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用語解説

注1:SPring-8(スプリング8)
世界に3台ある第3世代大型放射光施設のうち、日本の播磨にある大型放射光施設の略称(Super Photon Ring 8 GeV)。この施設が利用できるようになって、生命科学から物質科学の極めて多くの分野のサイエンスが進歩しました。特に、生命科学の分野では、生体分子の原子レベルの構造情報を決定することに数多く成功しています。次のターゲットは細胞内で働いているその場での構造情報の取得です。

注2:X線回折
X線は透過能が強く通常の散乱能、反射率は高くありません。しかし、散乱体の結晶構造体の周期性とX線の周期性が合うと高反射率になって、それが方向性に敏感なためにスポットとして現れます。

注3:アクチン繊維
筋肉の主要成分。アクチン繊維はGアクチンと呼ばれる単分子が重なり合って1本のFアクチン(繊維状分子集合体)を形成しています。構造もすでに分かっているので、多くの分野でその機能特性に関する研究が盛んに行われています。

注4:平均二乗変位量(Mean-square Displacement:MSD)
運動の大きさを表す統計処理指標の1つ。ある決まった時間幅の中での運動の始点と終点の距離の二乗(運動の方向性を無視する)の総和量。特に、ブラウン運動のような各時間内ではランダムな運動をしており、その総和的な解析でその特徴が現れる物理現象を取り扱う時に使われる解析因子です。

注5:ファンデルワールス力
原子、分子間などに働く力の一つ。その力は非常に弱いです。この力によって出来る結合を、ファンデルワールス結合と呼びます。この力は、主に中性で無極性な分子内の電子分布であっても常に対称で無極性ではなく、瞬間的には非対称な分布となる場合があり、これによって生じる電気双極子が、同様にして出来た周りの分子の電気双極子同士と相互作用することによって生じます。

注6:カシミール効果
1948年、オランダのフィリップス研究所の物理学者のヘンドリック・カシミールは、平行におかれた二つの無帯電状態の金属板の間に吸引力が働くことを予想しました。この効果による力は、二面間の原子間距離の数倍というふうに、距離が極めて近い場合にのみ計測できる大きさです。通常、fN(フェムトニュートン=10-15ニュートン)からaN(10-18ニュートン)の大きさと言われています。

注7:ブラックホールとX線放射圧
X線天文学の進展によりブラックホールの存在は明確なものになりました。宇宙の中で強いX線を発生しているのは、中性子星やブラックホールと言ったコンパクト星群が有名です。このような天体のエネルギー源は重力エネルギーで、天体の強い重力場によって落ち込んだガスが加熱されて高エネルギーのX線を放射しています。それがブラックホールが多くの物質を吸い込むというSF的な天体として有名になった現象の解釈です。この際、重力場の中心方向と逆向きにかかる力がX線放射圧であり、この力がブレーキの役割をすることで、ブラックホールは安定性を確保しているのです。通常のブラックホールの直径が数十Kmと言われていますが、今回の研究対象であるナノ空間では10-12のスケールダウンした空間の現象を観察していることになります。その大きなスケールの違いがあるにも関わらず、全く同じ原因からの力場が確認されたのです。この結果は、全く異分野であったX線天文学と生命科学という研究領域において、その物理的共通性を再認識することになりました。近未来的な展開かもしれませんが、共同的な進展が可能になるかもしれません。このように、科学では共通認識を持つことが、次の新展開において、極めて重要なトリガーとなる場合があります。

注8:エバネセント減衰波
電磁波が物質界面で反射する際に、反射方向とは逆方向に波長の数倍程度のしみ出し効果が知られており、その減衰波を指します。多くは可視領域の波長における分光学的な応用に使われていますが、X線波長領域においてもその現象が確認されており、今後多くの応用展開が期待できる現象です。