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平成17年12月9日

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ゲノム機能解析から見えてきた哺乳類進化

−哺乳類の進化に関わるレトロトランスポゾン由来の遺伝子 Peg10 の発見−

 JST(理事長:沖村憲樹)と東京医科歯科大学(学長:鈴木章夫)の研究チームは、哺乳類ゲノムの中に、個体発生に必須の機能を果たすレトロトランスポゾン由来の遺伝子が存在することを発見した。この遺伝子は、哺乳類にのみ存在し、哺乳類に特徴的な臓器である胎盤の形成に関与する機能を持っていた。
 ゲノムプロジェクトの成果により、哺乳類のゲノムの1/3以上はレトロトランスポゾンやその残骸からなっていることが知られている。それらの大部分は、ゲノム中の"ゴミ"と見なされていた。今回、研究チームは、これらの中に哺乳類の個体発生に必須の機能を果たしているものが存在していることをつきとめた。それは現在インプリンティング遺伝子Peg10として機能している遺伝子であり、今回の実験で、この遺伝子が哺乳類の個体発生に必須の機能を果たしており、哺乳類の生殖機構の最大の特徴である"胎生"の要となる胎盤の形成に機能していることを証明した。これは、哺乳類の進化に関わる新しいゲノム機能がレトロトランスポゾン由来の遺伝子によってもたらされた可能性を初めて示したものである。生物の個体発生と進化(系統発生)の関係を解明することは、ポストゲノム時代に残された生物学の最重要課題の一つであるが、今後のゲノム科学の進展によってこの問題解決が可能になることが期待される。
 本成果はJST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CRESTタイプ)「ゲノムの構造と機能」研究領域(研究総括:大石道夫 (財)かずさDNA研究所 所長)の研究テーマ「哺乳類特異的ゲノム機能」において、研究代表者・石野史敏(東京医科歯科大学難治疾患研究所 教授)のグループと金児−石野知子(東海大学健康科学部 教授)、小倉淳郎(理研バイオリソースセンター)、横山峯介(三菱化学生命科学研究所、現・新潟大学脳研究所 教授)らの共同研究によって得られたもので、2005年12月11日付(米国東部時間)の米国科学雑誌「Nature Genetics」オンライン速報版で発表される。

研究の背景と経緯:

 ポストゲノム時代の生物学の重要な課題の一つに、生物の個体発生や生物進化(系統発生)におけるゲノム機能の解明がある。ゲノム機能*1という立場からは、受精卵から成体に至る個体発生のプロセスは、その生物のもつゲノム機能が統合的に発現された結果であり、生物の進化(系統発生)とはこのようなゲノム機能の変遷(新規機能の追加や既存の機能の変化)を意味するものと考えられる。
 近年の哺乳類を含む多くの高等脊椎動物のゲノム解析から、哺乳類にのみ特異的に存在するレトロトランスポゾン*2由来の遺伝子の存在が明らかになった。この不思議な遺伝子が一体どのような機能をもっているのか、今回、この遺伝子の機能をノックアウトマウスを用いて調べた。その結果、驚くべきことに、この遺伝子が哺乳類の個体発生に必須な機能を持つことが明らかになった。また、この遺伝子の由来を考えると、レトロトランスポゾン由来の遺伝子(群)が哺乳類という生物の起源や進化を考える上で重要な機能を果たした可能性が示唆される。

今回の論文の概要:

 申請者のグループが2001年に発見したインプリンティング遺伝子*3Peg10*4は、遺伝子構造から考えてレトロトランスポゾンに由来すると考えられた(図1:Ono et al. Genomics 2001)。この遺伝子は、哺乳類にのみ特異的に存在することがわかり、どのような機能を持つ遺伝子であるかが注目されていた。今回、このPeg10を欠失したマウスを作製したところ、受精後、子宮に着床して初期の胎児まで一見正常に発生するが、妊娠10日目の時点で致死(初期胚致死)となることが明らかとなった(図2)。解析の結果、このマウス胚では胎盤の形成に異常があるため、胎児の発生ができなくなったことを証明した。すなわち、この遺伝子は胎盤形成に必須な機能をもつことにとって、哺乳類の個体発生に必須の役割を果たしているものであった。この結果は、哺乳類の胎生*5という個体発生様式に必須な臓器である胎盤が、進化の過程で獲得されるために、レトロトランスポゾンに由来した遺伝子が使われていることを意味している。 すなわち、Peg10は現在の哺乳類の個体発生に必須な遺伝子であり、哺乳類の進化を考える上でも重要な意味を持つ遺伝子であることが示された(図3)。

今後期待できる成果:

 今回の発見により、ヒトを含む哺乳類という動物群の成立にレトロトランスポゾン由来の遺伝子(群)が必須な機能をはたしたという、生物進化の新しい機構が見えて来た。今後、このようなレトロトランスポゾン由来の遺伝子群の機能が体系的に解析され、さらに、それらの由来が解明されることにより、哺乳類の個体発生と進化(系統発生)の関係がゲノム科学によって明らかにされることが期待される。われわれヒトという生物種の起源の解明につながることであり、科学的にも、社会的にも重要な意味を持つと考えられる。


用語の説明
図1
図2
図3
図4

【論文名】

“Deletion of Peg10, an imprinted gene acquired from a retrotoransposon, causese early embryonic lethality”
(レトロトランスポゾンから獲得した遺伝子であるインプリンティング遺伝子Peg10を欠失したマウスは初期胚致死となる)
doi :10.1038/ng1699

この研究テーマを実施した研究領域、研究期間は以下のとおりである。
 JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)
 研究領域:ゲノムの構造と機能(研究総括:大石道夫)
 研究テーマ:哺乳類特異的ゲノム機能
 研究期間:平成10年度〜平成15年度

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【本件問い合わせ先】
 石野 史敏(いしの ふみとし)
  東京医科歯科大学難治疾患研究所・エピジェネティクス分野
  〒101-0062 千代田区神田駿河台2−3−10
  TEL: 03-5280-8072, FAX: 03-5280-8073
  E-mail:

 佐藤 雅裕(さとう まさひろ)
  独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
  〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
  TEL:048-226-5635, FAX:048-226-1164
  E-mail:

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