(お知らせ)
平成13年2月27日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団
電話(048)-226-5606(総務部広報担当)

「光により駆動する分子結晶ナノアクチュエーター」

 科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)は、戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「完全フォトクロミック反応系の構築」(研究代表者:入江 正浩 九州大学大学院工学研究院教授)で進めている研究の一環として、フォトクロミック(光の照射により色が変化する)分子結晶が、適切な波長の光を当てることにより1ナノメートルの精度で収縮、伸長することを見出した。この分子結晶(注1)は、光によりナノメートル精度で位置決めができる光駆動装置(光アクチュエーター)への応用の可能性を秘めている。この研究成果は、九州大学大学院工学研究院の入江正浩教授、小畠誠也助手、修士課程学生堀地昌志氏によって得られたものであり、3月2日付けの米国科学雑誌「Science」で発表される。
 フォトクロミズムとは、光を受けることにより物質の色が可逆に変化する現象を言う。これまで多くのフォトクロミズムを示す物質が報告されてきているが、いずれも溶液中あるいは柔らかいプラスチックフィルム中においてのみ色変化を示し、分子が密に規則正しく配置している堅い結晶状態において安定に色変化を示す物質は知られていなかった。入江らは、オプトエレクトロニクス(光学・電子工学)分野への応用をめざした有機フォトクロミック物質の研究の過程において、堅い単結晶状態(注2)においても色変化を示す一群の化合物(ジアリールエテンと称する)を見出し、その基礎と応用に関する研究をすすめている。これらの化合物からなる単結晶(無色の氷砂糖によく似ている)は、紫外光を受けると、それぞれ黄色、赤色、青色、緑色に変化し、可視域の光を受けると元の無色に戻る。着色した状態は非常に安定で、色はいつまでも消えることなく長期間(三十度において千九百年)保存することができる。結晶であるがために、これらのフォトクロミック分子結晶は、高感度性、高速応答性(一兆分の一秒で光着色、光退色する)をもち、また一万回以上の光着色や光退色を繰り返しても劣化することはない。そのため、将来の超高密度光メモリ材料、光スイッチ材料などのオプトエレクトロニクス分野への応用が期待されている。
 これらの分子結晶の色変化は、分子が光を受けることによりその構造を変化させることによる。本研究において用いられた分子は、紫外光を受けると青く着色するが、それとともに分子の長さがわずか短くなる。可視域の光を受けると青色は消え、それとともに分子は元の長さに戻る。この性質をもつ分子が密に集まった単結晶により分子結晶ナノアクチュエーターは構成されている。紫外光/可視光の光を受けて分子が収縮/伸長すると、単結晶自身の長さも光収縮/光伸長すると予測される。実際、この単結晶に紫外光を当てると、単結晶は最初その長さを分子1層分に相当する1ナノメートル分だけ収縮し、照射を続けると2ナノメートル、3ナノメートルと徐々に収縮していくことが、原子間力顕微鏡(注3)を用いて確認された。収縮は、いつも1ナノメートルの倍数で変化した。収縮した単結晶は、可視域の光を照射すると再び元の長さに回復した。これは、結晶中の分子が可視光により元の長さに戻ったことを反映している。1オングストローム(1/10ナノメートル)以下のごく僅かの分子の構造変化が、バルクの単結晶の形状変化に直接反映されたことになる。この分子結晶ナノアクチュエーターは、ナノメートルスケールの長さの変化を、当てる光の波長を変えることにより制御できることから、光によりナノメートル精度で位置決めができる光駆動装置(光アクチュエーター)への応用の可能性をもつ。有機化合物であることから、その化学修飾(注4)は容易であり、長さ、感度などの異なった種々の光アクチュエーターをつくることが出来るようになると思われる。

注1 分子結晶:有機分子から構成されている結晶。
注2 単結晶:構成している分子が結晶全体にわたり規則的に配置している結晶。大きさは、この場合数ミリメートル立方程度。小さな結晶の集まりである微結晶と区別される。
注3 原子間力顕微鏡:分子レベルの分解能をもつ表面粗さ計測装置。
注4 化学修飾:化学試薬を結合させることにより物質の特定部位を化学的に変化させること。
本件問い合わせ先:

(研究内容について)
   入江 正浩(いりえ まさひろ)
      九州大学大学院工学研究院応用化学部門
      〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1
      電話:092-642-3556
      Fax : 092-642-3568

(事業について)
   石田 秋生(いしだ あきお)
      科学技術振興事業団 基礎研究推進部
      〒332-0012 川口市本町4−1−8
      TEL:048-226-5635
      FAX:048-226-1164

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