平成13年4月18日 埼玉県川口市本町4-1-8 科学技術振興事業団 電話(048)-226-5606(総務部広報室) |
科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「一方向性反応のプログラミング基盤」(研究代表者:木下一彦
慶應義塾大学 教授)で進めている研究の一環として、安田涼平研究員(慶應義塾大学訪問研究員兼務)らは、東工大、浜松ホトニクス(株)と共同で、F1(エフ・ワン)という名前の、たんぱく質分子たった1個でできた世界最小の回転モーターが動く仕掛けを明らかにした。この研究成果は、4月19日付の英国科学雑誌「ネーチャー」で発表される。
本研究は、1分子で機械的な運動・機能を発揮する蛋白質分子機械(分子があたかも機械のように、設計されたとおりの機械的な運動を行うもの)が、どのように働くのか、1分子内で何が起きているかを、光学顕微鏡の下で、直接見て、操作することにより研究し、そのメカニズムを解明することをめざしている。
生体内のエネルギー源であるATPは、ATP合成酵素によって合成される。この酵素は、F1,F0,およびそれをつなぐ軸という3つの機能単位から構成されているが、ATPを合成したり、分解したりする機能は、F1が担っている。F1は、その分子の回転方向を変えることにより、1つの分子でATPの合成・分解の2つの役割を果たしていることは分かっていたが、ATPの分解という化学反応がどのようにして回転を起こすのか、あるいは逆に回転がどのようにしてATPの合成反応を引き起こすのか、ということが解明されていなかった。安田研究員らは、今回、F1分子の詳細な動きを観察できたことにより、そのしくみを解明できたことになる。
ガラス表面に付けたF1モーターの中で、赤で示した回転軸が回るのを観察するため、回転軸に、糊の役目をするたんぱく質分子を介して金の微粒子を付ける(図1)。図のように金粒子が斜めに付くと、回転につれ金粒子が円運動する。この円運動を観察するため、光学顕微鏡下に置き、毎秒8千駒の超高速カメラで回転を撮影したところ、白く見える金粒子の像が、黒い枠の中で微妙に動くことが観察できた(図2)。驚くべきことに、この平均回転速度は毎分8千回転(レーシングカーのエンジンなみ)、瞬間速度はなんと毎分10万回転(人間の作るモーターの最高速度)を越える速度で回転していることが分かった。
この回転の仕方をよく観察してみると、その動きはスムースでなく、角度にして90度パッと回って少し休み、30度回ってまた休み、を繰り返すステッパーモーターで、パッと回るときの速度が毎分10万回転以上であることがわかった。さらに、90度のステップは、ATPがF1に結合することによって駆動され、30度ステップはATPの分解産物がF1から離れるときに駆動されることが分かった。
今回の成果は、その回転の観測に成功したことにより、この回転運動の各ステップを駆動する力がどのように発生しているのかを明らかにしたことにある。このことで、生体内に存在している、他の多くのたんぱく質分子機械の動作原理も結合・解離にあるのではないかと推察できた。今後は、タンパク質分子機械の研究をより進めることにより、人工筋肉の研究や、人工的な微小モーターの設計が期待される。
本件問い合わせ先: (研究内容について) 木下一彦(きのした かずひこ) 岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター [連絡先] 〒216-0001 神奈川県川崎市宮前区野川907 帝京大学生物工学センター3F TEL:044-750-1711 FAX:044-750-1712 (事業について) 小原英雄(おはら ひでお) 科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部 研究推進部 〒332-0012 川口市本町4-1-8 TEL:048-226-5635 FAX:048-226-1164 |
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