この発見は、これまで謎が多かった自己免疫・アレルギー疾患の発症メカニズムを解明することに貢献するのみならず、様々な免疫疾患の新しい治療薬の創薬や、腫瘍に対する免疫反応を高める作用を持つ新しいがんの治療薬、新しい免疫抑制剤の開発に繋がることが期待されます。

図1.制御性T細胞による免疫応答の抑制的制御
図2.AML1はインターロイキン2の産生に必要である
図3.AML1とFoxp3は物理的に結合する
図4.Foxp3とAML1の相互作用による遺伝子調節
図5.制御性T細胞によるT細胞増殖抑制活性にはAML1が必要である
<用語解説>

<論文名>

「Foxp3 controls regulatory T cell function by interacting with AML1/Runx1」
(転写因子Foxp3は、AML1/Runx1との相互作用を介して制御性T細胞を制御している)
doi: 10.1038/nature05673

<研究領域等>

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下のとおりです。

○戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域: 「免疫難病・感染症等の先進医療技術」
(研究総括:岸本忠三 大阪大学大学院生命機能研究科 教授)
研究課題名: 「制御性T細胞による免疫制御法の開発」
研究代表者: 坂口志文 京都大学再生医科学研究所 教授
研究期間: 平成15年度〜平成20年度

<お問い合わせ先>

坂口 志文(さかぐち しもん)
京都大学 再生医科学研究所 教授
〒606-8507 京都府京都市左京区聖護院川原町53
TEL: 075-751-3888 FAX: 075-751-3820
E-mail:

中田 一隆(なかだ かずたか)
独立行政法人科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
TEL: 048-226-5635 FAX: 048-226-1164
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