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科学技術振興事業団
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「脳虚血時におけるイオンチャネルのけいれん防御の働きを解明」

 科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「細胞容積調整の分子メカニズムとその破綻防御」(研究代表者:岡田 泰伸 岡崎国立共同研究機構生理学研究所教授)で進めている研究の一環として、脳の特に黒質網様部で働くイオンチャネル(注1)の一種であるATP感受性カリウムチャネルが脳虚血時の全身けいれん抑制に極めて重要であることを解明した。この研究成果は、秋田大学医学部生理学第一講座の稲垣暢也教授らによって得られたもので、平成13年5月25日付の米国科学雑誌「サイエンス」で発表される。

 ATP感受性カリウムチャネルは細胞内のATP(注2)濃度によって開閉が調節されるイオンチャネルであり、従って細胞内の代謝レベルを細胞活動に反映させる重要な分子である。例えば、ATP感受性カリウムチャネルは膵臓のβ細胞(注3)において血糖のセンサーとして機能し、血糖上昇時に膵β細胞細胞内のATPレベルが上昇すると、このチャネルが閉じてインスリン分泌が起きる。また、ATP感受性カリウムチャネルは経口糖尿病薬(注4)の作用標的でもある。一方、ATP感受性カリウムチャネルが脳の特に黒質網様部(注5)という領域に多量に発現していること、また黒質網様部が様々なけいれん発作の制御に重要な部位であること、がこれまでに知られていたが、黒質網様部におけるATP感受性カリウムチャネルの役割については不明であった。

 そこで、ATP感受性カリウムチャネルを欠損したマウスはすでに千葉大学大学院医学研究院先端応用医学部門の清野 進教授らにより作成されていたが、このマウスを用いて黒質網様部のATP感受性カリウムチャネルの役割について研究を行った。

 まずATP感受性カリウムチャネル欠損マウスは、低酸素の条件下では著しく全身けいれんを起こしやすいことを明らかにした。その原因として、正常マウスでは低酸素条件下においては細胞内ATPが枯渇するために、黒質網様部のATP感受性カリウムチャネルが開き、その結果神経細胞の興奮が抑制されるのに対して、欠損マウスではそのような防御機構が働かないためであるということを明らかにすることができた。

 今回の成果はこれまで推定はされてきたが厳密に検証することができなかったATP感受性カリウムチャネルの虚血時における生体防御の役割を初めて解明した点で評価されたと思われる。

 この研究成果はけいれん発症のメカニズムを明らかにする上で重要であるだけでなく、脳血管障害や低酸素、低血糖などの脳虚血に伴う脳障害を軽減する治療に道筋をつける可能性があると思われる。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
  研究領域:生体防御のメカニズム(研究統括:橋本 嘉幸 (財)佐々木研究所 所長)
  研究期間:平成9年度-平成14年度


注1 細胞膜に存在し、膜を貫いてイオンを通すことができる蛋白質。特にカリウムイオンだけ通すことができるイオンチャネルをカリウムチャネルとよぶ。
注2 細胞のエネルギー源。糖質や蛋白質、脂肪から合成される。
注3 膵臓に存在する細胞で、血糖が高くなるとインスリンとよばれるホルモンを分泌する。このホルモンの分泌が悪くなると糖尿病をきたす。
注4 糖尿病の治療目的で用いられる血糖を下げる作用を持つ薬剤。ここでは、特に我が国で最もよく用いられるスルホニル尿素剤を指す。
注5 脳には様々な神経細胞の集団である神経核とよばれる領域が存在する。黒質もそのような神経核の一つである。黒質は黒質緻密部と網様部に分かれ、黒質緻密部は特にパーキンソン病と関連している。
本件問い合わせ先:
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      稲垣暢也(いながき のぶや)
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        E_mail:inagaki@med.akita-u.ac.jp

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This page updated on May 25, 2001

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