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Technical Eye
LH-2005-003
掲載 2005.11.1

抗癌剤のスクリーニング方法

技術の背景

 従来の抗癌剤の多くは、抗癌活性を有するものの免疫抑制や造血障害などの強い副作用を持ち、また、抗癌治療に併用される免疫賦活剤は、副作用が少ないが効果が弱いという問題点がある。このような抗癌剤の開発を行うにあたり、抗癌剤についてはその癌細胞選択性の問題があり、免疫賦活薬剤についてはその作用機序の解明が急がれているのが現状である。

技術内容・特徴

 発明者は、癌に対する生体防御機構の中心を成すナチュラルキラー(NK)細胞の活性化制御を研究することにより、 NK細胞受容体の下流のシグナル分子であるMIST分子を欠損したNK細胞は癌細胞に対し、より強い細胞傷害活性やインターフェロンαの産生を示すことを見出している。また、MIST欠損マウスでは実験的悪性黒色腫の肺転移が正常マウスの10分の1以下に低下していることも確認している(図1)。

図1
図1
 MIST分子はNK細胞以外の免疫細胞では免疫受容体シグナルを正に制御しているがSrcファミリーキナーゼであるFgr分子が発現するNK細胞においてのみ受容体シグナルを負に制御し、NK細胞の活性化を抑制する。このNK細胞の活性化の抑制には、MIST分子のプロリンに富む領域とFgr分子のSH3領域との特異的な結合が関与しており、この結合を特異的に阻害する天然・人工化合物を探索することにより、作用機序の明らかでかつ、広範な免疫抑制という副作用のない抗癌剤・免疫賦活剤を開発することができる(図2)。
図2
図2
 そのスクリーニング法としては、1)リコンビナントMISTおよびFgr蛋白を用いて、それら分子の結合様式を表面プラズモンセンサーにより解析し、その結合を阻害する分子の簡易スクリーニングシステム、2)酵母ツーハイブリッド法を利用して構築するシステム、3)IFN-αの産生やカルシウムなど受容体刺激によって引き起こされる細胞反応を指標としてスクリーニングするシステム、などがある。さらに、Fgr分子のSH3領域の構造予測を行い、それに対する最適結合ペプチドの分子設計、それに引き続く低分子化合物への変換設計などの手法を上記スクリーニングシステムと組み合わせることにより、効率的な結合阻害剤の探索を行い、リード化合物候補を同定することも可能である。以上のスクリーニングで得られた候補化合物の生体におけるNK細胞の活性化、癌転移抑制効果については、MISTおよびFgr欠損マウスをコントロールとして評価することが可能である。

特許・文献情報

特許名称 抗癌剤のスクリーニング方法
発明者 後飯塚 僚 他
出願人 科学技術振興機構
出願番号 特願2004-066595

応用分野

(1)癌に対する免疫療法における免疫賦活薬。
(2)免疫不全状態における免疫賦活薬。

関連技術・市場情報

 MISTはマスト細胞のIgE受容体を介した脱顆粒などのアレルギー反応を正に制御しており、MISTの発現・機能を抑制することにより、花粉症やアトピーのようなマスト細胞の関与するI型アレルギーを抑制することが可能である。MIST分子に関連する特許:特許第3146204号「マスト細胞特異的シグナル分子とそのcDNA」
 免疫賦活作用を示す薬剤は存在するが、免疫賦活剤としては市販されていない。参考までに、抗癌剤の国内市場は、約2700億円であり、年々増加している。また 抗アレルギー剤の市場は約2500億円である。

編集 :技術移転プランナー 服部修造

問い合わせ先:科学技術振興機構 産学連携推進部 技術移転支援センター

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