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科 学 技 術 振 興 事 業 団
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「高温超伝導発現に関わる反磁性ドメインの発見」
−高温超伝導発現機構解明に重要な手がかり−

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「異方的超伝導体の量子効果と新電磁波機能発現」(研究代表者:井口家成 東京工業大学教授)で進めている研究において、高温超伝導状態の前駆状態である反磁性ドメイン(反磁性を示す領域)の直接観測にはじめて成功した。この発見は、高温超伝導体の超伝導状態がいかにして実現されるか、その正体を明らかにし、これまで謎につつまれてきた高温超伝導体の超伝導機構の解明に大きく貢献する。なおこの研究成果は7月26日付けの英国科学雑誌「ネイチャー」に発表される。

 金属など従来の低温超伝導体の場合は、バーデイン、クーパー、シュリーファーが1957年発表したBCS理論によってほとんどが矛盾なく説明できる。この理論では、超伝導転移温度Tc以下になると、電子間に格子振動を媒介として引力がはたらき電子の対(クーパー対)が出現し、これらのクーパー対が一つの量子状態に凝縮する。このクーパー対集団が、位相のそろった(コヒーレント)波として運動することによって超伝導電流が生じるとするものである。

 しかし、1986年ベドノルツとミューラーによって発見された酸化物高温超伝導体は、その発見以来15年を経て、近年、超伝導マグネット、超伝導エレクトロニクスなどへの応用が徐々に始まっているものの、その超伝導発現機構はほとんど解明されていない。超伝導転移温度以下では磁化が印加磁場と反対方向をとる反磁性を示すことは実証されているが、高温から温度を下げていったときに超伝導転移温度までの間の常伝導状態に超伝導発現の前駆状態と係わるとされる異常な性質が次々と見出されるており、多くの理論が発表されているが、これらの理論を裏付ける実験がない。このメカニズムの解明は、室温でも超伝導となる室温超伝導材料開発につながる手がかりにもなるものとして、極めて重要な課題となっている。

 本研究では、新しい走査スクイド顕微鏡(超伝導素子を磁気センサーとして使った顕微鏡)を用い、高温超伝導体がどのようにして超伝導状態を実現していくのかを顕微鏡像ではじめて捉えることに成功した。走査スクイド顕微鏡は空間的に分布する微小磁気を捉えることができる。試料の高温超伝導体にはドーピングキャリアの少ないランタンストロンチウムの酸化物(La2-xSrxCuO4 , x〜0.1)薄膜を用いた。このような試料では超伝導前駆状態がTc以上の広い温度範囲に亘り存在する。注意深い観測の結果、超伝導前駆状態は、スクイド顕微鏡像では反磁性ドメインとして出現した。図1は3Kおよび25Kにおけるスクイド顕微鏡像である。3Kでは超伝導状態を示す量子磁束が観測されたのに対し、Tc以上の25Kでは平らな反磁性ドメインが出現した。Tc(=18K)よりずっと高い温度80Kでも既に小さな反磁性ドメインの芽が出現するのが確認された。温度を下げるにしたがい、その芽が成長して50K近傍では数10μm程度の島となり、やがてこの島同士も互いに繋がって大きなドメインを形成した。このドメインがさらに成長し全検出領域を覆う程度になったとき、超伝導状態が出現した。また特有な量子磁束も現れた。この様子は図2に示したとおりである。反磁性ドメインが連続的に超伝導状態に移行したことを考えると、反磁性ドメインは超伝導状態の前駆状態であるといえる。この観測の結果は理論の考え方に大きな影響を与えるものである。超伝導前駆状態が空間的に島状のドメインとなって現れる事実は、超伝導の系を一様と考えるアプローチ(多くの理論で取り入れられている)では説明できない。反磁性ドメインはまだクーパー対がコヒーレント状態にないことによるものと判断される。本実験結果より、今後急速に新しい超伝導メカニズムの理論が構築されることが期待されよう。また、Tc以上の温度における反磁性ドメインの出現の様子を調べることにより、室温超伝導に至る新しい超伝導材料の開発にも寄与できるものと思われる。

本件問い合わせ先:
   (研究内容について)
      井口 家成(いぐち いえなり)
      東京工業大学理工学研究科
      〒152-8551 目黒区大岡山2−12−1
      TEL:03-5734-2456
      FAX:03-5734-2751

   (事業について)
      小原 英雄(おはら ひでお)
      科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部
              研究推進部 戦略研究課 課長
      〒332-0012 川口市本町4−1−8
      TEL:048-226-5635
      FAX:048-226-1164

This page updated on July 26, 2001

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