平成17年6月6日

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菌根菌と植物との共生におけるシグナル物質を解明


 JST(理事長:沖村憲樹)と公立大学法人大阪府立大学(学長:南努)の研究チームは、アーバスキュラー菌根菌と植物との共生系において、植物が生産する共生シグナル物質を解明した。
 アーバスキュラー菌根菌は必須元素であるリンを宿主植物に供給する有用微生物であり、80%以上もの陸上植物と共生することができる。これまで菌根菌が植物の根から分泌される共生シグナル物質により宿主植物を認識し、感染・共生していくことが分かっていたが、それがどのような物質であるのか明らかになっていなかった。今回、研究チームは世界に先駆けてこのシグナル物質の単離と構造解析に成功し、それが農作物に甚大な被害を与えている強害雑草である根寄生雑草の種子発芽刺激物質と同じ物質であることを明らかにした。この成果は、植物生態系や農業生産における菌根菌の有効利用と根寄生雑草の効果的防除法の開発につながると期待される。
 本成果はJST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)「植物の機能と制御」研究領域(研究総括:鈴木昭憲(秋田県立大学学長))における研究テーマ「共生ネットワークの分子基盤」[研究代表者:川口正代司(東京大学大学院理学系研究科助教授)]において、秋山康紀(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 助手)と林英雄(同教授)、松崎謙一(同大学院生)らによって得られたもので、6月9日付の英国科学誌「ネイチャー」に発表される。

<研究の背景と概要>

 菌根とは糸状菌と共生した状態の植物の根のことであり、菌根を形成する菌を菌根菌という。アーバスキュラー菌根菌は皮層細胞においてarbuscule(樹枝状体)を形成することからその名が付けられている(以後、簡単のため菌根菌と呼ぶ)。本菌はリンを宿主植物に供給する有用微生物であり、80%以上もの陸上植物と共生できることから農業などに利用されている。菌根菌は植物と共生することなしには、ほとんど生育できない絶対共生菌であるため、取り扱いが極めて難しい。このため、菌根菌と植物とがどのようにして互いを認識し、菌根形成に到るのか、そのシグナル機構についてはほとんど明らかになっていない。
 胞子から発芽した菌根菌の菌糸は、根の近傍に達すると先端が細かく分岐する形態変化を示す。この菌糸分岐は菌根菌の宿主認識反応であり、根から分泌されるブランチングファクター(BF)と呼ばれるシグナル物質によって引き起こされることが分かっていた。今回、マメ科のミヤコグサからBFとして単離された5-デオキシストリゴールは、ストリゴラクトンと総称される根寄生雑草の種子発芽刺激物質でもある。この発見は菌根共生研究における大きなブレークスルーとなるだけでなく、なぜ多くの植物が根寄生雑草に対するシグナルとなってしまうストリゴラクトンを生産するのかという長らくの謎に対する答えでもある。今後の研究により、BFシグナリングによる菌根共生の調節制御機構が解明され、それが植物生態系や農業生産における菌根菌の有効利用と根寄生雑草の効果的防除法の開発につながることが期待される。

<成果の具体的な説明>

 アーバスキュラー菌根共生は80%以上もの陸上植物に見られる地球上でもっとも普遍的な共生である。根近傍での菌根菌の菌糸分岐は、菌根菌と共生できる植物にのみ見られ、共生できないアブラナ科やアカザ科などの植物では見られないことから、菌根菌の宿主認識反応であると見なされている。この形態変化は根から分泌される分子量500以下の脂溶性物質により引き起こされることがこれまでに分かっていた。本物質はブランチングファクター(BF)と呼ばれ、その単離が試みられてきた。しかし、根から分泌される量が極めて少なく、化学的にも不安定であるため、これまでにBFの単離に成功した例はなかった。
 本研究では、マメ科のモデル植物であるミヤコグサを低リン酸栄養条件下で水耕栽培してBFを生産させた。ミヤコグサの生産するBFは水耕液から酢酸エチルによって抽出される脂溶性の高い物質であり、また分子中に解離性の官能基を持たない中性物質であることが分かった。そこで、水耕液を活性炭カートリッジに連続的に通す循環吸着法を採ることにより、根から水耕液に分泌されたBFを効率的かつ選択的に回収した。精製の過程で、BFはメタノールや水など求核性を持つ溶媒に対して不安定であることが分かった。これら溶媒をできるだけ使用しない精製法により、20 Lの水耕液を3日間活性炭に循環吸着して調製した粗抽出物から18μgのBFを単離することができた。質量スペクトルや核磁気共鳴スペクトルなどによる構造解析と化学合成によって調製した合成品とのスペクトルデータの比較により、ミヤコグサBFを5-デオキシストリゴールと同定した。 この物質は根寄生雑草の種子発芽刺激物質として単離されたストリゴールの合成誘導体としてすでに報告されていたが、天然から単離されたのはこれが初めてである。5-デオキシストリゴールはpg(ピコグラム)レベルで菌糸分岐を誘導した。根寄rb<生雑草の種子発芽刺激物質はストリゴラクトンと総称され、これまでに天然から5つ単離されている。また、根寄生雑草の防除を目的として様々な合成誘導体が開発されている。それらのうち、天然ストリゴラクトンであるソルゴラクトンとストリゴール、合成誘導体であるGR24もまたng(ナノグラム)からpgレベルで菌糸分岐を誘導することが分かった。
 本研究によって菌根共生における宿主認識シグナル物質であるBFは、根寄生雑草の種子発芽刺激物質としてすでに単離されていたストリゴラクトンであることが明らかになった。これまでの研究からストリゴラクトンは単子葉、双子葉を問わず、植物界に広く存在することがわかっている。この分布の広さは植物生態系における菌根共生の普遍性とよく一致しており、植物がBF(=ストリゴラクトン)を根から分泌することにより菌根菌とコミュニケートしていることを強く示唆している。

<今後の展開>

 BFであることが明らかになったストリゴラクトンは約40年前の1966年にワタから初めて単離された。その後、今回の5-デオキシストリゴールを含め、これまでに6種の天然ストリゴラクトンが単離されている。しかし、ストリゴラクトンが超微量かつ不安定物質であるため、植物でのストリゴラクトンの生合成経路や生産・分泌調節機構については全く分かっていないのが現状である。本研究で用いたミヤコグサは分子遺伝学的研究において最も大きな成功を収めているモデル植物の一つである。今後、BF(=ストリゴラクトン)生産・分泌変異体を取得し、その原因遺伝子のクローニングと、変異体での菌根菌共生の表現型の詳細な解析により、BFの生合成、生産・分泌調節、そしてBFによる菌根共生調節制御についての重要な知見が得られるものと期待される。また、これまでにストリゴラクトンの合成研究が有機合成化学者により精力的に行われていることから、十分量の化学的に純粋なストリゴラクトン(=BF)を入手することが可能である。このことは、今後、菌根菌のBFシグナルに対する反応の分子生物学的、細胞学的、形態学的研究を進める上で大きな福音となる。
 以上のような研究から、BFシグナリングによる菌根共生の調節制御機構が解明され、それが植物生態系や農業生産における菌根菌の有効利用と根寄生雑草の効果的防除法の開発につながることが期待される。

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この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。

JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)
研究領域:植物の機能と制御<研究総括:鈴木昭憲、秋田県立大学 学長>
研究期間:平成14年度〜平成19年度


■ 図1 

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本件問い合わせ先:

秋山 康紀(あきやま こうき)
 大阪府立大学大学院生命環境科学研究科
 〒599-8531 大阪府堺市学園町1−1
 Tel: 072-254-9472
 FAX: 072-254-9471
 E-mail:

佐藤 雅裕(さとう まさひろ)
 独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造事業本部
 研究推進部 研究第一課
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