平成17年8月5日

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変異遺伝子の新規な電気化学的検出法を開発

− 新規な人工DNAを用い、デジタル的な応答でSNPを検出 −

 JST(理事長:沖村憲樹)と富山医科薬科大学(学長:小野武年)は、デジタル的な"on-off"応答で電気化学的に DNA の一塩基多型(SNP)を検出する方法を開発した。

 生物の遺伝子(DNA)は、4種類の核酸塩基が繋がった構造をしている。この4種類の並び方こそが、その生物を形作る情報である。しかしながら"ヒト"なら全て並び方が同じというわけではなく、0.1% くらいの違いは個々人の間にもある。このうち同一場所で1塩基だけが異なり、しかもそれが人口中 1% 以上の頻度で存在する変異遺伝子を一塩基多型(SNP)とよぶ。このSNPには、特定の病気になりやすい、特定の薬に対して副作用が強く現れるなどの根源となるものがあり、その簡便で安価な検出法の開発が望まれている。本研究では、電気化学活性な有機金属分子(フェロセン)をDNAに連結させた新規な構造の"人工DNA"を合成し、この人工DNAを電極上に固定化させて電気化学センサーとして用いるという新たな方法によって、正常遺伝子とSNP遺伝子を判別することを試みた。 その結果、センサーとなる人工DNAに正常遺伝子が結合した場合には電流が強く流れるのに対し、SNP遺伝子が結合した場合には電流がほとんど流れないことを(デジタル的なオン・オフ応答であることを)突き止めた。この手法を用いることにより、従来法に比べて格段に高い精度でSNP遺伝子を検出することが可能となり、臨床での使用が期待される。

 本研究の成果は、JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけタイプ)「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」研究領域(領域総括:潮田資勝)における研究テーマ「精密分子認識に基づく人工 DNA の創成とナノ材料への応用(研究者:井上将彦)」において得られたもので、平成17年8月8日週(米国東部時間)の米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版で公開される。


<研究の背景と経緯>

 生物の遺伝子(DNA)は、4種類の核酸塩基が繋がった構造をしている。この4種類の並び方こそが、その生物を形作る情報である。しかしながら"ヒト"なら全て並び方が同じというわけではなく、0.1% くらいの違いは個々人の間にもある。このうち同一場所で1塩基だけが異なり、しかもそれが人口中 1% 以上の頻度で存在する変異遺伝子を一塩基多型(SNP)とよぶ。この SNP の重要性は、特定の病気にかかりやすい、特定の薬に対して副作用が強く現れるなどの根源となることである。したがって SNP を有する遺伝子(SNP 遺伝子)を、安価に、そして簡便かつ高い精度で検出する技術の確立は、患者個々人に合った次世代の医療を提供する上でのキー・ポイントとなる。現在世界中で研究と開発が繰り広げられているが、臨床での使用を想定した場合、満足のいくものはない。
 本研究者は、有機合成化学を駆使して光や電気に応答する合成分子を DNA に連結させ、それら"人工 DNA"(*1)を天然の DNA の検出に用いる研究を行ってきた。今回、フェロセン(*2)と呼ばれる電気化学活性な有機金属分子をπ結合(*3)を介して DNA に連結して、新規な電気化学センサー分子(*4)となる電気化学活性人工DNAを開発した。この人工DNA を原子レベルで平滑な金電極に固定化して、正常遺伝子と SNP 遺伝子を判別する研究を行った。

<研究成果(今回の論文の概要)>

 電気化学活性人工 DNA は次のようにして合成した。フェロセン誘導体と人工の水素結合性分子(*5)とを、アセチレンπ結合で連結してフェロセンユニットとした。このフェロセンユニットを特定の DNA(検出する遺伝子と二重ラセンを形成できる DNA)の末端に連結し、この DNA のもう一方の末端にはスペーサーを介してチオール基を導入して、これを電気化学活性人工 DNA(プローブ DNA)とした。プローブ DNA と検出する DNA とで二重ラセンを形成させた後に、プローブ DNA のチオール基を利用して金電極上へ固定化した(図1)。
 電気化学測定はパルスボルタメトリー(*6)の一種である SWV(Square Wave Voltammetry*7)法を用いて行った。プローブ DNA と正常遺伝子(完全マッチ DNA*8)との二重ラセンではフェロセン由来の電流が強く観測されたのに対し、SNP 遺伝子(ミスマッチ DNA*9)との二重ラセンではほとんど電流が観測されなかった(図2、それぞれの DNA の塩基配列に関しては表1を参照)。正常遺伝子と結合した人工 DNA の場合には、電気活性なフェロセンの電子が電極まで到達し易いのと比較して、SNP 遺伝子との場合は変異している核酸塩基の場所でその電子の移動が妨げられることが理由と考えられる。この結果から、本法を用いると正常遺伝子と SNP 遺伝子とをデジタル的な"on-off"応答で識別できることが分かった。
 SNP の位置や種類を様々に変化させた SNP 遺伝子モデルでも同様の SWV 測定を行ったところ(表1)、塩基の場所や種類によらず、ほぼ全ての SNP 遺伝子を高い選択性で正常遺伝子から区別することができた。唯一の例外は電極に最も近い塩基が SNP の場合である(表1の2〜4)。この場合、フェロセン側から見て SNP の手前までは正常遺伝子である。ゆえに、正常遺伝子がヌクレオチド(*10)一つ分鎖長の長くなったスペーサーで電極に固定化された状態と同じであると考えた。さらには、プローブ DNA の塩基配列を変化させた場合でも、またプローブ DNA より長い遺伝子の場合でも、問題なく正常遺伝子と SNP 遺伝子をデジタル的な"on-off"応答で識別することができた。

<今後の展開(今後期待できる展開)>

 本手法を用いることにより、従来法に比べて格段に高い精度で SNP 遺伝子を検出することが可能となる。また検出する遺伝子に特別な処理をほどこす必要がなく、簡便さの点でも優れており、DNA チップへの応用が容易である。個々人の病気のかかり易さを推定したり、体質に合った薬を個別に調べる上で画期的な手法として、臨床での使用が期待される。

図1
図2
表1
<用語解説>

このテーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。

JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけタイプ)
研究領域:「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」

(研究総括;潮田 資勝 北陸先端科学技術大学院大学 学長)
研究期間:平成14年度〜平成17年度
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本件問合せ先:

井上 将彦(いのうえ まさひこ)
富山医科薬科大学 薬学部 薬化学研究室
教授
E-mail:
Tel: 076-434-7525 / Fax: 076-434-5049

金子 博之(かねこ ひろゆき)
独立行政法人科学技術振興機構
特別プロジェクト推進室
E-mail:
Tel: 048-226-5623 / Fax: 048-226-5703

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