準結晶固体中の局所的な熱振動異常の直接観察に成功- 電子顕微鏡によるナノ領域計測の更なる可能性 -
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1.研究の背景 | ||||||
電子顕微鏡は固体物質中の原子配列を直接観察できるため、局所的な欠陥構造など周期を持たないような領域の原子の配列を知るための最有力手法である。近年の技術的な発展により、原子レベルのオーダー(~0.1nm)まで電子ビームを細く絞り込むことが可能となった。これを走査プローブとして用いる走査透過電子顕微鏡法(STEM)は、従来の高分解能電子顕微鏡法とは原理的に異なるプロセスで原子像を得るため、これまで得られなかった局所構造情報取得の可能性が見込まれていた。 準結晶は、通常の結晶のような周期性を持たないが、準周期とよばれる長距離秩序を持つ奇妙な固体である。理論的に、フェイゾンと呼ばれる準結晶特有の局所的な熱ゆらぎ現象が予測されていたが、準結晶固体中の「どこ」でそのような現象が顕著になるのか、といった実空間分布に関する情報は得られていなかった。フェイゾン挙動の解明は、準結晶のような奇妙な構造がなぜ安定になれるのか、という本質的な問いに対する答えに直接結びつくと考えられている。 |
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2.今回の研究成果 | ||||||
今回、環状暗視野検出器と組み合わせたSTEM(環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(ADF-STEM)と呼ばれる)(図1)を用いて、アルミニウム・ニッケル・コバルトの化合物である準結晶固体の原子像を、室温(約20℃)と高温(約830℃)で撮影した。その結果、高温状態ではある特定の位置での像強度が著しく上昇することが判明した(図2)。詳細な検討により、この強度上昇は、これらの位置におけるアルミニウムの原子振動振幅が(相対的に)異常に大きくなっていると考えるとよく説明できることが分かった。周期性・非周期性を問わず、固体中の局所的な熱振動異常を直接観察した初めての例である。 さらに、これらの特定のアルミニウム原子における局所的な熱振動異常は、フェイゾンゆらぎとして解釈が可能であることも併せて示され、準結晶中のフェイゾンゆらぎを原子レベルで直接捉えた最初の例ともなった。 |
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3.研究の意義と今後の展開 | ||||||
今回の研究結果は、電子顕微鏡が固体中の原子配列のみならず、その熱振動などに起因する極微小変位までも捉えることが可能であることを示した。局所的な振動異常や微小歪みは、その物質の物理特性を直接支配する因子となるため、ナノレベルで微細構造制御された材料の新たな特性評価法としての展開がおおいに期待される。 また、今回得られたフェイゾンゆらぎの実空間分布の情報は、準結晶構造の安定性に関する理論的、実験的側面からの議論に新たな展開を促すものと考えられる。 |
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用語説明 | ||||||
1.準結晶 2.熱振動 |
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This page updated on January 23, 2003
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