平成15年9月12日

シリコン同位体で色分けされたナノクラスターによる新ナノデバイス創生の可能性

− 超伝導から量子コンピュータまで −

大阪市立大学
慶應義塾大学
名古屋大学
広島大学
科学技術振興事業団
(財)高輝度光科学研究センター
 大阪市立大学・谷垣勝己教授グループ、慶應義塾大学・伊藤公平助教授グループ、名古屋大学・守友浩助教授グループ、広島大学・山中昭司教授グループは、シリコン(Si)のナノクラスターからなる超伝導物質について、構成原子のSi(原子量28)を質量数が異なる同位体Si(原子量30)に置き換えて、全く同じ原子配列をもつ物質の合成に世界で初めて成功し、超伝導転移温度が、Siの原子量を変えることにより変化することを確認するとともに、従来の超伝導理論であるBCS理論に従う超伝導体であることを明らかにした。
 類似の構造を持ち、炭素から構成されるフラーレン超伝導体がBCS理論に従うことは、同グループによって、炭素同位体(質量13)を用いた実験により既に確認されており、炭素とSiのナノクラスター系超伝導体のいずれもBCS機構であることを確認したと言える。
 これまでは、同位体Si原子をSiの塊から分離精製することは非常に難しく、今回のような研究は困難と考えられていたが、半導体材料の同位体工学の進展により高純度の同位体の分離生成が可能となり、Si同位体だけによる同一物質の合成の成功に結びついたと言える。
 今回、大型放射光施設(SPring-8)においては、すべてのSi原子が同位体Siに入れ替えられたことを、世界最高の明るさを持つX線により明らかにしたものである。
 本研究の成果は、単に、Siクラスターやフラーレン分子を構成単位とする物質の超伝導の機構を明らかにするだけでなく、これらの物質をベースとする高い超伝導転移温度を持つ、新材料のデザインへの指針を与えるものとなることが期待される。また、Si半導体デバイス中に、同じ構造であるが、原子量で色分けされ、異なる性質を持つクラスター物質をナノスケールで配置することは、量子コンピュータを、全てSi半導体を用いて作り出すための道を開くものとも言える。
 本研究は、科学技術振興事業団の戦略的創造研究推進事業の一環として行われた。また、SPring-8での実験は文部科学省のナノテクノロジー総合支援プロジェクトの支援を受けて粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2で実施された。
 この成果は英国科学雑誌Nature Materialsの9月14日号に掲載される(論文題 "Mechanism of superconductivity in the polyhedral-network compound Ba8Si46" 「多面体ネットワーク物質Ba8Si46の超伝導体機構」 doi :10.1038/nmat981)。

 1992年に、谷垣教授らの研究グループは、炭素系ナノ多面体クラスター超伝導体(用語1)である60物質(用語2)の超伝導機構を同位体効果に基づいて解明する実験に成功している(Nature355, 620-621(1992)に掲載済み)が、1990年代の同時期に発見されたシリコン(Si)多面体超伝導体(用語3)に関しては、高純度のSi同位体が得られず、超伝導機構を解明するために重要な同位体効果の実験をすることが困難であった。
 今回、大阪市立大学・谷垣勝己教授グループ、慶應義塾大学・伊藤公平助教授グループ、名古屋大学・守友浩助教授グループ、広島大学・山中昭司教授グループは、Siのナノクラスターから構成される超伝導物質について、構成原子のSi(原子量28)を質量数が異なる同位体 Si(原子量30)に置き換えて、全く同じ原子配列をもつ物質の合成に世界で初めて成功し、超伝導転移温度(用語4)が、Siの原子量を変えることによって変化することを確認した。
 ナノクラスターとSi半導体同位体工学を融合して得られた新しい同位体物質の構造を精密に決定するために、大型放射光施設(SPring-8)における世界最高の輝度のX線を用いて構造解析を行った。この結果、全ての原子量28のSi原子が原子量30の同位体Si原子に置き換えられたことが確認された。合成された物質を用いて確認された超伝導同位体効果(用語5)の実験結果を詳細に解釈することにより、Siナノクラスター超伝導体は、フォノン(用語6)を介在とするBCS理論(用語7)に従う超伝導体であることが明らかになった。1992年の13Cならびに今回の30 Siを用いた超伝導同位体効果の実験により、20世紀に発見された2種類のナノクラスター超伝導体の機構は、BCS理論で説明できることが明確にされたと言える。
 これまでは、同位体Si原子をSiの塊から高純度に分離精製することは非常に難しく、今回のような研究は困難と考えられていた。しかし、半導体材料の同位体工学の進展により高純度の同位体の分離生成が可能となり、純粋なSi同位体だけによる同一物質の合成の成功に結びついた。今回の成果は、単に、Siクラスターやフラーレン分子を構成単位とする物質の超伝導の機構を明らかにするだけでなく、これらの物質をベースとする高い超伝導転移温度を持つ、新材料のデザインへの指針を与える。また、Si半導体デバイス中に、同じ構造であるが、原子量で色分けされ、異なる性質を持つクラスター物質をナノスケールで配置することは、量子コンピュータ(用語8)を全てSi半導体を用いて作り出すための道を開くものとも言える。
 純粋に分離された同位体元素(用語9)から合成されるナノクラスター物質は、図1に示す種々の同位体クラスタネットワークから構成され、下記の特徴を有する。

1) 同位体半導体元素(用語10)を高度に制御した構造を有する純粋な多面体ネットワークを有する。
2) ナノ多面体空間に種々の元素を導入することができる。
3) 種々の多面体を組み合わせることにより、半導体から超伝導体まで様々な物質を創生することができる。


この研究での意義は、Si半導体同位体工学(用語11)の適用により、図2に示すように、純粋に分離された同位体元素を含むナノクラスター物質を、創り分けることができるようになったことである。今後、同じSiで長年にわたって蓄積された半導体デバイス技術と合体させることにより、同位体元素を使って創り分けた固体素子を規則的に並べ、次世代のナノ電子素子をデザインすることが可能となる(図3)ことにより、現在、様々なアイデアに基づいて研究が行われている量子コンピュータの開発を加速することにつながると考えられる。

 本研究は、科学技術振興事業団の戦略的創造研究推進事業の一環として行われた。また、SPring-8での実験は文部科学省のナノテクノロジー総合支援プロジェクトの支援を受けて粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2で実施された。

○用語解説
図1.同位体元素で作られるナノクラスター固体
図2.シリコン同位体30Siおよび28Siを利用したナノクラスター物質
図3.同位体シリコンナノクラスター固体で作製される電子デバイス素子

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問い合わせ先:
大阪市立大学理学研究科 物質科学
教授   谷垣 勝己
Tel: 06-6605-2558
Fax: 06-6690-5563

慶應義塾大学理工学部物理情報工学科
助教授   伊藤 公平
Tel: 045-566-1594(ダイヤルイン)
Fax: 045-566-1587

科学技術振興事業団 特別プロジェクト室
調査役   古旗 憲一
Tel: 048-226-5623
Fax: 048-226-5703

(財)高輝度光科学研究センター
広報部長   原 雅弘
Tel: 0791-58-2785
Fax: 0791-58-2786

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