平成15年11月28日(金) |
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【研究成果の概要】 | ||||||||
研究の背景 | ||||||||
血液は、赤血球、白血球および血小板の3種類の血球細胞により構成されている。血小板は、血液中に存在する核が無い細胞の断片である。しかし、細胞の要となる核が無いにも関わらず、出血がおきると、その場所へ移動して止血する機能を持っている。この過程には、出血を一刻も早く止血するために、血小板を一瞬で、且つ大量に増やすためのダイナミックな「形の制御」がみられる (図1)。 血小板が作られるメカニズムとして、まず、図1のように血球細胞のもとになる骨髄中の造血幹細胞はトロンボポエチン(用語説明2参照)の作用により巨核球前駆細胞(用語説明3「巨核球」参照)になる。すると、細胞質分裂を行わず染色体数を増加させる(多倍体化)という特殊な現象を起こす。そのため、巨核球では染色体を包む核が肥大化しており、他の赤血球、白血球等の血球細胞に比べて形が巨大で数が少ない (血球細胞全体でわずか 0.02%)。 続いて、巨核球は、糸状の細長い突起(胞体突起)をつくり、その突起には多くの膨らんだ部分(血小板)とくびれが出来る。この膨らんだ部分の間にできたくびれでちぎれて、一個の巨核球から何千個もの血小板が放出されるというダイナミックな形の変化を瞬時に遂げる。 先進国では、高齢化が社会問題となっており、高脂血症、糖尿病、肥満などの生活習慣病の蔓延が懸念されている。これらの病気に共通することは、血液中のコレステロールなどの濃度が高くなると共に、血小板の凝集が相乗して血管が詰まる血栓症を併発し重大な病状に進展してしまうことである。よって、血小板を作るメカニズムを制御することは、重要な臨床的課題であると考えられてきた。しかし、血小板を作るメカニズムは、その基となる巨核球の数が生体内で極端に少ないうえ、分離・精製が困難で物理的操作に弱く壊れ易いという実験的な限界から未解明の領域として研究が遅々として進んでいなかった。 | ||||||||
研究の経緯および成果の概要 | ||||||||
このダイナミックな形態変化の引き金を見つけ、巨核球から血小板が作られるメカニズムを解明することを本研究の目的とした。 これまでの報告では、巨核球・赤血球に対して特異的な遺伝子の発現を調節する転写因子 (用語説明4参照) である p45 NF-E2 の活性化が、血小板放出をコントロールしていると言われていた。しかしながら、血球細胞全体でわずか 0.02%しか含まれていない巨核球を入手するのは困難を極め、転写因子p45 NF-E2の機能解明は遅々として進まなかった。 この困難を打開するため、永田研究者等はマウス胚性幹細胞 (ES細胞) から巨核球・血小板を大量に体外で作ることが出来る方法に着目した。この手法を用いることで、全てのステロイドホルモン合成の鍵となる酵素の遺伝子(3β-HSD)が、転写因子p45 NF-E2により活性化されていることを発見した。ステロイドホルモンの合成酵素が巨核球・血小板形成に関与すると考えたことから、3β-HSDの活性化により女性ホルモンであるエストラジオールが巨核球で合成され、かつエストラジオールの合成が引き金になって巨核球から血小板が放出されることを明らかにした。 また、男性・女性両方の巨核球において、3β-HSDの活性化がエストラジオールの合成に必要であることを決定づけた。マウスの巨核球に存在するエストラジオール受容体をブロックすると血小板放出が阻害されるが、エストラジオールを添加した場合には、通常より50%以上も胞体突起の形成が確認されることからも、エストラジオールが血小板の形成に重要な役割を果たすことが実証された。 これらの実証に基づき、永田研究者等は血小板が作られるメカニズムを次のように明らかにした(図2)。
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今後期待できる成果 | ||||||||
本研究の成果は、ステロイドホルモン合成の鍵となる酵素の活性または抑制する物質及びそれらの関連物質が、他の血球成分に影響を及ぼすことなく血小板を選択的に減少あるいは増加させ、体外循環や輸血が不必要なため感染の恐れもなくさらに副作用も少ない、種々の血小板疾患に有効な治療用組成物を提供できる可能性がある (特許出願済)。献血に頼るのみの現代社会では、少子化に伴って血液が不足する恐れがある。このことから、国内外では血液を作るための造血幹細胞を、体外で増殖させる技術が急ピッチで進んでいる。巨核球を増やす機能を持つトロンボポエチン等に加えて、血小板が必要な場合には、本研究より得られた知見をもとに、他人からの血液提供に頼ることなく必要な血液成分を供給できることが可能となる。 さらに本研究において、血小板の放出は、巨核球で合成されるエストラジオールが制御していることを明らかにした点は、性ホルモンの概念を変え環境ホルモンの研究分野にも一石を投じることになる。これまで、性ホルモンは生殖器でのみ合成・分泌されると考えられ、環境ホルモンの人体への影響を調査する研究は生殖器に対してのみ行われているが、今後、巨核球などの血液細胞を含めた幅広い組織への影響も調べなければならないことが分かった。 | ||||||||
【論文名】 | ||||||||
GENES & DEVELOPMENT : Proplatelet formation of megakaryocytes is triggered by autocrine-synthesized estradiol (巨核球の血小板放出は巨核球が合成するエストラジオールによって引き起こされる) | ||||||||
【研究領域等】 | ||||||||
戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけタイプ) 「認識と形成」研究領域 (研究総括:江口 吾朗)
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