平成13年3月9日 埼玉県川口市本町4-1-8 科学技術振興事業団 電話(048)-226-5606(総務部広報担当) |
科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ 「脳型情報処理システムのための視覚情報処理プロセッサの開発」(研究代表者:小柳 光正
東北大学大学院工学研究科 教授)で進めている研究の一環として、人間の網膜と同じような積層構造を有する人工網膜チップの試作に世界で初めて成功した。
これまで、半導体デバイスの集積化技術などの進歩によって、コンピューターの数値計算や記号処理の速度が格段に高速化されてきたが、画像や音声、図形や文字に対する認識能力は人間に比べると格段に劣っており、人間の認識能力に匹敵するような情報処理能力を有するコンピュータの実現が待たれていた。このような課題を解決するためには、これまでの計算論理やアルゴリズムに従ってコンピュータを改善するだけでは難しく、生理学的な研究などによって明かにされたメカニズムを取り入れた新しい脳型情報処理システムの構築が必要であった。
今回開発した網膜チップは、小柳教授が新しく開発した3次元集積化技術を用いて、人間の網膜に近い構造と機能をもっており、通常の画像処理では、実現できないような超高速の画像処理(画像の輪郭協調、平滑処理)が可能なものなっている。最上層に視細胞に相当する光センサを、第2層に双極細胞に相当する回路、水平細胞に相当する回路、アマクリン細胞に相当する回路、第3層に神経節細胞に相当する回路が配置してあり、網膜と同じように光入力信号に対してパルス状の信号が出力可能である。
小柳教授は、これまで将来の新しい脳型情報処理システムの実現を目指して、その前段部となる視覚情報処理プロセッサの開発を行ってきたが、今回の3次元積層型人工網膜チップは、このような視覚情報処理プロセッサの入力部となるものである。さらに、網膜と同じように多層の積層構造を持ち、方位(角度)検出機能を有する第1次視覚野(脳内に存在する視覚野)に似た機能をもつV1チップや、視覚情報処理で重要なサッカード機能(衝動性眼球運動といい、見たものを追跡する働きを持つ眼球運動)を実現するためのチップの開発にも目処がついているところである。
今後は、脳の後頭部にあって、より高度な視覚情報処理を行っている視覚野の機能 も、3次元集積化技術を用いて実現しようとしており、本研究が進めば、将来は、このような視覚情報処理プロセッサをロボットの目として使うことが考えられる。今回開発した3次元積層型人工網膜チップが、人間の網膜に似たパルス状の信号を出力することも可能であることから、人間の眼への直接埋め込み(チップインプランテーション)に期待がもたれる。
なお、この研究成果は、2月5日~2月7日にサンフランシスコで開催された国際固体回路会議(International Solid-State Circuits Conference:ISSCC
2001)で発表されたものである。
この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。 研究領域:脳を創る(研究統括:甘利 俊一 理化学研究所 グループディレクター) 研究期間:平成9年度-平成14年度 |
本件問い合わせ先: (研究内容について) 小柳 光正(こやなぎ みつまさ) 東北大学大学院工学研究科 〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉01 TEL:022-217-6906 FAX:022-217-6907 (事業について) 石田秋生(いしだ あきお) 科学技術振興事業団 基礎研究推進部 〒332-0012 川口市本町4-1-8 TEL:048-226-5635 FAX:048-226-1164 |
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