<用語解説>
注1)超伝導
 金属が低温において突然電気抵抗を消失する(ゼロ抵抗)で知られる現象。超伝導状態では物質から磁場が排除されること(マイスナー効果)も良く知られる。ゼロ抵抗を用いた強力磁石や送電、微弱磁場センサ、超高速デバイスなどの応用が期待される。

注2)層状銅酸化物の高温超伝導
 銅原子と酸素酸素原子が織り成す二次元銅酸素シートを構造の基本として、これを層状に積み重ねた構造を有する一連の層状銅酸化物は高温超伝導発現の舞台として知られる。1986年にBednorzとMullerによって発見された。層状銅酸化物で実現する超伝導転移温度の最高値はHg-銅酸化物の135 K(圧力下で164K)である。それ以前の転移温度の最高がNb3Geの23 Kであった事を考えるならば、そのインパクトの大きさが理解できる。
 高温超伝導のメカニズムは1957年にバーディーン、クーパー、シュリーファー博士らによって提唱された超伝導の標準理論BCS理論では説明不能であると言われ、発見以来世界中の研究者を巻き込んだ論争が繰り広げられている。

注3)電子相関
 電子はマイナスの電荷を持った粒子であるため、電気的な反発力によりお互いの個性を主張する電子相関と呼ばれる性質をもつが、これが極端になった強電子相関の系では、お互いの運動状態を束縛しあって動きの取れなくなったモット絶縁体と呼ばれる状態(電子固体)になったりする。高温超伝導を示す銅酸化物は、強電子相関を示す物質に分類される。

注4)走査型電子顕微鏡(STM)と走査型トンネル電子分光(STS)
 走査型電子顕微鏡(STM)は試料表面に接近させた鋭い金属探針に電圧を印加し、その際、量子力学的なトンネル効果によって流れる電流を測定することによって、試料の表面形状とともに電子状態を原子レベルの空間分解能で調べることのできる装置である。
 STMは通常の電子顕微鏡と異なり、様々な環境で使用できることがその特徴である。今回の実験では熱的擾乱を抑えるため、低温(4K(-269℃)以下)環境仕様のSTMが使用された。さらに、理化学研究所と東京大学では、多数の試料を超高真空(10-8 Pa以下)中にストックして、試料表面の劣化を防ぎながら高スループット測定が可能なSTM((株)ユニソクと共同開発)を用いて多数の試料の系統性を検討し、コーネル大学では100 mK以下に到達できる超低温仕様のSTMを用いて熱の影響を極限まで抑えた高分解能測定を行った。
 走査中の各点において、トンネル電子分光を行うと局所的な電子状態密度を空間分解で調べることができる。これが走査型トンネル電子分光(STS)である。

注5)Ca2-xNaxCuO2Cl2 高温超伝導体
 最高で絶対温度28Kの超伝導転移温度を示す高温超伝導物質。図3に示すような結晶構造をもち、高温超伝導の舞台である銅と酸素のネットワーク面がイオン性の強いCa(Na)Cl面で挟み込まれる構造を有する。イオン性の強いCa(Na)Cl面が強い劈開性の起源である。超伝導性は現在東京大学物性研究所の廣井善二教授らによって最初に発見された。

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